森に帰る。〜その3〜
逆さ世界樹が見える、ぽっかり拓けた場所にテントを置く。
前回はテントふたつだったけど、今回はひとつ。
「もう随分前の気がするが、まだ季節ひとつも経ってないんだな」
「……衝撃の出会いだった」
「いや、俺こそ衝撃だよ。どっぱーん!て流されたからな」
はははっ
「う……あ、あれは仕方ないって!」
「分かってるよ」
ちゅ
さぁ……2匹を帰さなくちゃ。
「カーちゃん、トーちゃん、ここから帰れる?」
キィキキィ
キィキキィ
キィ!
キィ!
「え?着いて来い?」
「え?どこに?」
「分かんない。けど、来いって」
「あー、カーちゃん、トーちゃん……メシ食ってからにしねぇ?」
ぶはっ!!
「確かにお腹空いたね!」
キィ?キィ!
キキィ!
「それでいいみたいよ」
ははっ
「すまん、腹減り過ぎた」
◇◇◇
お昼は持ってきた、小さめおにぎり5種類と唐揚げ、だし巻き玉子、ドレッシング要らずの超浅漬けと、おすましのスープ。
和食でお弁当だ!
おにぎりが種類豊富なので、おかずの種類は少なめ。
「やっぱ、おにぎり最高。一口でいけるのもいいな!」
いや、普通一口では無理です。
ぱっくんぱっくん口に放り込んでるけど、いつ見ても豪快だ。
「このスープ、コンソメかと思ったら違うんだ。滋味溢れるスープだな」
鰹節の一番出汁に貝の出汁をちょっぴり混ぜて具なしでミツバを乗せただけのおすましだ。
お椀じゃなくカップでの提供は少し残念。
今回、おにぎりには魚卵も混ぜてみた。
たらこだ!半生に焼いたたらこ、あ、食べた。
「ん?これなんだろう?」
「それ、たらこって言うの。魚の卵なんだけど、どう?」
「魚の卵!ぷちぷちって弾けるのは卵だからか!初めて食べたけど、これ美味いな」
ほっ!
「わたしが好きだから、美味しいって言ってくれて、良かった!ジークは初めてだろうから、半生に焼いたんだけど、焼かなくても食べられるんだよ。ごはんに合うの」
「へぇ!なら次は生で食べたい!」
おぉ、チャレンジャー!
ふふふっ
「なら次回は生にしてみるね」
ふっふっふっ……ジークの餌付けは順調です!
苦手はキャスだけだと言ってたが、そのキャスも徐々に克服しつつある。
くふふふふ
「何が入ってるか分からない白いおにぎりも楽しいな」
おや、なら今度山葵入りでロシアンおにぎりにでもしてみようか。
いや、それで嫌いになったら元も子もないな。
もっと改革が進んでからだ。
ふひひ
「何か考えてんだろ」
「えっ!?いえ!何も!美味しくてよかったなーと!」
「ふぅん?まぁ、いつも美味しいごはん、ありがとうな」
「どういたしまして、美味しいって言ってくれるの嬉しいよ!」
危ねぇ!顔に出てたよ!
カーちゃんは唐揚げを、トーちゃんはだし巻き玉子を食べている。
カーちゃん、お肉好きなんだねぇ。
遠くで5の鐘が聞こえる。
食休みをしてから、出発!
◇◇◇
「さて、どこに行くのやら」
「カーちゃん、トーちゃんに着いて行けばいいのね?」
キィ!
キィ!
進む方向は上の方。
わたし達も身体強化で、2匹を見失わないように追いかける。
って、これ世界樹に向かってるんじゃない?
「おいおい!もしかして、世界樹か!?」
大分登った所でジークが言う。
うむ、わたしもそう思うよ。
「マジか!何故通れる!?」
え?何故通れる?って?
シュタタン!タンタン!
ザザッ……
「……嘘だろ……本当に世界樹だ……」
どういう事?
「世界樹……には、来られないはずなんだ。来るまでに迷宮になってて、たどり着けない……はず、なんだけど」
何ですと!?わたし普通に来てたけど!?
「……これが、世界樹。大きい……シャルルは驚いてないな?もしかして来た事ある?」
あっ、バレた。
「……前に」
「あぁ、カーちゃんを帰した時に導かれて?その時か」
実際にはその前なんだけど!
「うん」
「カーバンクルに導かれて来るなら来られるのかな。それなら絶対に秘密にしないとダメだ。あぁ、俺今感動してる」
そう言ってわたしを抱きしめる。
世界樹さん、この人がわたしの大事な人です。
わたしを否定しない。
わたしを包んでくれる。
わたしがわたしで居てもおおらかに見守ってくれる大事な人です。
よろしくお願いします。
さわさわさわ……
ジークが、はっと世界樹を見上げる。
ひらり……ふわり……
葉っぱが1枚。
ジークが翳した手の上に、ひらり。
「…………世界樹の葉。誰もが欲しがる、これ、シャルルに」
「えっ!?ううん!わたしも前に貰ったの、だからジークのだよ」
と、前に貰った葉っぱをインベントリから取り出し見せる。
「……驚きすぎて何が何だか」
ははっ
迷宮になってたなんて、わたしもびっくりだよ!
キキィ?キィ
キィ!キキィキィ!
いや、君たち、何言ってるのか分からん。




