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管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第二章
33/83

2-2 この三名で、今後は仕事に励んでほしい

 拍手こそ聞こえど、明らかな『不満』の視線が痛い。

 俺は階級章をクレマチス様から受け取り、頭を下げてから制服に付けた。表面上はそれほど問題が無いように見えるが、他の人の不満もご尤もだろう。

 客観的に見れば、歳若い枚数無しが権力者の父の力を使って階級持ちになった。こんなところだ。

「彼には執務室を与え、新たなるチームを組んでもらう」

 ……地位も執務室も要らないから、帰りたい。

「彼の部下に付けるのは、ネモフィラ・アウフシュナイター」

「はい」

 ざわ、と、一瞬だけ騒がしくなる。そして注がれる憐憫の眼差し。

 ネモフィラ様の存在のおかげで、俺は『コネ持ち』から『人柱』へと認識を変えられたのだ。

 つまり、適当な功績をでっち上げられ、第四王位継承者のお守りになった、という風に見える。いや、実際そうだろう。

 ナチの件で、ネモフィラ様をなんとか使っているのを、俺を六枚の管理菅ゼクスライトゥングに推したカサブランカ様の部下が見ていたのだから。

「それから、普通課から移動してきた、フルゲンス・ドライツェーン・ヒルシュ」

「……はいッス」

 その語尾のスは付けなければならない物なのだろうか。俺は二人目の部下の返事を聞きながら、ぼんやりとそんな事を思った。

「この三名で、今後は仕事に励んでほしい」

「はい」

「わかりましたわ」

「ウッス」

 三者三様の返事をして、簡単な式を終える。三者三様って言うか、俺しか正しくない返事だったけど。

 クレマチス様は「それでは、各々仕事を始めてくれ」と全体に伝えてから、俺達三人を呼ぶ。彼の近くには、側近であるモルセラさんが控えていた。

「ジギタリス君には、今まで通り現場での仕事も行ってもらう」

「はい」

「実戦はともかくとしても、調書を取りに行く際にはこの二人を同行させて、色々と教えて貰いたい」

 ……相手に失礼な事をしなければいいが。不安を抱えつつも、俺は「はい」と返事をした。

「おおよそのマニュアルや、やる事に関しては、君の執務室に冊子で用意させた。目を通しておいて欲しい」

「はい」

 指導もなく、ぶっつけ本番か。いや、これも先日ナチの代わりを務めたからこその対応だろう。

「何か質問は?」

「あの、一つだけ」

「何かな?」

 大体の事は、追々何とかなるだろう。先に確認しておかなければいけないのは、俺にとっては一つだけだった。

「ネモフィラ様の呼び方は……」

 正確には「彼女の扱いは」と言いたいところだったが、一応遠慮して、少し遠まわしな聞き方にする。

「君の部下だ。部下として扱ってくれるのなら、何と呼んでも問題ない。彼女の立場をすべて忘れる、というのは難しいかもしれないが、出来るだけ他の者と同じように扱って欲しい」

「わかりました」

 それなら、ネモフィラさんでいいか。様付けだと、結局「わたくしの方が偉いですわ」といった類の勘違いが起こりそうだ。

「他はないかな?」

「つーか、仮にあったとして、どうせ何にも変わんねーじゃねぇッスか」

 フルゲンスさんが、不機嫌そうに零すと、すかさずモルセラさんが「貴方は」と口を挟む。

「クレマチス様に、何と言う口の利き方を――」

「関係ねーじゃねーッスか」

「関係ならあります。私はクレマチス様の従者ですから」

 面倒臭そうな事態になった。これが、俺の率直な感想だった。

 俺達とクレマチス様の間にモルセラさんは身体をねじり込み、ジトッとフルゲンスさんを睨む。

「大体、あんた達がちゃんとやっていれば、オレだってこんな風に言ってねーんスけど」

「それは向こうの部署での話でしょう。こちらに持ち込まれても困ります」

「そういう、なぁなぁで済ませようとするところも含めての話なんスけどー?」

 睨むモルセラさんに、挑発するフルゲンスさん。更にネモフィラ様……もとい、ネモフィラさんが、「まぁ、喧嘩ですの?」と首を傾げるのだから、どう収拾をつけたらいいのか、皆目見当もつかない。

「まぁまぁ、少し落ち着いてくれ。モルセラも、下がって」

「ですが」

「いいから」

 渋々と言った様子でモルセラさんが下がると、クレマチス様はフルゲンスさんを真っ直ぐに見た。

「今まで大変だったね。この部署に来たからには、きっと変わる筈だ」

「……ふぅん」

 どうにも彼には納得はされていないようだ。

 普通課の方が、魔法精術課に比べると人間関係が水面下で黒く染まっていると聞いた事がある。おそらくはその影響を、彼も受けてきたのだろう。

 この辺は共に仕事をしていきながら、考え方を改めて貰うしかあるまい。

 今はこれ以上反発する気はなくなったようなので、とりあえずは様子見か。

「クレス、わたくしが頑張ったら褒めてくれますの?」

「あぁ、褒める。いくらでも褒めるから、あまり迷惑をかけないようにね」

「大丈夫ですわよー」

 クレマチス様の表情には「大丈夫じゃなかったんだけど」と書かれている気がした。何しろ、ネモフィラさんが大丈夫であったのなら、ナチは倒れなかったのだろうから。

 こうなってくると、ナチを潰さない為の応急処置として、クレマチス様も俺の昇進へ乗り気になったのかもしれない。

 彼とカサブランカ様との間で話し合いが持たれたのかどうかは、知る事は出来ないが。

「それじゃあ、頑張ってくれ」

 これにまた、三者三様に返事をし、俺達は、とりあえず俺に与えられた執務室へと向かったのだった。


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