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管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第二章
61/83

2-30 直ぐに捕縛します

 クルトさんの案内で、フルゲンスさんの元へと向かう。

 やはりベルさんには夜は暗いらしく、街灯が照らす街の中でも、ぎっちりとランタンを握っているようだ。よく見れば、うっすらと汗が滲んでいる。これは冷や汗だろう。

 森の入り口付近で一度足を止めると、クルトさんはあらぬ方向を見て焦ったような表情を浮かべた。精霊に何か言われたのだろうか。

 ベルさんは蒼白、クルトさんは焦り顔。これは……早々に何でも屋に帰した方が良い、か?

「ベル、戻ってもいいぞ。戻るか?」

「……い、いや。俺が、行かないと」

 先に気遣ったのは、クルトさんだった。だが、ベルさんは消え入るような声で拒否した。

 こんな状態でも戻らないのなら……。

「クルトさん。いざという時はベルさんを」

 俺はクルトさんに頼んだ。いざという時は、ベルさんを連れて戻ってくれ、という意図は伝わったようで、彼は「おう」と頷いてくれた。

「じゃあ、行くぞ」

 クルトさんと共に、全員で踏み出すと、森へと入る。

「フィラさん、足元に気を付けて下さいね」

「え、えぇ……」

 一応フィラさんに注意を促すと、彼女はぎこちなく頷いた。

 ざく、ざく、と、夜露で濡れる植物を踏みながら進む。慎重に進み、やがてベルさんが足を止める。乾いた声で「ルース」と呟いた瞬間に目に入ったのは、見覚えのある女――ビデンスさんが、倒れ伏したフルゲンスさんの腹部にナイフを刺している光景だった。

 せめてベルさんには見せたくなかったが、不幸な事にそれを照らし出したのはベルさんの持つランタン。

 その明かりで当然向こうも気が付き、アマリネさんだけはこちらを見た。

「ビス、そろそろ止めて。ね?」

「知らないわ……妬ましい……」

 アマリネさんはやんわりと静止の言葉を投げかけたが、ビデンスさんは止まらない。一度フルゲンスさんからナイフを引き抜くと、再度突き刺した。

 不幸中の幸いは、彼女が浅く突き刺す事を繰り返していたようだ、という所。これが深く突き刺し、抉るような動きでもしていたのなら、この程度の傷では済まなかっただろう。

 とはいえ、何度も刺されている腹部からは血が流れ、出来るだけ早く病院にでも連れて行きたい状態ではあったが。

「ベル、夜……ッス、よ。だ、い……丈夫、なんッス……か?」

 腹部を刺されながらも、フルゲンスさんはベルさんに向け、気遣わしげな視線を向けた。

「ルー、ス……ルース……」

「ベル! ベル、しっかりしろ!」

ベルさんが耐え切れずにその場に膝をつく。ああ、これは早急にどうにかしなければ。

「直ぐに捕縛します」

 俺は二人の横をするりと抜けると、ビデンスさんへと向かって一気に加速した。

「あら、嫌だ」

 ところが、俺の行動をあざ笑うかのように、アマリネさんが魔法陣を描き始めた。これが俺に向けていたのなら然程気にしなかっただろう。

 彼女の指の先は――俺が元いた辺りでオロオロしているフィラさんに向かっていた。

 一瞬でどちらを優先するべきかを判断し、勢いはそのままに踵を返してフィラさんを抱き上げ、その場から離れる。

 それほど間を開けず、魔法はフィラさんがいた辺りに着弾し、もうもうと土煙を上げた。

 やはりこちらを優先して正解だったか。これでは、フィラさんは俺が動かなければモロに食らっていただろう。

「ご、ごめんなさい」

「ぼんやりしないで下さい」

 実戦経験皆無の人には難しいかもしれないが、それでもこの場でぼんやりするのは命取りだ、という事を、短い言葉に込めて伝えた。もし伝わっていなくても、それは無事切り抜けてからしっかり伝え直せばいい。

 簡単に周りの状態を確認すれば、ベルさんがランタンを落として、フルゲンスさんの元へと向かっていた。

「待て! おい、待てって!」

 それを止めたのは、クルトさん。

 彼の出した大きな声に、ベルさんはビクリと震えた。あちらはクルトさんに任せてもよさそうだな。

 俺はフィラさんを降ろすと、今度はアマリネさんの方へと向かった。彼女を先に捕縛した方がよさそうだ、と判断したのだ。

「あら、本当にあたしの方に来てもいいのかしら?」

 ギリギリまで距離を詰めた所で、アマリネさんは微笑んだ。嫌な予感がして視線をずらせば、今度はビデンスさんがフィラさんへと魔法を向けていた。

 ――間に合うか!?

 慌てて踵を返すも、このままでは――

「だー、もーっ!」

 俺が顔を顰めると同時に、クルトさんが大きな声を上げる。

 彼はフィラさんの方へと走ると、そのまま押し倒す様に庇った。

「な、何ですの!?」

「うるせぇ、黙ってろ!」

 騒いでいる内に、二人の頭上ギリギリのあたりを魔法の風が吹き抜けた。

 俺では間に合わなかった。俺よりも近いクルトさんは間に合った。それは感謝しているが、彼はベルさんを追っていたはずである。

 今度はベルさんの方に視線を向ければ、彼はフルゲンスさんの元へと到達していた。

 そして、その二人を楯に出来る位置にアマリネさんは移動しており、ビデンスさんは魔法を放ってすぐにクルトさんとフィラさんの後方へと移動していた。

 つまり、全員完全に囲まれた。

 俺は小さく舌打ち一つ。クルトさんとフィラさんが倒れている場所へと急いで向かい、フィラさんを強引に立たせる。

 どうすればいい。考えろ。

 相手の目的はひとまず置いておくとして、この場を切り抜ける方法を考えなければいけない。

 この場で俺にとっての足枷にならない人は、おそらく誰一人としていない。俺は四人を守り、かつ、とりあえず二人を捕縛する必要がある。

 俺一人であればどうにか出来る問題であっても、今は状況が悪い。

「ベル、にげ、る……ッス」

「ルースと一緒じゃなきゃ、嫌だ……」

 フルゲンスさんが、絞り出すような声でベルさんに逃げるように促す。一人であれ、二人であれ、逃げられるのならそれに越した事は無いが……出来るのか?

「あらまぁ……」

 緊張しているのはこちらだけなのか。この場にそぐわない程、のんびりとした相槌がアマリネさんから飛び出した。


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