2 チンピラ、暴れる。
「おっらあぁぁぁ!!」
・・・【ガァン!!】
硬い何かが俺の頭に殴りつけられる。
頭の中で炸裂音が残響する。
ドロリと頭から生暖かい物が流れる感触。
血液と認識するまで数秒。
そして・・・。
「いっ・・・てぇなぁぁぁ!!」
それより速く反応する俺の拳。
俺の拳は生き物みたいに俺を鉄パイプで殴りつけた男に向かって伸びていく。
・・・・【ドスン!!】・・・右・・・【ガツン!!】・・・左・・・・「ガツン!!」・・・右!!
俺の左右の拳が相手の懐に、脇腹に、顔面に次々と突き刺さっていく。
相手の男はパクパクと何かを言いたそうに口を動かすが、それは声になる事はなく地面に倒れこんだ。
「か、囲め!!1人でかかるんじゃねぇ!!全員で・・・全員でかかれぇ!!」
「かはっ!!かっ・・・かっははっ!!そうだ!!もっと!!もっと来いよ!!そんなんじゃぁ、俺は死なねぇぞ!!?」
向かって来る男の首を脇で抱え込む。そのまま腹に2~3発。
その際に右足を蹴られ、脇腹を殴られる。俺はそんなの無視するかの如く、そいつを脇に抱えたまま他の奴の腹に蹴りを1発。そして体をクの字に曲げた所へもう1発。
また別の奴が俺の左肩に鉄パイプで1発。衝撃が【ビィィィィン。】と骨に伝わり脳に響く。だけど俺は止まらねぇ。その鉄パイプ野郎に視線を合わせると、そのまま突っ込み鼻っ柱に頭突きを1発。膝蹴り1発。
男は鉄パイプを【カラン】と落とすと膝から崩れ落ちる。おっと、忘れてた。俺が抱えてた奴もとっくに失神しているみたいだ。
俺は脇の男を地面に捨てると、さらに対峙する2人に視線を合わす。
「な、なんだこいつ?ばけ・・・化け物じゃねぇか!!やま・・・山崎連れて来い!!」
リーダー格か?少し偉そうな奴が命令するとすぐ後ろから引き摺られてくる山崎の姿。
どうやら大した怪我はしてないようだ。何発か殴られたのだろう。顔は少し腫れてるが、意識もある。
「せ、先輩?な、何で!?何でこんな所に!?」
「おぉぉ!!山崎ぃ!!迎えに決まってんだろぅがぁぁ!!」
「お、おぃ!!青葉!!下手な真似するんじゃねぇ!!山崎・・・抉る・・・抉るぞ!?おらぁ!!」
リーダー格の奴が山崎にナイフを突き付ける。だが、流石は俺の後輩。山崎はビビるどころかリーダー格の男に鋭いガンを飛ばしていた。
そして次の瞬間、山崎は自分に突き付けられたナイフの刃を歯で【ガチン!!】と噛み付いた。これに驚いたのはリーダー格の男である。
「や、山崎ぃぃぃぃ!!てめぇぇぇぇぇ!!」
男はナイフを無理矢理引き抜こうとするも、山崎の口からナイフは外れない。
そして、そんな隙を俺が見逃すはずなんて・・・・・ない!!
「・・・・よぅ。」
「・・・・あ。」
俺は一気にリーダー格の男との間合いを詰める。山崎に気を取られていた男は、まるで俺が瞬間移動でもしたように見えた事だろう。
男は突然の状況に脳が追い付かず、「あ・・・あ・・・。」と某アニメのカオナシというキャラクターのような発言を繰り返している。
俺は右拳に力を入れると、それを高く掲げ一気にリーダー格の男の顔面に突き立てた。
【ゴリン。】と男の鼻が折れる感触が拳に伝わる。
男は目玉をグリンと反転させると、そのまま【ドスン】と崩れ落ちたのだった。
それを見た他の男たちは蜘蛛の子を蹴散らすように各々散って行った。
俺は縛られている山崎の縄を先程のナイフで切る。
「せ、先輩・・・すいません。すいません!!」
山崎は本当に申し訳ないと思っているのだろう。俺と目を合わせる事もなく、ただひたすらに地面に自分の頭を擦り付けながら俺へ謝罪の言葉を繰り返していた。
「・・・・あ。気にするんじゃねぇよ。つーか、俺も大分鈍ったなぁ。いや、歳かなぁ・・・ははは。」
「何、言ってるんスか?鈍っている人が単身で乗り込んで来て、何人ぶちのめしてるんスか?」
「いや、昔なら反撃なんてくらわなかった。くらったとしても血なんか出ねぇ。痛くもねぇ。」
「いや、それもはや化け物っスよ。」
「ははは。言うじゃねぇか。じゃーとりあえず帰るか?うー・・・いちちち。お。立つとクラクラすんなぁ。血、流し過ぎたかなぁ。」
「そりゃぁ、絶賛流血中っスから・・・・先輩!!危ないっ!!」
突然・・・突然だった。
山崎が俺の前の身体を捻じ込ませる。
それは何でか?いつの間にか目の前にナイフのギラギラした剣先が見えていたからだ。
そのナイフを手にしたのは逃げたと思ってた雑魚。
迂闊だった。真面目に生きてたから油断した。
相手を再起不能に、完全に撤退するのを確認しないで今、安全だと思っちまっていた。
俺を刺そうと雑魚が飛び込んで来る。
位置的に先に気づいた山崎が俺を護ろうと・・・身代わりになろうと俺の盾になろうとしている。
・・・させるか。させるかよ。
俺は咄嗟に山崎の襟首を掴むと強引に俺の後ろに下がらせた。
山崎の驚いたような目が俺を見つめる。俺はそんな奴の目にニヤリと自然と笑みを浮かべてしまっていた。理由は・・・・分からないが。
ナイフの切っ先が俺の胸にゆっくりと、だか確実に入って来る。
ズブズブと肉を抉る感覚。
そして・・・・俺は・・・・・。