1話-5
「………いた」
防衛目標の数台の馬車を視認。馬車の回りをゴブリンが囲んでいるが、ガードと思わしき傭兵2人が奮戦している
キミィは前進しながら高度を上げて風の障壁を纏って急降下、馬車から離れている集団目掛けて突撃、再び上昇して全体が確認できる高度で停止する。数十匹のゴブリンが風の刃でズタズタに切り裂かれながら宙に吹っ飛ばされる
一瞬の出来事故に、自分の隣が急に消えたゴブリンたちしか気づかなかったが、それだけでは終わらない。直ぐ様馬車の後方で炎が壁状に燃え広がり、木々を焼き尽くす。さすがにこの異変に気付いたその場のほとんどのゴブリンは動きを止めざわついた
「……………ぶっぱ…」
そう一言漏らしキミィが右腕を振ると、馬車の集団を中心として円を描いて爆炎と轟音が連鎖的に巻き起こる。一瞬で馬車回りのゴブリンがほぼ一掃されたが、直ぐ様別の箇所で連続で爆炎に次ぐ爆炎が舞う
「ちょ……ちょっとこれ何なんですか!?」
この惨状を見かねたアンフェルはたまらず聞いてしまった
爆発で舞い上がってドシャリと落ちピクリとも動かなくなったゴブリンの死体の山。1分足らずで地形がガラリと変わり、堪らず前方に逃げ始めたゴブリンの悲鳴が木霊する
「………だまって」
一蹴。が、前方の離れた所から舞い上がる2つの砂埃を確認し爆破の頻度を弱める
「うぅるぁぁぁぁぁぁぁ!!」
まだ距離はあるがモリンは竜巻の如く回転し地上すれすれにハンマーをブン投げ、イザベラは剣を抜刀し群へ突撃する
ゴブリンの集団の前列は止まろうとしたものの、後続とぶつかり雪崩式に倒れる。そこへ勢いが付いたハンマー。直撃の瞬間に2人は一気に距離をつめてモリンは倒れて息があるゴブリンに蹴りの追撃を、イザベラは舞うような剣撃を次々に浴びせる
2人の気迫に圧されゴブリン達は後ずさるが最後列から徐々に前へと爆炎が襲い、前後から逃げ場を失ったゴブリンの集団の悲鳴はみるみる内に小さくなっていった
「………せいめいたんち……ここいがい…ひっかからない…」
戦闘が終了してから少し経って周囲の警戒と残党の確認を終えたキミィは、全員のいるキャラバンの馬車付近に降下するなりそう言った。イザベラは傭兵2人の手当てをすると寝るように促して他の死傷者の確認、モリンはハンマーで掘れるだけ土から穴を掘っていた
「あいよ〜、引っ掛からない…か……。悪りぃが馬車1台潰れて馬も全部逃げてっから戻って2、3頭連れてきて欲しい。あとスコップも」
キミィは頷くと飛翔してすぐに点になっていく
「と……どうすっかなぁ」
モリンは小さく呟き、こちらに背中を向けて両足を抱えて座り込んでいるアンフェルを見る
「柄じゃないでしょ?余計に刺激するよりかは適任者が来るまで何もしないのが吉」
馬車の裏側から歩きながらイザベラはそう言い、近くの木に背中を預けた
「でもよぉ…」
「あと何回繰り返すのよ?最終的には自分で何とかしないといけないし、中途半端が一番の問題……経験…あるでしょ?」
イザベラはそれきり黙りこみ、モリンは浮かない顔で穴を掘り続けた
数十分後、テールが馬車で、他ギルドの人間達が馬に乗りやってくる。馬車を止めるなりテールは走り出し、アンフェルの背中をぎゅっと抱き締める。堪らずそれまで我慢していたアンフェルの泣き声が周囲に響く
泣き疲れて眠ったアンフェルを馬車に乗せた後にテールは交渉し、キャラバンの荷物はアンフェルを通して商会の連絡が来るまで開拓ギルドで管理する運びになった。3人娘は街路の整地とゴブリンの死体の処理を手早く済ませた…と言ってもほとんどがキミィの魔法による作業だったが……
夕暮れ時を一団が進む。開拓ギルドの馬車の御者はイザベラが務め、馬車内には泣き疲れてテールの膝枕で眠るアンフェルに更に疲れて寄り添うキミィ。物資に背中を預けるモリン
「結局ほぼマイナスだわなぁ…」
と、呟いたモリンだったがすぐにテールにキッと睨まれてしまった
「………くうきよめ…のうきん」
「で…でさぁ。その娘どうすんのさ?聞けばもう天涯孤独の身らしいじゃん?」
慌ててモリンが話題を変える
「その事なんだけどね?」
テールは頭を優しく撫でていた手を止め
「私が引き取ろうと思うの」
と、微笑みながら真剣な顔で言った
「…二つ名を聖母にでもするつもり?この娘が何の役に立つってゆうのさ。第一ファリアの姉御が黙っちゃいないよ?」
と、溜め息を吐いてモリンは呆れかえる
「キミィちゃんはこの子嫌い?」
「うゅ?嫌い…じゃない……かも…?」
キミィは一瞬アンフェルを見るも、すぐに視線を反らす
「じゃあ、大丈夫ね♪」
「全く、私も話に混ぜて欲しいのですがね?ほら、着きましたよ」
馬車や馬の管理停留所に停め、苦笑しながらイザベラが顔を出す
「まぁ、この子の意思もあるからこれから相談して決めるけどね?」
アンフェルをおぶり微笑むテール
無表情にしか見えないキミィ
呆れるモリン
苦笑しているイザベラ
各々持てるだけの物資を運び、自分達の家 開拓ギルドブルースカイへの帰っていく
「でもそれより先に『アレ』ですよね?」
「うわ……完全に『アレ』忘れてたわ」




