表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
管理官と問題児  作者: 二ノ宮芝桜
第一章
12/83

1-12 スープを飲んで下さい

 翌朝、身支度を整えてからナスタチウムさんの様子を見に行くと、彼は穏やかな寝息を立てていた。そっと額に触れれば、まだ熱がある。

 ぐるっと見回すも、スープを口にした形跡も、薬を飲んだ形跡も、水分を取った形跡すらない。クソ、と毒づきそうになるも必死に飲み込み、ナスタチウムさんをゆすり起こす。

「ナスタチウムさん、おはようございます」

「……ひぇぇ……」

 また怯えられた。傷つく。

「昨晩ナスタチウムさんにお願いしたお仕事の件、どうなりましたか?」

「お、お仕事、ですか……?」

 ナスタチウムさんはおびえた表情を浮かべながらも、赤い瞳を何度も瞬かせた。

「これです」

 俺が彼の傍らに置かれたままのメモを指差すと「うさぎ……」と呟く。うん、ウサギさんの形だな。よく気付きました。その調子で内容も頭に入れて欲しい。

「食事と水分、薬の摂取をお願いした筈ですが」

「お……覚えていません……」

「そうですか。では今からスープを温め直してきますので、実行して下さい」

 そう言い残して、枕もとで飲まれる事の無かったカップを手に、キッチンに向かった。

 程なくして、昨日の残りのスープを持って戻ると、ナスタチウムさんは、これまた置きっぱなしになっていた水で薬を飲み込んでいた。今まで見た事も無い程、素早い動きで。

「順序は逆になりましたが、スープを飲んで下さい」

「お、置いておいて下さい……」

「それで昨晩、飲みましたか?」

「……ぅぅぅ」

 なんだろう、今までは幼馴染まない関係ではあるが、どちらかと言えば冷静そうなイメージがあった筈なんだが。どう見ても子供がだだをこねているようにしか思えない。

「スープを飲んで下さい」

「……うう……」

 ナスタチウムさんは俺からスープカップを受け取ると、ちょこっとだけ口をつけてこちらをうかがった。飲んでますよアピールか。

「簡単に昼食になりそうなものを台所に用意しておきました。昼はそれを口にして薬を飲んで下さい」

 スープカップから口を離し、彼はわずかに頷く。

「では、私は出勤しますが、ナスタチウムさんは今日も休んで下さい。上司には私から話しておきます」

「……仕事は、滞りなく?」

「多少の滞りは有りますが、問題はありません。今は体調を戻す事を第一に考えて下さい」

 ナスタチウムさんは暫し考えて、小さな声で「……ラッキー」と口にした。絶対、ネモフィラ様と関わらなくてもいいっていう部分だな。

 どうやら結構な負担になっていたようだ。

「また夜に様子を見に来ます。失礼します」

「……ひぇぇ」

 ひぇぇ、って言った。傷つく。そんなに俺は怖いか。

 ため息を吐きながら、俺は彼の部屋を後にする。また忙しい一日の始まりだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ