ピクシー再び。
翌朝、小さな舟に乗り、ピクシーの保護区へ向かった。
相変わらずキラキラしい海の中。
これが虫とは……。
「もうキレイって言わないの?」
くすくすっ
「キレイだけど、虫って聞いたら……」
「こいつら、海の掃除屋だから居ないと困るんだよ。何でも食うよ?」
「うぇー!ありがとう虫さん!」
あはははは!
見えてきた、小さな洞窟。
頭を下げてー!着いた!
「何度見ても凄いね」
壮大な滝。
やっぱり雄々しい。
「特別な場所だからな」
あ、あった、石碑。
石碑に手を合わせる。
無念の死を遂げたピクシー達。
痛かったよね、苦しかったよね、辛かったよね。
生まれた場所で安らかに眠ってね。
ふわふわとピクシーが集まる。
「わ!」
えっ!?どんだけ来るの!?
「これは……凄いな」
「可愛いね、こんなに沢山居るんだ、凄い」
ふわふわ ふわふわ
わたしとジークの周りに集まって、頭に留まり、肩に留まり。
手のひらを出せば、手のひらに留まり。
「沢山のお出迎え、ありがとうね」
ふふっ
ちゅ!ちゅ!ちゅ!
「わぁ!」
「えっ!俺にも!?」
代わる代わるキスの嵐!
頬に、おでこに、鼻の頭に!
「擽ったいよ!」
あははっ!
「何だかキスされた所が暖かい気がする」
「うんうん!するする!」
ほんわか、暖かい!
「あぁ、もう行かないと」
「そっか。ピクシーちゃん達、また来るね!」
ふわふわ ふりふり
「またね!」
わたしも手をふりふり。
ジークもふりふり。
洞窟の出口近くまで行列出来てたよ!
「凄かった。あんな経験した人居るかな」
「ガルボさんがSランクの時に、ちらっと見ただけって言ってたよ」
「うん、俺もシャルルと来た時に初めて見た」
「え!そうなの?」
「滅多に姿を出さないって聞いてたから、びっくりだ」
「懐っこい子が増えたのかな」
「シャルルが懐かれやすいんじゃない?カーちゃんやトーちゃんの例もあるし」
はははっ
「あー、うん、そうかも」
ノームも見たしね。
まだジークに言ってないよね?
「実は緑のノームも会ったんだ」
「は?絶滅したって聞いたけど……」
「居るよ?わたしもデンタツで調べたら、絶滅したって書いてあって、びっくりしたんだもん」
「どこで会ったの?」
「泡石取りに行った時、滝を見てたら膝に乗ってきた」
「は?」
「だからクッキーあげたら、今度は10人の団体さんでクッキーおねだりに来たよ」
「ええっ!?」
「だから絶滅してないよ、ちゃんと居るよ」
「……それ、誰かに言った?」
「ううん、言ったら探されて、また消えちゃうかもだから言ってない」
「それでいいよ。言ったら研究者が挙って探しに来る」
「魔石ダンジョンには茶色の子が居るんでしょ?」
「みたいだけど、見たって聞いたことないんだよね」
「そうなのかー」
「今度行ってみようか、シャルルもハンターだし、会えるかもよ?」
「わ!それいいね!うん、行ってみようか!」
楽しみが増えるね!
程なく舟は岸辺に着いた。
◇◇◇
明日の午後にはダンジョンアタックだ。
だから、暫く地上には戻れない。
この後は家に帰って、ゆっくり過ごす。
「今度モーリェに来るのはいつかな?」
「今度来たらスプリア行こうな」
「新しい水着作るよ!もしくは買うの!」
「出来るだけ!出来るだけ地味でお願いします!」
「ぇー、やだ」
「えっ!?」
「せっかくだし可愛いのがいいじゃない!」
「じゃあ可愛くていいから!肌の露出が少ないので!」
「つまんない」
「ええっ!?」
ぶはっ!
「抱っこはなしよ?」
「ええええっ!?」
あはははは!
「楽しみだね♪」
「くっ!何か考えないと!」
あはははは!
「さ、帰ろうか」
「うん!」
◇◇◇
帰れないかもしれない。
そんな不安を払拭するように、甘く溶ける。
この家とも、暫くお別れだ。
「愛してる」
大好きから、愛してるに変わった時、心は決まった。
いつまでも、どこまでも、ふたりで。
くっついたり離れたりが当たり前のこの世界で、いつまでふたりで居られるのだろうか。
いつか心変わりする時が来るのだろうか。
今は考えられない。
いつまでも一緒に居たい。
何かがふたりを分つまで、出来れば長く。
朝よ来ないで。
日よ登らないで。
このまま夜に閉ざして。
吐息がかかる距離で居させて。
ジークの鼓動が聞こえる。
「愛してる」
それでも、朝は来るのね。




