1-7 これ、ナスタチウムさんの管轄の書類だったか?
ナスタチウムさんの執務室に戻ると、まだせっせと書類の仕分けをしていた。
「こちらが確認済み、こちらがまだ終わっていない書類ですわ」
「ありがとうございます」
まだ終わってないのか、と思いつつも、とりあえず終わっていない方の書類を手に取る。
これ、ナスタチウムさんの管轄の書類だったか?
俺はそのまま終わっていない書類に目を通す。
残念ながら、俺の最初の疑問は当たりだったらしい。
「これは、どなたが持ってきた物ですか?」
「確か、ジニアさんですわ」
「ジニアさんはナスタチウムさんと同じ、六枚の管理官でしたよね?」
「ええ」
同じ立場でありながらも、書類仕事の内容は全く違ったはずだ。
「何故?」
「さぁ?」
さぁ、って。吐きそうになったため息を無理やり飲み込む。
「こちらの書類はどなたが?」
「さぁ?」
さぁ、って。この人、何の仕事なら出来るんだ。
「どなただったかは覚えていませんわ。普通課から来た書類でしたもの」
「何故ここに?」
「さぁ?」
さぁ、って。
これは、頭の痛い事態だ。
俺は小さくため息を吐き出すと、終わっていないと言う書類を管轄ごとに分類した。大量の、他の部署、あるいは他の人の仕事が、ここにはあった。
あの人、何を考えてるんだ? 何故関係の無い人の仕事が?
まだ分類されていない書類もあるが、本来の仕事量から考えても、あまりにも不自然だ。これだけあちこちの仕事を手伝えるほどの余裕があったようには思えない。
俺は一通り目を通してから、ついでに終わっている書類にも手を伸ばす。
こちらも俺の考え通り、ナスタチウムさんには関係の無い仕事が紛れていた。
「すみませんが、しかるべき場所に、しかるべき仕事を戻してきます。引き続き仕分けをお願いします」
「ええ」
出来ている物も出来ていない物も、俺は適切な場所ごとに簡単に分けてからネモフィラ様に指示を出した。
「それと、もしもナスタチウムさんが倒れた件を知らずに来られる方がいましたら、現在はバンクシアさんの命で私が仕切っているとお伝え下さい」
「わかりましたわ」
返事だけは良いんだけどな。
「私を訪ねて来た相手には、じきに戻るので部屋の前で待っているようにお伝え下さい」
「え、ええ」
……これ、指示を覚えきれたのか?
「確認をします」
「ええ」
念には念を入れておこう。心配すぎる。
「貴女のお仕事は?」
「仕分けですわ」
一つ目はクリア。
「ナスタチウムさんに用事があった方には?」
「ジギタリスさんが頑張ってます!」
「……現在はジギタリスが仕切っていると」
「はい!」
駄目だ、単純明快に行こう。
「私を訪ねてきた方には?」
「待って頂きますわ」
「部屋の外で、待っていてもらって下さいね」
「ええ」
何しろここには、人によっては見せてはいけない書類も存在する。誰が来るのかも分からない上に、おおっぴらに仕分けをしている所を見せるわけにはいかないのだ。
「もう一度確認です。今、ネモフィラ様にお願いしたお仕事は何でしたか?」
「仕分けと、ジギタリスさんがナスタチウムさんになった事と、外で待ってもらう、ですわ」
「……はい。ではよろしくお願いします」
多分、大丈夫だろう。
来られた方が察してくれると、俺は信じている。
失礼だが、仕事が忙しい時に託児されたと思って接していこう。期待すればするほど、疲れだけが蓄積しそうだ。
俺は小さくため息を吐いてから、次の行動に出たのだった。