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2話-4

その一言にテールはつい吹いてしまった

「いやいや、一昨日のキャラバンにいた子よ。ん〜北の賢者様がここに来る時は大事かあなたの嫌う厄介事が出たくらいじゃない?」

と、軽く否定しながらアンフェルを窓口前に備えていた椅子に座らせた

「いやぁ、この街で仕事してると見た目普通の化物クラスの連中が多いからさぁ?……一応聞くけど裏の家業の人じゃないよね?」

と、言いながら青年はジロリとアンフェルに視線を移す


 この都市が運営されて30年。構成や規模も不明だが、殺人の請け負いや金品の強奪などを生業とするいわゆる非合法な闇ギルドも初期から存在している。かつては少なからず需要も有ったので都市管理局も国も見て見ぬフリだった。が、10年前に形的には御飾りだった都市を治めていた史上最初で最後の竜騎士と謳われた中央大陸の英雄が白昼堂々暗殺された事により憲兵と合同で暗殺者の捜索や摘発が今も続いている

 もっともその発表は国と管理局の上層部が出した発表であって真実は闇の中…。裏の界隈では件の暗殺ギルドは関与を否定しているので余計な拗れと謎だけが残っいる


 「ふぇッ!?ち、違いますよ!!」

勿論そんなことは露と知れずアンフェルは首と手をブンブン振りながら否定するも、青年は興味無さげに引き出しから必要な用紙を探していた

「あんまりウチの新人いじめないでくれる?」

苦笑しながらテールがたしなめる

「そちらの皆さんに常日頃いじめられているので。じゃあコレに記入を」

冗談混じりに青年が返して記入用紙を机に置く。アンフェルはまじまじ見てつらつらと書き始めた

「字の読み書きできるんだ?ここの住人の大半が読み書きできないからなぁ。……難しい事じゃないしよっぽどのアホじゃない限り誰でもできる様になるってのに。にもかかわらず指導員の動員したら渋りやがって。そりゃ人手不足だから解るっちゃ解るけど、こっちの手間も考えろっちゅ〜の。だいたい──」

と、青年が感心したのも束の間。ネチネチと出続ける愚痴にアンフェルは引きつって一旦筆を止めた

「いつもの事だから大丈夫よ?」

テールは相変わらずの笑みを崩さずさらりと言うが気休めにもならず、そういえば商業都市(故郷)の悪どい金貸しもこんな感じだったなぁ…と思いながら、ビクつき書き進めた


「はいはい、確認するよ。……あぁ、やっぱりラズウェルさんとこの…。キミのお父さんの所は良く贔屓にさせて貰ったよ……」

書き終わった用紙をまじまじと神妙な面持ちで青年は一言漏らす。が、再び顔色が青に染まっていく

「とゆうか………男の子…なの?」

「はい、良く間違わると言うか……気付かない間に髪紐を女の人用のリボンにされたり、父さんの仕事のお手伝いさんに貰った服が実は女の子用だったとか…しょっちゅうからかわれてましたね……」

アンフェルはげんなりして遠い目でそっぽを向いた。 12歳ゆえのまだ声変わりもしていない高い声。それでいて前髪は多少跳ねてはいるが手入れが行き届いた細く柔らかい髪質の金髪にポニーテール。今も旅人用の外套を着込んでいてこの外見では判別が難しい。実際知ってか知らずか昨日はテールからキミィ用の寝間着を渡されて渋い顔を浮かべた


 「ああ、これは受理できませんわぁ…」

と、青年は渇いた笑みを浮かべて唐突に拒否する

「あら、職権乱用?」

「いやいやいや、違いますよ?あなたの所の男娼通いのバーバリアンズですわ。現状でも十分目を瞑っているのにダメでしょ。絶対手を出すでしょ?」

「さすがにそこまでじゃないかと思うけど……あとバーバリアンじゃなくて女傑族じゃなくて?」

「どちらも変わらない…てか、どっちでもいいですわ!奇行減ったと思ったら毎回毎回何かしらの別の問題起こすし、口酸っぱくあの野蛮人共どうにかしろって言ってるじゃないですかぁぁぁ!!」

「まぁ〜〜うん、ウチは軍じゃないし緩いのがウリだから♪」

「その頭もモラルもその他諸々含めた緩いのを止めてくれって上からも言われてるんですよ!!」

青年は顔を真っ赤にして怒声を浴びせるもテールはやんわりとした態度を崩さない。アンフェルはと言うと最初の放たれた怒声に驚きの余り椅子から立ち上がり猫の様にテールの後ろに隠れてしまった

「ん〜〜、もうすぐ帰ってくるし親方とフィリアちゃんと一緒にまた話に来た方が良い?」

「本当にヤバい連中じゃん!?てか、脅しじゃないですか!!やだぁぁぁぁぁ!!!」

青年はガバッと頭を抱えて悶え、2人の名前を聞いた途端に奥にいた2人は小刻みに震え出す。怒号や悲鳴が飛び交う中、アンフェルは不安を通り越して少し後悔をした


「じゃあ、よろしくね〜♪」

数分後、落ち着いた青年をよそに半ば無理矢理話を纏めた2人は外に出ていった

「何だかんだ言ってあの人が一番凄いですよねぇ……」

「あ〜〜ねぇ〜」

「一番まともそうに見えるのになぁ…」

「さっきの話にもあったけど、あそこの人達…見掛けで本当騙されるよねぇ」

少しの静寂の後、女性職員の一言から奥の4人が談笑を始める

「あの子大丈夫かなぁ……」

受け取った記入用紙をひらひらと手で遊ばせながらボソリと青年が呟いた



 「………お前ら酒と飯ぐらい奢れよ」

『ひゅいっ!?』

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