3 チンピラ、神の私室に連行される
・・・---。
「・・・・あ?」
あれ・・・ここは?俺・・・は?
確かにさっきまで汚ない廃墟に居たはずだ。
雨が降ってて・・・何人も敵がいて・・・埃まみれ・・・血まみれ。
それに山崎と・・・・あれ!?山崎は!?
辺りを見回す。
しかし視界に山崎の姿は映らない。
・・・と言うか、山崎どころか視界には何も映っていなかった。
埃まみれの床、割れた蛍光灯、落ちてるゴミ、倒れている敵も見当たらない。
辺りは何処までも続く白い空間。
床も、壁も、天井も・・・全てが白く続いている。
ゆっくり立ち上がる。
地面の感触は固くとも柔らかいとも言えない奇妙な感覚だ。
息苦しさ・・・はないな。
「すぅーーー・・・・。おぉぉぉぉぉぉぉぉいぃぃぃ!!!」
大声で叫ぶ。しかし応えはない。それどころか声の反響も聞こえない。
「・・・・俺は、死んだのか?え?これ天国?いや、俺が行くんだから地獄か?」
「いえいえ、ここは天国でも地獄でもないですよ?」
「・・・うおっ!?」
突如、後ろから響く声。俺は驚きすぐに後ろを振り返るとそこには1人の男が立っていた。
その男はとても奇妙な男だった。
180cmはある身長。しかし身体は細く、ガリガリだ。頬もこけてるし何より顔色が悪い。青・・・いや、土気色と言った方が正しい。ピシっと整えられたオールバック、そしてインテリな眼鏡。第一印象はインテリゾンビ。そんな男がいつの間にか俺の後ろに立っていたのだ。
「ふむ。人間にしては中々の反応速度ですね。あ、敵意はありませんので構えないで大丈夫ですよ。」
「あ、あぁ。悪い。まさか人が居るなんて思わなくて・・・。」
「初めまして。私はここで案内役を仰せつかっているクロと申します。主より貴方を案内するように仰せつかりました。どうぞ、こちらへ。」
「あ・・・おぉ。でも何処に・・・・あっれ!?」
無かった。確かにさっきまでは無かったんだ。
でも振り返ると、遠くにポツンと見える丸いテーブルに高そうな椅子。
そしてそこでコップ片手にリンゴ?みたいな果物を摘まむ女の姿。その女は現代人・・・と言うより古代ローマで着られていそうな白いゆったりとした衣装に身を包んでいるのが分かる。
「どうぞ。」
俺はクロに促されると女の方に一歩踏み出す。
するとどうだろう。さっきまで遠くに見えていた女とテーブルは、いつの間にか俺の2~3歩先の近くまでの距離に短くなっていた。
「お・・・おぉ。な、何だこら?夢?夢か?それともやっぱ俺・・・死んだ?」
「ん?おー。クロ。何だ?新しい転移者か?」
・・・転移者?
女はクロに向かって軽く手を上げると、コップの中の液体をグイッと飲み干した。
近くで見るとこの女が相当美人なのが分かる。
透き通るような金髪に肌、整った顔。そして不思議な黄金に輝く瞳。グラマラスなスタイルが今まで見てきた人間とは一線を画している。
「はい。主よ。久々に骨がありそうな若者です。」
「ほー。確かに。この間は小さいガキだったもんなぁ。あれじゃ・・・転移を断るわなぁ。それで?えーとあんたは?名前。」
「ん?青葉。青葉勇仁だけど・・・。」
「よし。勇仁。じゃぁ、さっそくシンキングタイムね。今から異世界で冒険する?OR現実世界で死ぬ?どっちがお好み?あー。もちろん異世界に行くならランダムでスキルプレゼント。それに今ならお供を1人付けるわ。特別よ?んでーどうす・・・」
「ちょっ。ちょっと待ってくれ。どういう事だ?異世界?スキル?意味が分からねぇ。すまないが説明してくれないか?」
「・・・・あ?説明?あー・・・んー・・・めんどぃ。クロ。説明して。私は飲んでるから。あ、勇仁も飲む?ワインにエールにラガーに~・・・。」
「主よ。今から説明するので少し黙っていただけますか?」
女はつまらなそうに「ちぇ。」と呟くとコップをグイっと口につけた。
つーか、そのコップ。さっき空になってなかったか?
「では、主に代わりまして私がご案内させていただきます。まず、あちらにいる我が主。彼女は神の1人でございます。」
「・・・・は?」
・・・今、なんつった?神?
いや神って・・・・え?本当にいるのかよ?
「信じされませんか?しかし青葉さん。貴方は否定もしきれないはずです。それはこの空間が証明しています。」
「・・・あぁ。」
「物分かりが早くて助かります。この空間は神が管理する私室、つまりプライベートルームですね。貴方は現世で死にかけました。正確にはこれから死ぬ運命となります。そういった人物をランダムでこの部屋に呼び寄せ、異世界に派遣するのが我々の仕事になります。」
「派遣?」
「勇仁さんの世界でもありますよね?悪魔召喚や精霊を召喚する儀式。あれです。あの場合は異世界の生物を勇仁さんの世界。つまり現世に派遣しているのです。」
「いや、え?何だそれ?それは意味があるのか?」
「知りません。しかし、どの世界でも未知なる者を招いて何かを起こすのは共通のようですね。そんな要望にお応えするのが我々の業務となっています。平たく言えば宅配業者ですね。」
「・・・神なのに仕事してんのかよ。」
「そりゃするわよー。だって私、死なないのよ?時間も無限にあるのよ?ゴロゴロしててもつまらないじゃない。」
・・・神なのに労働を希望するなんて・・・神ってのは俺が思っている以上に変わってるみてぇだな。