表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第一章
17/83

1-17 いらっしゃいましぇー

 何でも屋での依頼を終えたその足で、レストランへと向かう。

 ヴァイスハイト、という、精霊の名前を付けているその店は、値段と味が比例しているような店。おいそれと使いまくる事は出来ないのだが、今回は別だ。

「いらっしゃいましぇー」

 ドアをくぐれば、ふざけた口調の男が挨拶のような物を口にした。

「こんにちは、テロペアさん。少々お願いがあって参りました」

「にゃににゃに? ジシュしゃんのお願いにゃら、出来るだけ叶えてあげゆよー」

 聞けば聞くほどふざけている。が、本人はいたって真面目だ。

 既に何年も「俺って噛みやすいんだよね」キャラを通しているせいか、しっかりと噛み方も板についている。

 これが良いかどうかはさておくとしよう。頼みたい事に口調は関係ないのだから。

「実は、熱を出して倒れてしまった上司がいまして」

「ふんふん」

「夕食にスープを持って来ていただく事は出来ませんか?」

「シュープだけ?」

「……とりあえずは。どうも私のスープだと、飲むんだか飲まないんだか微妙で……」

 今朝だって、ちょっとは口をつけたが、様子を見に行った頃には殆ど残っている可能性もある。普段は、昼以外は自炊しているが、今まで自分の料理を不味いと思ったことは無いのだが……。

「私は怖がられてはいますが、私が世話を焼かなければ、誰も何も……本人すら構わない可能性が高いんです」

「そりゃ、また……」

 続く言葉こそ濁されているが、分かる。「そりゃまた、困ったな」だ。事実、俺はそれなりに困っている。

「せめて沢山栄養の入った美味しいスープを差し出せば飲んでもらえるのではないか、と」

「配達すゆのはいいよー」

 よかった。これで食事の問題は解決だ。

 プロが作った栄養満点の美味しいスープなら、飲んでくれるかもしれない。飲まなかったら俺が飲む。いや、明らかに俺も忙しいのだから、最初から俺の分も含めて頼もう。

「では、とりあえず三日。夜に配達をお願いします」

「はーい」

「交通機関は列車を使って下さい。そちらの運賃も含めてお支払いしますので」

「わかったー」

 テロペアさんは手を上げて締まりのない笑みを浮かべた後で、厨房の方へと振り返る。

「ってわけらしいけど、異論はにゃいよね? ジジィ」

厨房の祖父へと話し掛けたらしい。

 俺は自らの祖父にジジィと口にした事は無いので、彼の心中はよくわからない。

「……特別だ。ただし、テロペアが配達をしろ」

「はーい」

 許可が出たのを喜んだらしいテロペアさんは、右手を上げてくるっと一回転してから、俺に笑顔を向けた。

 華麗なるターンだった。

「じゃあね、ジシュしゃん。夜にシュープ持っていくね」

「はい、お願いします」

「今はお腹すいてにゃい?」

「ベルさんにお弁当を頂きましたので」

「おお、じゃあおれからはいらにゃいね。ベユのご飯があれば、にゃんでも出来ゆようににゃるし」

 ベルさんの幼馴染らしい、愛のこもった評価は、お弁当に向けられたもの。俺は僅かに頷いてから、「お代は」と財布を出しながら尋ねたのだった。


   ***

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ