森に帰る。〜その4〜
その場でジークは大の字になって寝そべった。
わたしも横になり、木漏れ日がキラキラ光る樹上を見上げた。
「シャルルが前に来た時は、こうやって導かれて来たの?」
「……よく分からないうちに来てた」
って事で、どうかひとつ!
「そっか。そうだよな、世界樹が迷宮になってるなんて、高ランクで学ぶ事だしな」
普通、一般人の世界樹に対する感覚は”そこに在る”だけで、行ってみよう等思わないとの事。
まぁ厄介な魔獣がうろうろしてる場所に行こうとは思わないわな。
しかし、高ランクになって、聖域に近づくと行ってみたい衝動に駆られるらしい。
だが、何度トライしても辿り着けず、ぐるぐると回った上、元の場所に戻される、と。
「だから、高ランク試験で世界樹に行こうとするなって言われるんだ。……まぁ俺も試して5日彷徨った」
はははっ
水や食料等が底をついて遭難する事もあるらしい。
怖っ。
「それが……こうしてここに居る。それに葉まで……」
さわさわ……
世界樹の葉は、どんなに強風でも落ちない。
引っ張るようなヤツは居ないだろうけど、恐らくそれでも千切れないだろう。
「文献でしか見たことない。これは知られたら大騒ぎになるから、ふたりの秘密だ。……本来は報告案件なんだけど、ね」
「うん」
「しかも導き手がカーバンクル。こんなの聞いた事がない」
カーちゃんとトーちゃんは世界樹に登って行った。
よく見ると、あちこちからカーバンクルが顔を出している。
初めて見た時のリスみたいの、カーバンクルだったんだね。
初の王都で見かけた肩に乗せて歩いてた人のは何だったのかな。
罠の正体にも気がついたであろうカーバンクルなら、もう二度と引っ掛からないよね。
賢いし。
仲間思いの優しいカーバンクル。
ちょっとお調子者のカーちゃん。
おっとりしてるトーちゃん。
性格も様々。
世界樹の元で、穏やかに暮らすんだよ。
寂しくなってきた。
泣かないぞ。
この子達はここがお家で、帰ってこられて嬉しいんだから。
泣くもんか。
さわさわさわ……
トタタタタタっとカーバンクル達が一斉に降りてきた!
「ひやぁぁぁ!何なのーーー!!」
膝に、肩に、頭に、周りに!
カーバンクルだらけ!
あははははは!
「シャルルが寂しそうだったから慰めに来たんじゃない?」
「もふしっぽで擽ったいよ!」
ふふふっ
キィキィと、それは騒がしい。
走り回り、追い掛けっこをし、楽しそう。
その中でもカーちゃんとトーちゃんを見分けられる。
みんなちょっとずつ色合いや模様が違うんだね。
「そう言えば王都でカーバンクルに似た可愛い子を肩に乗せてる人が居たんだけど」
「あぁ、アルディジャじゃないかな?カーバンクルに似てるけど、額に宝石はないし、魔法も使わない。大人しいからペットとしてテイムする人はいるね」
「なるほど」
ふむふむ。やっぱり鑑定してみたらよかったかも。
キィ!
てしてし!
ぶはっ!!
「大丈夫、カーちゃんの方が可愛いよ」
非常に満足そう!
やっぱりこの子は人臭い!
キィキキィ!
「もちろんトーちゃんもね!」
あははははは!
◇◇◇
そろそろ気温も下がってきた。
日も傾いて、そろそろ空がオレンジに染まる頃。
「もう降りないと暗くなっちゃうな」
「うん。カーちゃん、トーちゃん、元気でね。またいつか会えたらいいな」
キィ
キィ
「きっとまた会えるよね。だから、またね」
そっと2匹を抱きしめる。
もふもふのし収め。
ジークもお別れをして、世界樹を後にした。
トーちゃん、一時はぐったりしてたけど、元気になって良かった。
カーちゃんが来てくれなかったら危なかったもんね。
元気でね。またね。それまで、さよなら。
◇◇◇
森を走りながら、流れて飛んだ涙。
今だけ、ちょっとだけ。
湖に着いて、ジークにコントリー抱っこをしてもらう。
ジークも走って疲れてるだろうに、我儘なわたしだ。
「やっぱり寂しいよな。今日はくっついてていいよ」
「……いつもくっついてる気がする」
ははっ
「確かに。まぁいいじゃない」
よしよしと背中を撫でて、とんとんされる。
リクライニングチェアに座るジークのお腹の上にぺったりとくっつき、鼓動を聞く。
段々と夕闇が迫り、そろそろランタンが必要だ。
「よし、バッグお願いします」
インベントリからジークのバッグを出して渡すと、わたしをおんぶした。
「はい、背中にくっついてー落ちないように!」
ぶはっ!!
「赤ちゃんじゃん!」
「抱っこもおんぶも変わらん。くっついてて!」
あははははは!
それから暫くおんぶされてたけど、やっぱりずっとそういう訳にも行かず、降りて夜ごはんの支度をした。
そんな、優しい風の吹く晩夏の夜。




