2-26 聞いて下さいまし!
「クレス、聞いて下さいまし!」
今日もまた、ネモフィラはクレマチスの執務室を訪れた。
「フィラ、ソファーに座ると良いよ」
クレマチスが、今日は直ぐに執務室に置いてあるソファーを勧める。既にバンクシアから話を聞いていたからそうしたのだが、ネモフィラはそんな事とは知らずにソファーの方へと向かう。
「お言葉ですがクレマチス様」
「モル、私は彼女と話をしようと思っているんだ。邪魔をしないでくれ」
「……承知いたしました」
モルセラがまた苦言を呈そうとしたものの、今日は最後まで言わせない。ネモフィラがその様子を見ていると、ローテーブルを挟んだ向かい側のソファーに、クレマチスも腰かけた。
「モル、お茶を淹れてくれ」
「はい」
「それで?」
クレマチスが直ぐに自分に向き直った事に気を良くし、ネモフィラは今日一日であった事を語りだす。主に何でも屋での事だ。
私は悪くない、というエッセンスをたっぷりふりかけて作られる話は、ネモフィラの為の砦なのだろう。
途中で出させたお茶を啜りながらも、クレマチスは聞いてくれた。昨日は否定し、諭していた彼がどういう心境の変化か、相槌を打って聞いてくれるのだ。
粗方を聞き終えると、彼は穏やかに笑って立ち上がる。
「ちょっと席を外すけど、直ぐに戻ってくるよ。待っていてくれるかい?」
「ええ、待っていますわ」
ネモフィラは気にした様子も見せずに頷く。クレマチスに否定されずにいられて、安心している、というのが理由としては大きかった。
「モル、お茶菓子を」
「はい」
今回は素直にネモフィラに菓子を出すと、ドアへと向かい開ける。
「それじゃあ、フィラ。ちょっとだけ待っていてね」
「ええ、大丈夫ですわ」
クレマチスはモルセラに開けさせたドアをくぐり、モルセラもその後を追うように部屋を出た。
執務室に残されたネモフィラは、お菓子に手を伸ばす。
クレマチスが気に入って作らせている焼き菓子の表面には、花の焼き印が押されている。ぱくりと口にすれば、柔らかな食感と共に、たっぷりのバターとナッツの香ばしい風味が広がった。
甘い。いつもの味だが、甘くて甘くて、なんだか無性に泣き出したい気分になった。
今日一日大変だった。悪くないと自己暗示を掛けていても、どこかそんな事は無いという風に考えている自分もいる。
昨日とは打って変わって優しいクレマチスの態度も、少しだけ不安だった。
優しくされなければ不満で、優しくされれば不安。感情をコントロールしきれず、ネモフィラはお菓子を茶で流し込む。お菓子と同じように、胸につかえた感情も流してしまいたいと願いながら。
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