メコラ指南。
「あ、それと市井でおにぎりが流行ってるのをご存知ですか?」
「ええ!もちろんです!休みの時は市井で流行りの食べ物チェックは私の趣味ですから!レシピも買いました!」
おぉ!流石料理長さん!
「レシピで分からない事とかありませんでした?」
「そうですね、三角に握るのにコツが必要なんだって事位ですかね」
ふむ。
ならば、美味しく炊けて、美味しく握るコツでも伝授しておくか。
「この家にメコラはあります?」
「マスターしてから、お出ししようと思ってたので少しなら」
「コツをお教えします」
「えっ?お嬢様がコツを?」
「内緒ですけど、わたしのレシピなんです」
「おおぉぉ!!お嬢様は何でも出来るんですね!素晴らしい!ではお願いします!」
いや、何でもじゃないけど。
「じゃ、始めますね」
さて、この世界のお米は精米が甘いので、しっかり研ぎます。
最初の水はすぐに捨てて、ザルで優しくゴシゴシ。
水が濃い乳白色になるんだよねー。
お米が見える程度の色になったら研ぎ終わり。
「水じゃ冷たいでしょう!お湯を使って下さい!」
「お湯じゃダメです。お湯だとお米の周りの糠の匂いまで吸ってしまうので、冷たくてもお水で研いで下さい」
「そうなんですね!」
冬は水が冷たいから、知らないとお湯を使いたくなるよねー。
でも、水一択!
そして浸水。
その間に、中に入れる具を作る。
カウカウの時雨煮なら、メコラが初めてでも大丈夫かな。
濃い味だし、肉だし。
小一時間経ったら、厚手の鍋で炊く。
五号位なら15分炊いて10分蒸らす。
「独特の香りがしますね」
わたしには美味しそうな香りなんだけど、慣れないと気になるかな?
蓋を開けて、カニ穴確認。うんうん、いい感じ。
しゃもじ代わりのヘラで上下を返し、料理長さんに食べてもらう。
「これがメコラ……私が試しに炊いたのとは別物です。もちもちっと美味しいし、微かに甘みもある」
「研ぎ方と炊き方さえ覚えたら、いつもこの様なメコラが炊けますよ」
炊きたてでアッツアツなので、魔法で少し冷まして三角おにぎりにする。
お茶碗ないけど、小さいボールにメコラを入れて、分量を揃えながらなら、大きさも均一になる。
真ん中にカウカウの時雨煮。
「手に塩して、上にくる手は三角屋根みたいにして」
「ふむふむふむむむむむ」
「別に三角じゃなくてもいいんですよ?」
と、俵型、平たい丸型も見せる。
「三角をマスターしたら!別の形に挑戦します!」
ふふふっ
「パンの代わりに、お皿に平盛でも大丈夫だし、器の中にメコラを入れて、上におかずを乗せても美味しいんです」
「お嬢様!その情報は今度また教えてください!今は!三角おにぎりに!集中します!」
「ぎゅーぎゅーに握ったらダメですよ?優しくニギニギです」
その後、料理長さんは執念で三角おにぎりをマスターした。
サラナさんはいつまで経っても出来なかったのに、流石料理長さん。
出来上がったおにぎりは、厨房で働いている人で試食した。
「これがメコラ……。ドロドロのは美味しくなかったけど、これは美味い」
”美味いな””美味しい!””中の具材を変えても……”
うんうん。
お米普及運動も、ここ(公爵家)まで来たら貴族にも普及されるかな?
でもそうなると生産が間に合わなくなるかも。
まぁそこは国が考えればいいやな。うん。
「じゃあ戻りますね。お疲れ様でした!」
「お嬢様!「「「ありがとうございました!」」」」
◇◇◇
戻ったら、丁度お茶の準備をしていたチャーリーさん。
「お帰りなさいませ。如何でしたか?」
「ただいま戻りました!お菓子とメコラのおにぎりも作ってみました。今度おにぎりも出るかもしれませんよ」
ふふふっ
「それは楽しみです。奥様がお待ちですよ」
「はい、ありがとうございます」
このチャーリーさん、いつも微笑みを湛えていて穏やかそうなのよね。
しかし、警備もチャーリーさんが仕切ってるらしい。
笑顔で暗器とか出しそう。
「どうしました?」
「えっ?あ、いいえ、ちょっと考え事してました!」
ふふっ
「お預かりしたお菓子とお茶をお持ちしますので、部屋でお待ち下さいね」
「はい、では後で」
危ねぇ。わたしは顔に出やすいんだった。
◇◇◇
「ママ、ただいま戻りました!」
「お帰りなさい。どうだった?」
「今日のお茶のお供と、メコラのおにぎりもレクチャーして来ました。料理長さんもバッチリ覚えたようですよ!」
「まぁ!それは楽しみね〜!」
「でも、ママがおにぎりを食べるのって想像付かないかも……」
「あら、何故?」
「おにぎりって、こう、かぶりつくんです。お貴族様には、あまり相応しくないと思うんですよね」
がぶっとね!
うふふふふ
「誰も見てなければ問題ないわ」
流石ママ。
「騎士団での演習で野営もしてるから、大丈夫よ」
なるほど。
そんじょそこらのお嬢様とは別格でしたな!
そこにチャーリーさんが来て、お茶の準備をしていたら
ぴくっ
「エルバート様、ジークフリード様がお戻りのようです」
えっ!?聞こえたの!?
数分後、
「「ただいま!」」
チャーリーさんの耳って、すごい。




