閑話 宰相ホーエン・カルバンの独り言。
このお話の前に本編があります。
「なっ!ななななんと!ジークフリード様が!この社交シーズンに城に滞在なされると!?これは!やっと!社交される気になったと言う事か!?こうしちゃいられん!」
私は宰相、ホーエン・カルバンである。
ワガママな王に仕えて早うん十年。
頭の痛い出来事ばかりで、額が後退した気がする。
いや、まだまだ大丈夫だ。
え?当然自分の額が、だ。
陛下がジークフリード様の婚姻祝いに”権利”の贈り物をした事は記憶に新しい。
大臣たちに説明した時は大変だった……。
◇◇◇
「「「はぁ!?」」」
「あー、まぁ、その気持ちは分かる」
「じゃあもう祝儀議会は必要ないって事で、その代わり今後はどのように接するかの議会が必要って事ですよね?」
「いやいや、それだけではありませんぞ?秋のお披露目!まだ日程が決まってないではないですか!」
「それもそうですなぁ……」
うーん……
初っ端から、総務、財務、外務、それぞれの大臣へジークフリード様への婚姻祝いは終わった報告をしたため、責められた感じで始まりました。
まぁいつもの事です。
「今後の接し方と言いましても、陛下が不干渉の権利を授けられたので、我々は何も出来ませんぞ。今の所、秋のお披露目だけはエイプリルご夫妻の了承を得ておりますが、それ以外は無理ですよ」
「ですが!SSランクですよ!?前に褒賞議会の時に国交まで断る始末!国の為に何もしないとは!」
あー……ここにも居たわ。
私と同じ考えする人。
「それについて陛下より賜ったお言葉がある。ジークフリード様は、既に国の為に最下層へ赴き航路を拓かれた。死地からの生還は奇跡だ。もう既にSSランクの使命を果たされているので、今後これ以上枷は付けるな、と仰られた。私も同感だ」
「ぐっ……!た、確かにそうではありますが……」
「こうも仰られた。そこに居るから何かをさせたくなるが、功績を鑑みてやってくれ、と」
「……甥御様には甘いですな」
ぴくっ
「その発言は取り消した方が良いぞ」
はっ!
「も、申し訳ない事でございます」
「ジークフリード様とシャルル様は、カーバンクル様に好かれておる。そして世界樹の花吹雪。万が一ご不興を買って、出奔されては敵わんとのご配慮もある。この国に居らっしゃるだけで国の為だからな」
「「それは確かに……」」
「……」
「不満か?財務大臣」
「いえ、不満などありません。が、国から給金も出して居るのです。それに見合った働きは必要なのでは、と」
「ならば航路が拓かれただけでは足りないのか?国の悲願を達成されたのだぞ!約1000年もの間、誰も成しえなかった悲願だ!……十分過ぎる働きではないか。なのにまだ何かさせようと言うのか?今後は、私達がエイプリルご夫妻に報いる番だ」
「それです、そのエイプリルご夫妻、そもそも奥方は最下層に同行されたと言いますが、ジークフリード様がフォローなさったから生還出来た訳ですよね?」
「だから給金は出しておらんだろう」
「はい。しかし、奥方だからと敬うのは如何なものかと……」
「あぁ、其方は選民意識があるのだな。平民だから敬うのが嫌なだけだろう?」
「……いえ、そういう理由では……」
「……情けない。陛下がいつも仰っているではないか、平民あっての貴族、貴族あっての平民。貴族は平民を守る立場だ、蔑むな、と」
「はぁ……まぁそうなのですが……」
「私の言葉にまだ納得出来ないようなら直接陛下に訴状しろ。そして、その発言は先日の襲撃を唆しているようにも聞こえるぞ」
「いえ!滅相もない!」
「ならば報告は以上だ。良きに計らえ」
「「「はっ!」」」
◇◇◇
と、まぁ想定内ではあったものの、やはり選民意識は無くせないものなんだと実感した次第だ。
私は選民意識はない。……いや、少しある。
今回、奥様もいらっしゃると言うが……。
正直、不安しかない。
部屋を用意するのだが、場所の選定に頭を悩ます。
ジークフリード様は、王に準ずる高位のお方だ。
当然、第4扉の中で滞在される事が望ましい。
しかし、奥方はハンターで平民。
……第4扉の中に入れても大丈夫なのか?
フランシア家で過ごす事も多いと聞くが、そもそもフランシア家が特殊だ。
懐に入ってしまえば、どんな粗野なヤツでも構わずに居るだろう。
うーーん……。
いやでも、謁見の時や授賞式の時を見れば、楚々とした振る舞いは出来そうだし、大丈夫かな。
ちらりと見たが、たいそう美しい女性ではあった。
面会予定もあるし、どんな話がされるのかと思うと……。
いやいや、大丈夫。大丈夫だ。
よし、部屋は宝珠の間にしよう。
客間の最上位だ。
何かあったら、後ろ盾のフランシア家に請求しよう。
「誰か!ジークフリード様が城に滞在なされる!宝珠の間を整えておけ!それから、超早便でフランシア家に手紙を届けろ!」
よし、準備万端!はぁぁぁ……
はらり……
あっ!私の髪が!!
あぁぁぁ……




