2-8 え、そっちですか?
俺は彼に「分かっていますか?」と問いかける。
「何が、だよ」
「槍とは、殴るだけの物でも、突くだけの物でもないんです」
「んなこと、分かってるよ!」
クルトさんは吠える。
明らかに分かってはいないようだ。人を傷つけるのが怖い、という事を自覚出来れば、いっそ的を相手の武器に絞る、という手も使えるのだが……。
仕方がない。また少し煽って助言でもしよう。
弱いまま戦場に出る危険性は……身に沁みて分かっている。クルトさんがまた急に実戦に放り出されるような事になれば、先日の、模倣の悪魔と対峙した時の仲間のようになってしまうだろう。
特に、年若く経験の少なかったペンステモンさんのように……。
そんな事は、あってはならない。絶対に。
彼は前回の一件において、運良く助かったにすぎないのだ。
「いいえ、クルトさんは分かっていません。貴方は、おいくつでしたっけ?」
「17だよ……」
「本当に17歳ですか? 私は18なのですが、一つ違いだとは思えない程幼い印象を受けます」
俺はわざと癇に障るような物言いをし、じろっとクルトさんを見る。
「何!? 一つしか違わないのにこの身長差なのか!?」
「え、そっちですか?」
どうしよう、気が抜ける。いやいや、気を抜いてはいけない。
俺はしっかりとクルトさんを見て、助言を続ける。
「身長が低い事は、イコールで弱いとは限らないんですよ。ご自分が小柄である事に甘えて逃げないで下さい」
「べっ、別に甘えてねーし、逃げてもねーよ!」
「では、元々弱いのですね。前回は運が良かっただけだ、と」
「なっ」とか「むっ」とか、怒りそうになっては必死に言葉を飲み込むクルトさんをそのまま見続けていると、やがて何かを考え込み始めた。
一応、俺の言葉は彼の中に入ってくれたらしい。
「落ち着いたようですね」
槍を抑えていたサーベルを退けて、そっと彼と距離を取る。後は、落ち着いて動いてくれるのを待てばいい。
クルトさんは大きく深呼吸をすると、武器を構え直して俺を見る。
俺も合わせてサーベルを構えると、静かに動向をうかがった。
突きでくるのか、斬りかかるのか、それとも打撃を重視でくるのか。はたまた全く別の方法を使うのか。
どれでもいい。冷静に戦ってくれるのなら、それに合わせていくまでだ。
「よし、行くぞ」
「……言い忘れましたが、精術も途中で使って下さいね」
クルトさんが槍を構えたまま突進してきたのを弾きながら、俺は言葉を続ける。
簡単に弾く事は出来たが、それでも先程とはクルトさんの動きは違った。
すぐに体制を整えると、今度は打撃を与えるべく振りかぶり――先程よりも思い切りよく振り下ろす。
少しはマシな動きだが、まだ甘い。
俺はサーベルを槍の柄に当て、軌道を変えた。俺に「行くべき道」を変えられた槍は、そのまま地面へと突き刺さる。
うん、さっきよりも深く刺さっているな。やはり強く力が込められていたらしい。
「追撃、しないのかよ」
「しても宜しいですか?」
聞き返せば、質問にも答えずに体勢を立て直して突進。不意をつけるのなら、その方がいいか。
別にこの質問に答えて欲しかったわけではない。
一撃目は打撃。あっさりと受け流した。
すぐに二撃目、今度は突きだったが、ひらりと躱す。そのまま続けて三撃目。これも突きであったが、今度は槍を弾き飛ばした。
完全に力負けして宙を待った槍は、近くに落ちる。
クルトさんは慌てて拾いに行くと、体勢を立て直した。
そして俺の方へと走ってくると、思い切り横薙ぎにしてきたが……それほど意外性のある動きというわけではない。俺はひらりと後ろに飛んで躱した。
距離が開いたから、だろうか。
クルトさんは呪文の詠唱を始める。
精術を使い、次の攻撃を見たらおしまい、といったところか。
はぁはぁと息を乱しながらも、すらすらと詠唱する様は、流石といえる。
「あいつに風を!」
クルトさんの呪文の最後の一節。同時に、こちらに突風が向かってきた。
突風、か。
それならば、と、俺は持っていたサーベルを地面に突き刺し、その突風に乗って大きく後ろへと下がる。
クルトさんはといえば、槍を構えて距離を詰めて来ていた。俺の懐に飛び込むつもり、だろうか。
まぁ、あながち悪くもない戦略ではあるが、やはりここで幕引きといこう。
「終わりです。実力は測れましたので、もう結構です」
俺はクルトさんよりも早く動き、もう一本のサーベルを抜いて彼の懐まで距離を詰めた。
出来るだけ体制を低くし、喉元へとサーベルを突きつける。
じっと彼を見れば、なぜかクルトさんは先程俺が突き刺してきたサーベルへと視線を向けていた。
そして、ニヤリ。
口元に笑みが浮かび、俺は一瞬ひやりとする。まだ、何か策があったか。
「むしろオレの勝ちだな」
何だ? 一体、何が彼に余裕を与えている?
俺はわずかに眉を顰め、距離を取った。だが、辺りを窺うも、特に何かがあるようには思えない。
「二本目を使わせた! オレの勝ちだ!」
「……は?」
二本、目? 彼は何の話をしているんだ?
視線は突き刺してきたサーベル。という事は、二本目、とは、今まで腰にさしていた物を抜いた、手持ちのサーベルの事か?
「いや、だってオレ、お前の二本目使わせたし」
「は、はぁ」
二本目は使ったが、それと勝ちとの間に何の因果関係があるのか。
「クルト、お前は双剣使いと戦いたかったのではなかったのか?」
俺の疑問を打ち砕いたのは、今まで静観していたスティアさんの声だった。クルトさんはすぐにそちらに笑顔を向けると「おかえり!」と明るく手を上げた。




