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管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第二章
34/83

2-3 その指導? みたいなのって、必要なんッスか?


「改めて、自己紹介しましょう。私は、ジギタリス・ボルネフェルトです」

「ネモフィラ・アウフシュナイターですわ。よろしくお願い致しますわ」

 ネモフィラさんは、ペコリとお辞儀をした。

「……フルゲンス・ドライツェーン・ヒルシュ……ッス」

 そのスは必ず付けないといけないのだろうか。

「貴方の態度は、よくないと思いますわ!」

「んな事、あんたには言われたくねーッスよ」

 ネモフィラさんが、フルゲンスさんに突っかかる。

 これじゃあ、ナチがあんな事になった時と同じではないか。

「13枚とはいえ、何故そんな風に言われなければなりませんの?」

「はぁ? どこぞのお姫様だからって、今のオレとあんたは対等らしいじゃねーッスか。んじゃ、何でオレもそんな風に言われなきゃなんねーんだって話じゃねーッスか」

「お、おい」

「対等かもしれませんけれども、わたくしとは立場が違いますわ」

「その時点で対等って言わねーんスよ」

 俺の静止はスルーだ。

「いい加減にして下さい。仕事の話をしますよ」

「けれど――」

「仕事の話をします。そうしなければ、クレマチス様にご迷惑がかかりますよ」

「しますわ」

 とりあえず一人は黙らせる事に成功した。俺は、フルゲンスさんに視線を向ける。

「はいはい、聞くッス、聞くッス」

 彼はと言えば、肩をすくめて、行儀悪く壁に凭れた。まぁ、喧嘩をしないのなら、姿勢くらいどうでもいいか。

「ま、オレはどこぞのお姫様と違って、ある程度の仕事くらいは知ってるッスけどね」

 フルゲンスさんのぼやきは、ご尤もだ。

 彼は別に仕事が出来ない訳ではなかった。普通課の方では必死に仕事をこなしていたとは聞いている。

 とはいえ、ナチの一件での屁理屈は褒められたものではないが。

「書類仕事に関しては、後程やりながら説明するとして」

 俺の発言は、基本的にはネモフィラさんに向けられている。

 フルゲンスさんは今までやってきた経験から、少し教えれば大体の事はこなしてくれるだろう。

 だが、王族で最初は階級持ちから始まった筈のネモフィラさんは違う。

 外回りもあるような仕事をするところまで降格してきている時点で、仕事が出来ないのはお察しなのだ。いや、察するどころか実際に俺は経験していた。

 ナチが倒れた後の「まとめておきましたわ」事件は、中々だった。

 そんな訳で、ネモフィラさんに関しては、しっかり教える必要がある。が、彼女の名だけを出すわけにはいかず、まるで二人に話しているかのような口ぶりで続けた。

「この期間は第三都市の周辺の調書が入っています。調書は、魔法を使う仕事をしている者、及び精術師は二カ月に一回。その他の仕事をしている者は三カ月に一回です」

 ネモフィラさんは、自身もその対象であったはずなのに「まぁ、そうでしたの」といった、素っ頓狂な言葉を発した。どうしよう、指導していけるかな。

「今回は、この魔法使いと精術師の調書を取ります」

「……第三?」

「クヴェル、及びその周辺です。フルゲンスさんの出身地の辺りでは?」

 とりあえず彼女の事は無視し、反応したフルゲンスさんに話を振る。

「あんた、オレの出身地まで覚えてるんスか」

「局員の名前と、簡単なプロフィール程度しか知りません」

「……全員?」

「おそらくは」

 フルゲンスさんが小声で「マジッスか」と呟いたのが耳に入った。良い意味なのか、悪い意味なのか。

 いや、良い意味の筈はないか。良い印象を与える出来事は、今の所何も起きていないのだから。

「その調査は、一週間後周辺のどのあたりなら都合がいいか等を、先方に確認しておきます。そこで、調査に行くまでの間に、一体どういった態度で、どのような事を尋ねるのかを一つずつお教えします」

「へー、クヴェルに行けるんスね」

 あたりが強いのはそのままではあるが、彼は幾分嬉しそうな様子を見せた。

 機嫌が良いのは、悪いとは言わない。悪いとは言わないが……もしもこの先浮かれるようであれば、問題だ。

「ところで、その指導? みたいなのって、必要なんッスか?」

 機嫌がよくなっていたフルゲンスさんが、はた、と気が付いたように、顔をしかめる。

「フツーに喋ればいいだけなんじゃね、って思うんスけど」

「本当にそう思いますか?」

 俺はネモフィラさんの方を見ながら、尋ね返す。フルゲンスさんは「サーセン」と小さな声で謝った。

 分かってもらえるのならそれでいい。

 俺に対してあまりいい印象が無かったとしても、ネモフィラさんに対する「扱い」を考えて貰えるのなら、とりあえずは上々の滑り出しと言えよう。

「何故わたくしを見ていますの?」

「……いえ」

「あんたが使えなさそうだなーって事ッスよ。お姫様」

「まぁ!」

 ネモフィラさんは憤慨した様子で、つかつかとフルゲンスさんに近づく。

「そんなの、やってみなくては分かりませんわ」

「いやー、フツーに仕事が出来るんだったら、アンタは今、こんな所に居ないと思うんスよー」

「どういう意味ですの?」

 心底理解していないように、彼女は首を傾げた。察して欲しかったなぁ、そこは。

「そのまんまの意味ッス。他の王族の方々は、全員階級持ちじゃねーッスか」

「わたくしだって、そうでしたわ」

「過去形っていう段階で、気付けないとか、本当にバカなんスね」

 気持ちとしてはフルゲンスさんに加勢してやりたくないわけではないが、ここはぐっと堪え、俺は「その辺にしておいて下さい」と口を挟んだ。

 いつまでも物わかりの悪いお嬢様を相手にしていても、時間の無駄なのだ。ただでさえ、指導で大量の時間を持って行かれそうなのだから。

「業務を開始します。一つずつ教えて行きますので、必要な事はしっかりとメモを取って下さい」

「ウーッス」

「ええ、わかりましたわ」

 フルゲンスさんはともかく、一番問題がありそうなネモフィラさんの返事は良い。

 返事だけは、良いのだ。

 俺は小さくため息を吐いて、指導を開始したのだった。


   ***


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