実際に起きたらやっぱり怖い
見慣れない街に放り出されたアルトは辟易していた。むしろ、苛立ち多めといってもいいだろう。
「…あんまりじゃん。なんの説明もなく、こんなとこにほっぽりだすとかありえん!」
四つん這いの状態から顔だけをあげて目の前をちらと見ながら悪態をつく。
彼、アルトの目の前には大きなアーケード街が立派に立っていた。そこにはせかせかと動き回る商人や、選択をしている市民がぽつぽつと点在していた。
「とりあえず、どうすっかな。…いやぁ、とりあえずどうすっかなー。。」
彼は迷っていた。理由はこうだ。
「対して好みでもない」とは、彼の言葉だが
そこそこの美貌を持つ「神」と名乗るものが、彼の部屋に突然現れ、一言。
「私、神。ヘイトで世界を救え。以上。」
アルトは驚き、混乱し、ぶつけようのない怒りを覚えていた。
「自己紹介もされず、いきなり世界を救えだー?あほか。」
彼はようやく立ち上がり、手の砂を落としながら商店側に向かって歩き出した。道の真ん中ではなく左端を。そう、彼は堂々と道の真ん中を歩くだけの勇ましさを持ち合わせていないのだ。
持ち物の確認をしながらアーケードをくぐると、ところどころから好奇の視線を感じる。
「なに、このアウェイ感、え、パンツ履いてるよね俺。」
途端に不安になって下半身をまさぐる。
「あれか、外人が来たから珍しくて見ちゃうやつか、あれ、ついやっちゃうよね。」
不安や、恐怖を和らげるためなのか、やや大きめな声で独り言を口にする。
彼がこの地にやってきて、まず行ったのは現地の人への質問だ。
「ねぇ!そこの人、そうそう、君。ここはどこなのかわかるかな?」
年齢は7歳くらいだろうか。赤い髪と小麦色の肌が特徴的な女の子だ。
「〜〜〜?〜〜〜〜〜!」
恥ずかしながら答えてくれた女の子の音声を聞いて納得した。ここは外国だ。拉致られたのかもしれない。日本に帰らねば。一瞬のうちに思考が高速で回る。それならばと思い英語での疎通を試みる。
「where are me?」
完璧な英語である。自信たっぷりに巻き舌でまいてやった。
少女は少し困惑気味に場所を教えてくれた、ように感じた。
「〜〜〜!」
「おう。。薄々感じてはいたよ。。ここあれやろ、異世界やろ。言語操っといてくれや神。」
アルトは嫌な予感を転生された瞬間、いや、地面に這いつくばって顔を上げた瞬間から感じていた。
「だって、みんな、しっぽ生えてるし、顔半分先割れ大根みたいなやつもいるもーん!人は人でむきむきすぎるし!」
愛想笑いをしてその少女から離れるとようやくゲートをくぐりしばしうろつく。うろつく、うろつく。誰かに話しかけて欲しくて。
ただ、時間が経過した。
ようやく意を決して豚なのか鳥なのかを吊るしてある店の店主に話しかけてみる。
「こんばんわ!what are you doing?ぼんじゅーる!」
「‥‥‥」
‥‥右手を振り、怪訝な目をされた。
その後も色々な言語(彼曰くトリリンガルだそうだ)を使い四、五人に話しかけたところ、この街では日本語はおろか、英語ですらも意思疎通ができないことが判明した。
言語が通じず場所もわからない。路銀もない。
「こんな、赤ん坊みたいな状態じゃ、せかいなんかすくえねぇよ!ばかぁー!!」
アルトは拗ねた。どうにもうまくいかず、日が落ちたところで、適当な段差に腰をかける。
腰を深く曲げ、街中を観察し、思考に耽る。
「まぁ。よく見りゃ生活レベルは違わねーし、何とかなるべ。」
アルトは楽観思考であった。この時、交番や、言語が通じる人を探すという考えは彼にはなかった。不思議と、恐怖感は湧いてこなかったのだ。極限の楽観性は思考を捨て去った。
「とりあえず、歩くか。」
アルトは商店街をぬけ、次の街、正確に言うとなにも舗装されていない道を歩いていくのであった。この時は気づかない。所謂始まりの街であり、物語に不可欠な人物が「イルの街」にいることに気づくことは一生無かった。そう、通り過ぎたのである。
「どうすっかなぁー。」
少し、間の抜けた声と、どこか楽しそうな横顔からは緊張の色が伺えない。