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『デーメーテール』という名の料理店

「デーメーテール…?」


どこかで聞いたことあるような、無いような、そんな名前の店だ。


たしかギリシャ神話に出てくる女神の一人で、母なる女神とかいう…。


正直、ギリシャに来るまではギリシャ料理なんて何があるのかも知らなかったし、料理なんてただ食べているだけで、興味も持っていなかった。


風来坊が調べた範囲の、ギリシャ料理のほんの一部だ。


スブラキ&ザジキ


ムサカ なすポテトラザニア


タラモサラダ


(いわし)のケフテス


ドルマ


名前を聞いただけではどんな料理か、いまいちピンとこないが、ムサカというのはギリシャのなすポテトラザニアというもので、(いわし)のケフテスというのは、いわゆる(いわし)のすり身で作る、(いわし)ハンバーグといった感じだと、なんとなくイメージする。


「いらっしゃい、私は店主のデーメーテールといいます。」


「おいらは料理助手の、ヘパイストスだ。」


なるほど、この店主が、デーメーテールというのか。


日本でいう、肝っ玉母ちゃんといった感じだな。


そして名前が、母なる女神のデーメーテールという。ここの店の味はまさに、おふくろの味といったところか。


食べる前からいろいろと想像してしまったが、さっそく本場のギリシャ料理をいただくことに。


「ではムサカと、(いわし)のケフテスをいただきましょう。」


「まいどあり、ムサカと(いわし)のケフテスですね。

ヘパイストス、頼んだよ。」


「あいよっ!かしこまりっ!」


この味は、ここに来ないと絶対に味わえない。


一応、普通のパンとかもあるようだ。


そしてデザートとして出されたのは、やはりあの濃厚なギリシャヨーグルトだ。


「これは、今までに味わったことのない、新食感だ。」


今まで日本でいつものように食べていたヨーグルトとは、まるで異なる、濃厚な食感だ。


最初に一口入れた舌触りからして、どうしたらこんなふうに濃厚にできるのか、と感じていた。


正直な話、本場のギリシャ料理は、どれもこれも初めて味わう食感だ。


これで、世界中を旅することになれば、いったいどれだけの新食感を味わうことになるのだろうと、今から想像していた。


名前を聞いたこともないような名前の料理とか、あるいは激辛だのゲテモノだの、国によっては、そういうのも出てくるんだろうな。


「そういえば、ギリシャでは、たとえば鮹【タコ】とかは食べないんでしょうか?」


「鮹【タコ】ですって、私たちの国ではそういうものは食べませんねえ。

あなた日本人でしたね。

日本人はよく、鮹【タコ】を食べるということは知っておりましたが。」


そういえば欧米人はタコを食べないらしい。


もちろんギリシャ人も、タコは食べないようだ。


タコを食用でいただくという文化は日本だけなのだろうか。欧米人から見れば、日本人がタコを食べる方がゲテモノなのだろうかと、つい不謹慎なことを考えてしまった。


フランスにはエスカルゴという、カタツムリの料理が実際にあったり、また食用になるカエルとかも実際にいるようだ。


昔は、イナゴのつくだ煮というのを普通に食べていたそうな。


「やっぱり本場の味は、実際にそこに行って食べないと、味わえないものだな。」


ひととおり料理を食べ終えた。実際どの程度の値段になるのかと想像したが、思ったよりも格安で食べられた。


そこでデーメーテールが、あるものを持ってきた。


何かのプレゼントか?中身は、どうやらオルゴールのようだ。


それと自筆の手紙を添えていた。わざわざ自筆で手紙を書くということは、よほど親しい相手なのだろうと、察しはついた。


「実は私の娘は今、アルゼンチンのブエノスアイレスにいてね。

達者で過ごしているかどうか心配でねえ。

あなた、もしよければ、これを娘に渡してきてほしいのよ。

住所はブエノスアイレスの、このあたりよ。」


まさか、こんなことを依頼されるとは…。


「本当は私が渡しに行きたいところだけどね、この店は私とヘパイストスの2人でやっていることもあるからね。

私たちの留守中に万が一ということも、ないとはいえないから…。

本当にごめんなさいね、いきなりこんなことを頼み込んで。」


さあ、困った、と思ってみても仕方がない。


せっかく食事を食べさせてもらったのに、ムゲに断って、気を悪くされるのもそれはそれで困ると思ったので、しぶしぶではあるが、この依頼を引き受けることにした。


さっそくこのオルゴールと、自筆の手紙を届けるために、はるばるエーゲ海沿岸のギリシャから、南米大陸の南端のアルゼンチンまで、向かうことになったのだった。


「まいったなあ、ここからブエノスアイレスまで、何時間くらいかかるんだよ、それからどうやって行けばいいんだよ…。」


途方に暮れている暇もなかった。



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