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管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第一章
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1-4 私の権限でそれを良しとする

 医務室で告げられたのは、ナスタチウムさんは心労がたたって倒れたのだろう、という事だった。

 状況などからそう判断されたようだった。

 俺が書類を持っていく前には既に熱があったらしく、それがあの騒動で更に熱が上がり、今に至る、と。

 と。

 医務室の扉が開く。

「ジギタリス、何をしている」

 扉の向こう側から現れたのは、俺とそっくりな顔をした大男。父であるバンクシアさんだ。

 丁度良い。手間が省けた。

「お疲れ様です、バンクシアさん」

「ああ、ご苦労」

 軽く頭を下げれば、バンクシアさんは簡単に返し、夥しい量の血が滴る腕を保健医に見せる。

「腕に怪我をした。手当てを頼む」

「はい」

 見せられた保険医は、手慣れた様子で服の袖をまくり、怪我の度合いをチェックした後、てきぱきと手当てを始めた。

「それで、ジギタリス。何故ここに?」

 保険医に手当をさせながら、視線は俺に。

「執務室でナスタチウムさんが高熱で倒れたので、その場にいたネモフィラ様とフルゲンスさんに簡単な指示をした上で、ここに彼を運んできました。今後について上司に意見を仰ぎたいと考えていたので、貴方の所に足を運ぼうとしていたところです」

「ふむ」

 具体的かつ簡潔に。今の状況を答えると、バンクシアさんは怪我をしていない右手で顎に触れる。

 これはこの人が考え事をしている時の癖だ。

 基本的には無表情で、感情の起伏を感じられない平坦な声。ほんの少しだけ感情を表す仕草があるが、この顎に触れるのはその一つ。

「不幸な事に、こちらは大捕り物が入った。集団の犯罪者だ」

 やがて口を開く。既に考えは纏まったらしい。

「一応数名は捕まえたが、これから更なる情報を吐かせる必要があり、私はまだ指揮を取らなければならない。ここには手当てに寄っただけだからな」

 怪我はそれなりに深いようではあったが、縫うほどではなさそうだ。これは不幸中の幸いだろう。

「故に、私には軟弱者のフォローを完璧に出来るほどの時間的余裕はない」

 ちろ、と、バンクシアさんはベッドで眠るナスタチウムさんに視線を送った。

 確かに多少軟弱ではあっただろうが、あの状況では仕方がなかったと俺は思う。あのネモフィラ様の相手をずっとしているのは……さぞ大変だった事だろう。

 などと心の中ではナスタチウムさんに理解を示しつつも、現実でそんな事を口には出来ない。特に、この人の前では。

「ところで、その大捕り物とは?」

 俺の問いにバンクシアさんは「模倣の悪魔エピゴーネントイフェル」と口にした。

 これは1年程前から各地に出没している殺人鬼――死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)を崇拝する危険な集団の一つの名だ。

 死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)は、3の倍数、及び13、3の付く数字を好み、それになぞらえて三人ずつ殺すという殺人鬼。最初の被害者が生きている事から、噂が噂を呼び、憶測が飛び交い、今では熱烈なファンまで存在する。

 戦利品として爪を一人に付き三枚剥ぎ、3、6、9、12、13枚の痣を持っている物であれば、その痣の刻まれた皮膚も綺麗に削いで持ち帰る。

 人を殺す時ですら数を数え、13回目のカウントで殺すらしい。

 こんな殺人鬼を崇拝する集団が危険でない訳はなく、その中でも最近急成長し、ついに動き出したと言う模倣の悪魔エピゴーネントイフェルの捕り物となると、確かに大捕り物だ。

 それも、戦闘面では破格の強さを誇るバンクシアさんに怪我を負わせる相手となると、相当厄介だろう。

「大捕り物の詳細は、後程書面でまわす」

「はい」

 俺の思考を遮るように、バンクシアさんは「先程の続きだが」と話を元に戻した。

「お前が、そこで転がっている自己管理も出来ない軟弱者に代わり、現場を回せ」

 自己管理が出来ない訳ではなく、自己管理をさせて貰えなかった、の間違いだろう。

 バンクシアさんには伝わらないし、ナスタチウムさんを庇えば庇うほど、面倒な事になるのを理解しているから言わないが。何しろ幼い俺に、ナスタチウムさんを泣かせろと言ったくらいなのだから。

 それにしても、なんて無謀な指示だろう。

「私の権限でそれを良しとする」

 階級持ちでもない、一介の職員に任せるような物ではない。とんでもない事を口にしているが、魔法精術課のトップで、第二王位継承者のクレマチス様の補佐役とまで言われる地位につくこの人の権限なら、簡単に良しとされてしまいそうで恐ろしい。

「クレマチス様には話を通しておく。問題は無い」

「しかし――」

「話は以上だ。行け。私も直ぐに動く」

 俺の抗議は聞き入れられないらしい。

 バンクシアさんは手当てを終えたのを確認すると、言葉通り直ぐに医務室を後にする。

「仕事が一段落つきましたら、直ぐにナスタチウムさんを迎えに来て部屋に運びます。それまでここでみて頂いても宜しいでしょうか」

「はい、勿論です」

 俺は小さく息を吐きだしてから「よろしくお願いします」と頭を下げた。

「では、失礼します」

 そして、医務室を後にしたのだった。

 まずは執務室の様子を見て来なければ。考えるだけでも恐ろしいが。

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