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管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第二章
32/83

2-1 どう考えても出勤不可能なほどの高熱を出して休みたい

挿絵(By みてみん)

 こんなに憂鬱な朝は久しぶりだ。

 いや、先日の死を刻む悪魔(ツェーレントイフェル)の件の後よりは遥かにマシではある。だが、あの時とは違う『憂鬱』を抱えながら、俺はのっそりと起床した。

 理由は分かっている。仕事に行きたくないからだ。

 仕事に行きたくない理由もはっきりしている。昇進が決まったからである。

「ああ、どう考えても出勤不可能なほどの高熱を出して休みたい」

 独り言を呟くも、それが現実になるわけはない。

 おそらく今日の予定は、出勤してから人前でクレマチス様から階級章を渡される『昇進式』が行われ、積み上がった仕事をこなしていく事になるだろう。この『昇進式』、十二枚の管理官ツヴェルフライトゥングまでは各部署で、一番上の者――俺やバンクシアさんであればクレマチス様に階級章を手渡され、同部署の者に周知させる。そのクレマチス様や、普通課のトップであるカサブランカ様は十三枚の管理官ドライツェーンライトゥングであり、こちらは国王から階級章を受け取るらしい。らしい、というのは、俺がこの職場に身を置くよりも早く、クレマチス様とカサブランカ様が十三枚の管理官ドライツェーンライトゥングとなった為、直接目にした事は無いからだ。

 尤も、仮にその時見ていたとしても、カサブランカ様の姿を直接見る事は無かっただろうが。何しろあの方は、未だに誰の前にも姿を現していないらしい。

 ……いや、そんな事はどうでもいい。

 俺は「行きたくない」という言葉をため息と共に吐き出し、身支度を整えた。

 軽い朝食を取り、スープとパンを別の容器によそって持つと、ナチの部屋に向かう。

 先にやるべき仕事がもう一つあった事を思い出し、俺は朝から何度目かになるため息を吐き出した。


「おはようございます」

「はい、おはようございます」

 ナチの部屋に行くと、彼は既に着替えを済ませていた。

「今日は行けそうですか?」

「おかげさまで、今日から復帰出来そうです」

「それはよかったです。朝食はもう済ませてしまいましたか?」

 これは来るタイミングが悪かったか、と思いながら、持ってきたスープとパンをテーブルに置いてから尋ねる。それに対し、ナチはこてっと首を傾げた。

「あーんがないのに?」

「良くなってもあーんが必要ですか?」

 ナチは、今度は反対側に首を傾げる。

「してくれないんですか?」

「……」

 これは、クセにされている。あんなに頑なに食べ物を口にしなかったのに、現金なものだ。

「……明日からはご自分で食べて下さいね」

「……えー」

「返事は?」

 ナチは僅かに唇を尖らせて、「普段は譲歩します」と口にする。

「調子が悪くなった時の楽しみにしておきますね」

「楽しみなんですか」

「楽しみです」

 出来ればずっと健康でいて貰いたいのだが。

「……調子は万全になる様に過ごして下さい。では、朝食を」

「はい」

 俺はスープとパンをナチに食べさせる。なんだか親鳥の気分だ。

 あんな事があった後でも、まるで世界は『平和』であるかのように進む。俺もそれに合わせて進んでいかなくてはいけない。

 苦い物が込み上げそうになり――必死で飲み込んで、今日を始めた。


   ***


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