2-1 どう考えても出勤不可能なほどの高熱を出して休みたい
こんなに憂鬱な朝は久しぶりだ。
いや、先日の死を刻む悪魔の件の後よりは遥かにマシではある。だが、あの時とは違う『憂鬱』を抱えながら、俺はのっそりと起床した。
理由は分かっている。仕事に行きたくないからだ。
仕事に行きたくない理由もはっきりしている。昇進が決まったからである。
「ああ、どう考えても出勤不可能なほどの高熱を出して休みたい」
独り言を呟くも、それが現実になるわけはない。
おそらく今日の予定は、出勤してから人前でクレマチス様から階級章を渡される『昇進式』が行われ、積み上がった仕事をこなしていく事になるだろう。この『昇進式』、十二枚の管理官までは各部署で、一番上の者――俺やバンクシアさんであればクレマチス様に階級章を手渡され、同部署の者に周知させる。そのクレマチス様や、普通課のトップであるカサブランカ様は十三枚の管理官であり、こちらは国王から階級章を受け取るらしい。らしい、というのは、俺がこの職場に身を置くよりも早く、クレマチス様とカサブランカ様が十三枚の管理官となった為、直接目にした事は無いからだ。
尤も、仮にその時見ていたとしても、カサブランカ様の姿を直接見る事は無かっただろうが。何しろあの方は、未だに誰の前にも姿を現していないらしい。
……いや、そんな事はどうでもいい。
俺は「行きたくない」という言葉をため息と共に吐き出し、身支度を整えた。
軽い朝食を取り、スープとパンを別の容器によそって持つと、ナチの部屋に向かう。
先にやるべき仕事がもう一つあった事を思い出し、俺は朝から何度目かになるため息を吐き出した。
「おはようございます」
「はい、おはようございます」
ナチの部屋に行くと、彼は既に着替えを済ませていた。
「今日は行けそうですか?」
「おかげさまで、今日から復帰出来そうです」
「それはよかったです。朝食はもう済ませてしまいましたか?」
これは来るタイミングが悪かったか、と思いながら、持ってきたスープとパンをテーブルに置いてから尋ねる。それに対し、ナチはこてっと首を傾げた。
「あーんがないのに?」
「良くなってもあーんが必要ですか?」
ナチは、今度は反対側に首を傾げる。
「してくれないんですか?」
「……」
これは、クセにされている。あんなに頑なに食べ物を口にしなかったのに、現金なものだ。
「……明日からはご自分で食べて下さいね」
「……えー」
「返事は?」
ナチは僅かに唇を尖らせて、「普段は譲歩します」と口にする。
「調子が悪くなった時の楽しみにしておきますね」
「楽しみなんですか」
「楽しみです」
出来ればずっと健康でいて貰いたいのだが。
「……調子は万全になる様に過ごして下さい。では、朝食を」
「はい」
俺はスープとパンをナチに食べさせる。なんだか親鳥の気分だ。
あんな事があった後でも、まるで世界は『平和』であるかのように進む。俺もそれに合わせて進んでいかなくてはいけない。
苦い物が込み上げそうになり――必死で飲み込んで、今日を始めた。
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