餌巻き作戦。〜その5 登城前日〜
翌日、げっそりとしたお兄様が仕事に行った。
パパとユージーンお兄様は帰って来なかった。
フェスタリオスまで、後ちょっとだからね。
月が変わったので、商業ギルドに卸すポーションは、ヘルベスさんがフランシア家まで取りに来た。
「態々すみません。ちょっと忙しくて……」
「気にしなくて大丈夫。本来であれば、SSランクの奥方に持って来てもらう方がおかしな事なんだから」
「今年のフェスタリオスも、うちで、と思ってたんですけど、先が読めなくて……」
はははっ
「それも気にしなくていいよ、きっとまたあのメンツで騒ぐだろうから、時間が合えばデンタツくれたら場所教えるし」
「ありがとうございます」
では、と帰って行くヘルベスさんを見送る。
うん、やれる事をやろう。
よし!
◇◇◇
登城するまでの3日間で、話し方レクチャーも受けた。
とは言え、完全にママの真似っ子だ。
ドレスの試着もした。
めっちゃキラキラしい!
「フロリア、急がせて悪いわね、ありがとう」
「いいえ、シャルル様、お美しいです!」
……知ってるよ?
お仕着せさん達が、生温い笑みを浮かべている事。
やっぱり話し方が変なのかなぁ?
聞いてみよ。
「あの、話し方変ですか?」
フロリアさんは、一瞬きょとん、として、慌てて、
「いいえ!変などではありませんよ?ただ、その、小さなキャロル様が居るようで微笑ましいだけでございます」
へ?ママ?あぁ!
「お手本がママ、お母様なので……」
「えぇえぇ、存じております。練習なさってる事も承知しておりますので、どうぞそのままで」
にっこり
子供が頑張って真似してるように見えてたのか……?
小さな、は余計だよぅ。
まぁ変じゃないならいっか。
「では、おかしな所があったら教えてね?」
「畏まりました」
あ、そう言えば、これ持って来てたんだ。
「このドレスは城で着ても大丈夫かしら?」
と、聖域で初めて開けたクローゼットに入ってたドレスをインベントリ偽造バッグから出す。
ピラピラキラキラの3着だ。
「確認させて頂きます。デザインは、無難でございますね。流行り廃れに影響が少ないタイプ。……うわ!素材が!」
慌ててクリーンを掛けるフロリアさん。
うわって言ったよ!うわって!
素材かー、確認してなかったよ。
「……シャルル様、このドレスはご着用頂けますが、素材が国宝級でございます。お式のドレスにも引けを取りません。もしもご着用されるのであれば、最善の注意を払ってご着用下さいませ」
え、そんなに!?
「このドレスを着て飲食などは……」
「いけません!」
ひょぇ!?
お式のドレスなんて、家に帰ってから半脱ぎでアレコレしちゃったけど!?
いやまぁ事後にクリーンはしたけどさ!
あ、何か素材について説明してる。
わたしの耳は右から左だけど。
「なので!飲食は絶対におやめ下さい!もし万が一、お茶会等のお誘いがあった場合は、細心の!細心のご注意をお願い致します!」
「分かりました!……ではフロリア作のドレスだけ着ます」
「分かって頂けて何よりです」
にっこり
まぁ神様から頂いたドレスだからねぇ。
まさかこんな日が来るとは思わなんだ。
結局は着ないけど。
フロリアさんが用意してくれたドレスは5着。
たった3日で仕上げたなんて!
お披露目のドレスを考えていた時に出した、デザインが元になっているのもあった。
ロマンティックチュチュ風のヤツだ。
夏なので、若干の肌見せもアリなのねー。
と言うか、お針子さん達の目の下、クマが凄い。
「あなた達、よく頑張ったわ!フランシアの誇りよ!」
と、ママが激励していた。
わたしはヒットとマナのポーションと焼き菓子をプレゼント。
「本当にありがとう。今夜はしっかり寝てくださいね」
お針子さん達のやり切ったー!って顔が印象的!
本当にありがたい。
ふふふっ
さぁ、後は餌になりに城に行くだけだ。
絶対に捕まえる!首を洗って待ってろ犯人!!
と、意気込んだものの、まだ宰相さんとの面会があるんだった。
今夜はパパも戻ると言うし、パパにも説明しとかんとな。
何日掛かるか分からんし。
……そもそも餌に食らいつくかな?
ダメダメ!食らい付かなかったら探し出すまでよ!
◇◇◇
「お父様、お帰りなさいませ」
パパ、がーーーーーん!
え?
「もう……もうパパとは呼んでくれないのかい?」
「えっ!?あの!違うんです!話し言葉の練習中なだけです!」
と、パパの帰宅から笑える騒動があったものの、作戦の全貌を説明すると、途端に表情が固くなった。
「……キャルから影を動かしたとは聞いていたが、まさか自分が餌になろうとは……。これはキャルも承知しているんだな?」
「えぇ、わたくしは援護射撃よ。今は城を探らせているけど、シャルルが城に出向いたら、シャルルの護衛も兼ねているわ」
「そうか。相分かった。ならば、1日1回は魔術師団に顔を出す事を約束してくれないか?」
「伺ってもよいのですか?」
「もちろん。寧ろ必ず無事な顔を見せにおいで」
ふふっ
「分かりました。パパのお仕事中のお姿も見られるの?」
はははっ
「ユージーンも居るからね」
「楽しみにしておきます」
なんて言ったら、当然の如く、
「近衛騎士団にも!是非来て!」
「魔術師団とは場所が真逆じゃないか」
パパとクリスティアンお兄様の言い合い合戦が始まった。
「あー、どうせウロウロするんだから、どっちも行くよ。ね?シャルル」
「うん!どちらにもお邪魔します!」
って事で、チャンチャン!
この後19:00より、短編の閑話が入ります。
読まなくても本編に影響ありません。




