閑話 トリアスロ・マルクス
このお話の前に本編があります。
私はトリアスロ・マルクス。
のし上がって薬師ギルドのギルドマスターになった。
親は男爵家で使用人をしていた。
父も母も、男爵に顎で使われるのを、ずっと、ずっと子供の頃から見ていた。
私はそのまま男爵家で奉公するように言われたが、幸いにも調剤スキルを授かっていたので、薬師になるべく家を出た。
誰が奉公などに出るものか!
あんなにヘイコラしながら生きるなんて、真っ平だ!
薬師になって貴族がみんな偉そうなんだと知った。
よく効く薬を調合しろ?
貴族なんだから先に作れ?
順番も守れないのか!
薬師ギルドに来るのは使用人だが、アイツらの言い分は貴族の言い分だ。
どいつもこいつも、貴族はみんな同じだ。
挙句に親の権力まで使ってギルドマスターになったヤツまでいる。
ハンターギルド、商業ギルド、どっちのギルドマスターも元貴族だ。
若造の癖に。
その歳でギルドマスターになれるはずがない!
実力だと?
馬鹿馬鹿しい。
そんな事有り得るはずがない。
忌々しい事に、ヤツらの評判は悪くない。
外面ばかりで中身のないシャバ僧めが。
どうせ周りがフォローしまくってんだろう。
元貴族だし、どれだけ忖度してるんだ。
私はギルドマスターになる為に何でもやった。
吐き気がしそうでも、上にはいい顔をした。
今だけだ、今だけ我慢すれば、頭を下げなくてもいい立場になれるはずだ。
同僚を蹴落とすのも平気だった。
時には脅しもした。
当然だ。
脅される原因は奴らにあるんだから、私は悪くない。
私が正義だ。
その甲斐あって、ほら見ろ!この国の薬師のトップだ!
命を預かる薬師だぞ?
敬え!私に頭を下げろ!貴族だろうと忖度はしない!
はははっ!
ザマを見ろ!
ダンジョンから戻った新型ポーション製作者を呼び出した。
名前を秘匿しようが、登録者名簿があるんだ、呼び出すのは簡単だ。
呼んでみたら……美しい少女だった。
少女から大人へと変わる狭間の艶めかしさ。
これは……。
受付の奴の子供をダシにして、お茶に薬を入れるのを強要した。
なに、ちょっと、魔力暴走、とチラつかせただけだ。
やっと出来た子供らしいからな。
意識を朦朧とさせた所で、ポーションを薬師ギルドに卸す制約書類にサインさせる為だ。
なに、バレるようなヘマはせん。
通常量の半分もあれば、眠らずに朦朧とするだけだし、鑑定されても、その位の量なら引っ掛からないはずだ。
うむ、薬を入れるのを指示した私は慧眼だな。
しかし……、この女、欲しいな。
この美しさ、調剤の腕、身に着けているものも、中々上品だ。
このまま拉致して囲ってしまおう。
なぁに、親には薬師ギルドマスターから修行させるからと言っておけば問題ないさ。
それなのに……。
やたらと突っかかってくる。
お茶も飲まない。
何なんだ!
ギルドマスターを敬え!
薬師なんだから、薬師ギルドに貢献するのが当然だろう?
薬師ギルドの糧になるのが当然なはずだ!
お茶を隠された!
一般人の鑑定では判明しないが、憲兵から宮廷魔術師に見せられたら終わりだ!
何なんだコイツは!
何故バレたんだ!
宮廷魔術師ほどの鑑定能力があるのか!?
そんな馬鹿なっ!!
いや、取り戻して零してしまえば大丈夫だ。
だから返せ!!
何処だ!バッグをひっくり返しても何も出てこない!
手を突っ込んでも何もない!!
どこに隠した!!
こうなったら、力ずくでコイツを……!
ドンッ!!
ドアが蹴破られた!?
「なっ!!誰だ!!」




