異世界王女様は今日も花に恋をする 【 IV 】親善決闘
次の日、アカシアは酷い二日酔いで目が覚めた。城に戻ったあとガリバーと盃を交わしたせいだ。クマヅツラ王国から採れる木の実から作られる酒は美味いだとか、他の国から輸入している珍しい酒があるだとか、ガリバーに上手く調子に乗せられ飲んでしまったせいだ。
二日酔いまたガリバーのせいだと思うと、再びなんとも言えない怒りが胸を一杯にするが、結局飲んだのは自分だと思い今回もガリバーには何も言わないでおくことにした。
そんな調子で中々でベッドから出られないでいるとある人物がドアをノックした。
「入ってもよろしくて?」
落ち着いていて透き通るような優しい声色、どこか儚く、たったそれだけの質問なのに断ったら相手を傷つけてしまうのかもしれないとまで相手に妄想させることのできる声だった。
「お身体の具合はいかが?」
声の主はクマヅツラ王国王女、ヒエラスだった。
「ヒエラス様、こんな醜態晒してしまい大変申し訳ございません。体の方は問題ありませんわ」
「そう、よかったわ!なんせお城の前まで騎士団に背負われてきたアカシア様を見た時はどうなることかと思いましたわ!ふふっ、大人になりましたわね?」
ヒエラスは冗談なのか本気なのか分からないことを言って一人楽しそうに微笑んでいた。思わず私も苦笑い。
彼女は十八歳、女性の割には高身長で綺麗な鼻筋に、触ったらその部分が変色するのではと心配になるほどの透き通った綺麗な白い肌。
ヒエラスはアカシアにとって憧れだった、いつか私もこんな女性になりたい。歳は四つほどしか変わらないのにその差はまるで亀と兎のようであった。
そんなことを思っていると、再びヒエラスは口を開きこう言った
「お父様とお母様が心配していますわよ、一度お顔を見せた方がよろしいのでは?」
そうだ!完全に忘れていた、何のために街中を歩き回っていたのか、何故魔獣に襲われることになったのか、なぜガリバーと酒を飲むことになったのか、そう、全ての事の発端は両親を探していたことから始まったのだ!
「お父様たちは無事ですの?」
アカシアが息を上げながら言ってくる様子にヒエラスは一瞬の戸惑いを見せたがすぐに冷静さを取り戻し、
「えぇ、ご無事ですよ。アカシア様が城に到着してまもなくお二人は揃ってご帰宅なさいました。それに何か問題があって?」
アカシアは事の一部始終をヒエラスに伝えた。そうすると再び戸惑いを見せたヒエラスだったがまたもやすぐに冷静さを取り戻して
「それは災難でしたね。お二人は仲良く星を見ていたそうですよ、なんせクマヅツラ王国は比較的標高が高い国なので星が綺麗に見えますから」
全く、ほんと人騒がせな両親だ。まぁ酒で潰れた自分が言えることではないが。
アカシアは両親の部屋を訪ねると、厳しい説教を受けた後に部屋へ戻り、もう少し休息を貰うことにした。
今日の午後からは親善決闘がある。それは今回の遠征のメインイベントの一つでもあり、お互いの国の腕自慢達がお互いに敬意を払い一対一でやり合うのだ。その迫力さは盗賊や魔獣の比ではない。瞬きをすることも、息をすることも忘れるほどの迫力だ。
楽しみにしながら再び眠りについたアカシアは夢を見た。
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薄暗い洞窟のような場所にアカシアはいた。一人ではない、正確には覚えていないが自分を含めて五人ほどの人達といる。
?「賢石はの具合はどうだ」
?「アカシア次第ってとこだな」
?「そうか、アカシア、出来るか?」
何が出来るのか、そもそも賢石とは何か、全く話についていけない。私と賢石は何か関係があるのか?そもそも彼らは誰なのか、男か女かすらも分からない。
そこでアカシアは目を覚ました。
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そんなことも一切わからないままアカシアは目を覚ました。
変な夢を見たものだ。特に気にすることもなく親善決闘が行われるコロシアムへ向かう準備をしていると再びヒエラスが部屋を訪ねてきた
「体調の方は問題なさそうで何よりですわ!私はお先にコロシアムへ向かっていますわね」
鼻歌混じりに、そう言い残して消えた。アカシアも急がないとと思い、ボサボサな頭をくしで解かし、化粧をして、素敵なドレスを着て部屋を後にした。
コロシアムはかつてないほどの盛り上がり様だった。コロシアムの前には屋台がずらりと並んでおり、肉や魚、酒にこの国特有のお菓子までありとあらゆる物が売り出されていた。
飲み屋や飯屋はどこも満員。ありとあらゆるところから酒や何の匂いかわからない臭いが漂ってくる。
あいにく今は二日酔いのせいで物が喉を通らない。盛り上がる街中を横目にアカシアはコロシアムへと急いだ。
するとコロシアムの前の掲示板に今日の出場者に関する情報が張り出されていた。
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〜アマリー王国〜 〜クマヅツラ王国〜
オキナ騎士団長 vs ザリエル騎士団長
カモミール vs ブーゲン
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何とも見応えのある組み合わせばかりだ。アカシアの胸も躍る。今年の決闘はより一層面白いものになるに違いない。まるで初めて玩具を買ってもらった子供のように胸を躍らせていた次の瞬間、無情にも、現実とは言い難い組み合わせがアカシアの目を突き刺すように視界に入ってくる
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ガリバー vs ヒエラス王女
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「え?」
思わず無気力に口からこぼれ落ちる言葉。ガリバーvsヒエラス王女!?そんな組み合わせがあるものか。
そもそも二人ともクマヅツラ王国の民である。それは一万歩譲ったとしてもヒエラスは王家の血を引く人物。そんな人物に向けてたかが国民が剣先を向けていいものか。何かの間違いだ、そう自分を思い込ませて足速にコロシアムの中へと急ぐ。
もうドレスの裾は汚れてしまっている。
会場の外があれだけの盛り上がりを見せていたのだ、会場内の盛り上がり具合は言わなくても分かるだろう。
裸踊りをする男、始まってもないのに既にベロベロな者、どちらが勝つかという内容でギャンブルをする者、来年こそは出てやると意気込む者、多種多様は今この瞬間のためにある言葉なのだと錯覚するほどの盛り上がり具合であった。
「みなさーーーん!静粛に!!ただ今より、第六百六十四回!親善決闘を開幕いたします!!!!」
それと同時にとてつもない歓声が湧き上がる。下手したら耳の鼓膜を持っていかれそうな勢いだ。
六百六十四回。アマリー王国とクマヅツラ王国の歴史は長いんだなぁ、王女らしい考え事をしてるうちに第一回戦目の出場者がフィールドに出てきた。
「第一回目の誇り高き出場者はーーー、アマリー王国よりオキナ騎士団長!!!!クマヅツラ王国よりザリエル騎士団長!!!!」
会場のボルテージは早くも最高潮に達する。それもそうだ、騎士団長同士の決闘など中々見れるものではない。
両者一礼をし、戦闘体制に入る。この距離でもわかる、この圧、オーラ、眼光、並の人間ならば対峙しただけで腰を抜かすだろう。一部の隙もない構え。それはまるで腹を空かせたライオンが目の前にある獲物を捕らえる瞬間のようであった。
「それでは、みなさんご一緒に!!!3、2、1、開始!!!」