餌巻き作戦。〜その9 宰相2〜
「私は何かお手伝いする事はありませんか?」
「ん?うーん……こちらとしても秘密裏に動くつもりではいるが、捕物になった場合、野次馬貴族を押さえ込んで欲しい、かなぁ。何人居るのかも把握していないので、殺気を放ったヤツは、きっとまたシャルルを見掛けたら動くと思われる。そいつを捕まえて吐かせようと思ってるんだ」
「そう、ですね……。今の今まで不審者の報告もありませんでしたので、正直、どうしたらいいのか分かりません」
はははっ
「まぁそうだろうな。不審者が居たら近衛や影が黙っちゃいないだろう。なので、賭けでもあるからな」
「折しもフェスタリオスの前で、魔術師団は動けない時ですし」
「うむ。祭りで貴族が浮き足立ってる今だから、城内を闊歩出来ると思ってるよ」
「せめて、ご免状は周知徹底させます」
「あぁ!それはありがたい!それが1番の手助けだよ。ついでに茶会やパーティー、食事の誘いも受けない旨を周知してくれ。無論、危険だからと言う理由な」
「はい。必ず。それでも何か言うような者がおりましたら、ご連絡下さいませ」
「相分かった。頼むな」
「御意。それとメイドが少ないように思われますが、ご不便はありませんか?」
「えぇ、この子達はよく動いてくれるので助かってるの。お気遣いどうも」
ふふっ
「今日はありがとう。また機会があれば茶会に招くよ」
「お話を聞いてくれてありがとう。何れまた」
「ありがたきお言葉。シャルル様、どうかご無事で。では、御前失礼致します」
◇◇◇
「「ふぅぅぅぅ……」あー、疲れた」
「これで歩き回れるね!」
「シャルルが危険なのに、なんでシャルルが1番やる気なの」
「え?ジークと居る時のわたしは無敵だよ!絶対負けない!」
ふんすっ!
はははっ
「まぁ、歩き回るのは明日からね?今日はもう殆どの貴族はパーティーの支度中だからね」
ん?あぁそうか、もう夕方だもんね。
「分かった。もう着替えても大丈夫かな」
「うん、もう出ないし、着替えるか。カレラ」
「はい!シャルル様のお着替えですね!湯浴みは如何致しますか?」
お風呂!
「入りたい!」
「俺も!」
「「えっ!?」ジークフリード様も?シャルル様と一緒に?」
「そうだよ?いつも一緒に入るもん。なー」
ひゃぁぁ!ここで言わなくても!
「あらぁ、シャルル様真っ赤ですよ?了解しました!ご用意致しますね!本日の晩餐はわたくし達がご用意致します!」
うふふふふふ
「ジークったら!今日は”ゆっくり”の日だよ!?」
「大丈夫、風呂ではシない」
風呂では!?風呂じゃなかったら!?
「……」
にっこり
「”ゆっくり”だからね!?」
「分かってるよー」
はははっ
◇◇◇
【宰相】
まさか、襲撃犯が城に居るとは……。
一体誰なんだ?
しかも狙いはシャルル様。
シャルル様、あれで平民だと?
あの身のこなし、話し方、立ち居振る舞い。
茶器を持つ手も、貴族そのものじゃないか。
一朝一夕で身に付けられる筈がない。
何より美しい……。
何処かの貴族の落胤と言われても納得出来るな……。
いや、あの美しい髪の色の貴族は居ないし、その線はないだろう。
市井でも珍しいはず。
貴族であれば、殿下の嫁でもいけたのになー!
っと、不味い、声に出てなかったよな!?
万が一、こんな事聞かれてジークフリード様の耳に入ったら殺されるわ。
とりあえず、ご免状の周知徹底と陛下にご報告しておかないと。
はらり……
ぬぁ!?また!!
もう厄介事は勘弁してくれ!!
◇◇◇
【リリアとカレラ】
「ただいま戻りました」
「リリア!お帰り!」
「え?どうしたの?ご機嫌ね」
「シャルル様がね、宰相の前で私達を褒めて下さったの!」
「ん?」
「メイドが少ないって、また言われたのよ。でもこの子達はよく動いてくれるって!」
「シャルル様はちゃんと見てくれるのねぇ。本当に素晴らしい方だわ」
「ねー!……で、守備は?」
「亡くなったメイドは城付きで、下っ端の下っ端、まだ登城して3ヶ月ちょっとの新人ちゃんだったらしいわよ」
「右も左も分からないから、貴族に言われたまま従っちゃったのかしら」
「恐らく。知り合いも少なかったから、情報も殆どないのよ」
「まさか、それを把握してた?」
「……だとしたら、長きにわたり城に居る貴族って事になるわよ。見た事のない城付きメイドは新規だって知ってるって事だもの」
「うわぁ……これは慎重にならざるを得ないわね。城に長く居るのは古参ばかりだし」
「で、おふたりは?」
うふふふふ♪
「仲良く湯浴み!」
「んまっ!仲良し!晩餐、宮廷料理長から持たされたの、今日はそれが正解ね!」
「「うふふふふ♡」」
◇◇◇
かぽーんこーん(お風呂のイメージ音)
「ふわぁ……」
「城に来て宰相と話しただけなのに、疲れたなー」
「慣れない行動だからねぇ……でも始まったばかりだよ」
「さっさと釣られて出てくればいいんだけどな」
「うん。明日からはデンタツと気配探知を使う」
「え!?両方いける!?」
そこにマップも入るけどね!
「いけるよー。使わないと害意が分からないかもだからね。頑張る!あ、ジークはデンタツだけにしてね?いざとなった時、ジークが魔法使えないと困るから」
「害意が分かるのはシャルルだけだもんな。分かった。厳しいと思ったら申告するんだよ?」
「うん!パパの所にも、クリスティアンお兄様の所にも行かないとね」
「めんどーだけどしゃーない。歩き回るついでだな」
くすくすっ




