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世界の巡りと混沌の担い手

作者: アルトx黒川

 世界の始まりはなんだったのだろう。

 意識の始まりはなんだったのだろう。


 生まれた無垢な本能から、溢れでた感情は、なぜあんなにも醜い顔をしているのだろう。

 どうしてあるべき形を押さえつける理性は、なぜあんなにも辛い顔をしているのだろう。


 一部の力ある者は、好き勝手に振る舞う。

 汚れた感情で、それこそ欲望という穢れを撒き散らして世の中を壊していく。


 見かねた世界は混沌が溢れる世界に八人の男女を送り込んだ。

 世界を存続させるべく、混沌に対抗できる者を。

 無垢で、無欲で、そして誰にも気付かれずに、ただ最初からそこにいたかのような希薄な者を。


 理性で世界を再生すべく、男という形には秩序ある理性を植え付け。

 感情で世界を導くべく、女という形には純粋で無垢な感情を与え。


 その者たちは担わされている。

 世界を平定するという役割を。


 その者たちは、与えられた役割をまだ自覚していない。

 何かが決まったしまった瞬間に、意思が生まれ、無垢でなくなり、役割を果たせなくなってしまう。


 然るべき時に、然るべき場所にただ現れ、世の穢れを払う。

 その者たちは何も知らず、しかしそれ故に自然と引きつけられ立ち向かう。


 ただ一つの過ちは、世界が思ったよりも人間という種の振りまく穢れが強すぎたことか。

 穢れを黒い汚れだとすれば、そしてその汚れを撒き散らすのが人間だとすれば。

 理性では押さえつけることができず、ことごとく打ち砕かれ。

 二の舞になるかと感情は、汚れを拭う白い布のように動いた。


 幾度となく世界は壊れ、創られ何でも続いていた。

 何度も続くうちに、汚れを拭う白い布だけになっていた。

 理性は欲望に呑まれ消え、人は自らの過ちを世界の再生で忘れ去る。


 使命を果たした布がどうなるのか。

 それはこびり付いた汚れを無理矢理に拭き続けた布を見れば、想像に難くないだろう。

 何度も汚れを拭うために送り込まれた布は、ぼろぼろになって、それでも何度も忘れて地上に降り立っていた。


 ---


 この国には四人の特別な女性がいる。

 彼女たちは三回の満月を迎えるごとに、交代で塔に入ることになっていた。

 天まで届く、再生の塔と呼ばれるそれに。


 ところがある時を境に異変が起こった。

 草木が燃えるような色に変わり、葉を落とした次の月から。

 国中が白い雪に覆われ、海は分厚い氷に閉ざされ。


 人間は枯れた木々を倒して火を起こし、溜め込んだ食料で飢えを凌ぐ。

 それは長く続き、本来であれば雪が溶ける頃。

 暖かな風が新たな生命の息吹を運んでくる時になっても、その国は白に閉ざされたまま。


 そんな中で国王はある御触れを出した。


 塔に入っている彼女を塔から出し、次に塔に入る彼女を連れてくるように。

 連れてきた者には褒美を取らせよう。

 ただし、傷つけることは認めない。

 彼女たちの廻りを止めてはならぬ。


 国民たちはどういうことか、訳が分かるはずもなく。

 見ることはするがそれをしようという者はいなかった。

 食べ物も薪も少ないこの時期、無闇に白に閉ざされた危険な外に出ようという者がいない。


 やがて分厚い石の壁を越えて、襲いかかる冷気に負けて凍死者が出始める。

 民は王に助けを求めた。

 城だけが異常だった。

 誰も死なず、不自然なほどに蓄えられた食料や薪。

 まるでこうなることが分かっていたかのような備え。


 王は言う。

 彼女たちを捕らえ連れてこい。

 塔の中にいる彼女を連れ出せ。


 まるで耳を傾けない王に、民たちは激怒した。

 城に押し入ろうとすれば、兵に道を閉ざされる。

 民たちが怒りの声を届けるべく、声を荒らげる中で、すっと離れていく人間の影もあった。


 このまま死んでしまうくらいならば。

 どこかにいる彼女たちを見つけ出そうと。

 しかし見つからない。

 どこを探しても見つからない。


 思い出せば、彼女たちは満月を三回迎える度に、どこからともなくふらりと現れては塔に入り、塔から出てふらりと消えていく。

 彼女たちは人間が見つけられる存在ではない。

 どんなに探しても、どこにでもいてどこにもいない。

 必要なときに、必要な場所に、ゆっくりと、薄らと存在を現し、季節という廻りに合わせてその姿を見せる。


 彼女らを捜し求めた人間たちは、見つからないのなら塔に入っている彼女を捕らえようとする。

 なけなしの食料と薪を持ち、大した装備もないまま塔を目指す。

 寒さに閉ざされた森を越え、白に染まった丘を越え。


 幾日も歩み続け、天まで届くと言われる塔を見る。

 人間たちは塔を見上げられる場所まで来ると、塔の入り口が固く閉ざされているのを見る。

 そしてその前で倒れ、半分ほど雪に埋まった少女も。


 少女は何のためにこの場所に来たのか。

 もはやそれは分からない、凍り付いた肉体は何も語ることはないのだから。

 白い雪に埋もれるそれを人間たちは見るだけで何もしない。


 積もった雪を掘り分ける。

 塔の扉を開けようとする。

 しかし張り付き凍り付いた雪によってびくともしない。

 人間たちは岩や丸太を使って何度も扉を打ち付けた。


 やがて扉にヒビが走り、嫌な音を立て始める。

 扉が膨らみ、内側から黒い霧が溢れ出す。

 人間たちはそれを恐れ後ろに下がるが、身体から力が抜けて動けなくなる。


 寒さとは別のもので歯がカチカチと音を鳴らし始める。

 扉の奥にはいったい何がある、何が潜んでいる。

 正体の分からないものに抱く恐怖が膨らむ。


 いつの間にか少女が扉の前に立っていた。

 寒さと雪によって凍てついた髪は白く固まり、青白くなった肌からは血が出て、凍り付いている。

 少女はひび割れた唇を開いて言う。


 テメェら人間如きが……よくもまあここまでやりやがったな。ただの偶然で生まれた物質の組み合わせ程度の存在が……どこまで世界を汚せば気が済む? どこまであいつらを苦しめればその醜い欲望が止まる? 世界を浄化するためのあいつらを捕らえて、浄化の為の塔を私欲の為に使うことの意味を知れ。


 見た目にそぐわない言葉で静かに、しかし凄まじい怒りを込めた怨嗟を吐く。

 少女は扉に向き直ると、体当たりで扉を打ち壊す。

 途端に中からヘドロのように濃い黒い瘴気が溢れ出す。

 それこそ今まで人間が撒き散らした世界の穢れ。

 少女はそれの奥底を見て言葉を発する。


 今まで辛かったな、もう頑張らなくていい、人間ども汚れを拭う存在なんてやらなくていい。お前たちの役割は必要ない、こんな世界なんて、放っておけば壊れてしまう世界なら一度壊してしまった方がいい。


 少女は手の中に白い光を生み出すと、黒い汚れを払うように腕を動かす。

 そのたびに白には黒がこびり付き、綺麗な輝きは瞬く間に汚れきっていく。

 それでも少女は光を作り続けて、痛みを感じても歯を食いしばり、汚れを拭い去る。

 やがて光を作り出せなくなると、少女は汚れを己の身体に封じながら塔の中へと腕を入れる。


 どろりとした塔の中から引きずり出したそれ。

 今ではぼろぞうきんのようになってしまった彼女を抱き留めると、忌々しいものを見る瞳で人間たちを睨み付け、光となって空に消えていった。


 ---


 幾星霜。

 世界は闇に閉ざされ壊れていった。

 あとにはただ混沌が広がるだけの空間がある。


 その混沌が無限の時の中で、時に煙のように広がって空間を多い、時に水のように集まって空間を満たした。

 それは定まった形を持たなかった。

 しかしそれは確かに秩序ある変化へと向かっている。

 混沌の闇より秩序の光が生まれ、壊れた世界が再生されてゆく。


 水に満たされたそこに大地が生まれ、天が生まれ。

 日が昇り、夜が訪れ、時の流れが生まれ。

 雨が降り、雪が降り、時には雷が大地に突き刺さり。

 四季が生まれ、遙かな流れの中で生命が生まれる。


 そう、はじめはよかった。

 だが時が経つにつれ、大地の奥底で渦巻く混沌の残滓が地上に向かい始めた。

 それがコブのように地上に現れ、さまよう影、欲望という塊として世界をさまよい始める。

 いつしかそれが人間となった。

 穢れの塊から生まれた穢れた存在。


 それが大地を埋め尽くし、世界の形を変えていく。

 光を創り夜の訪れを拒み、水を汚し、天を汚し。

 自然を壊し、四季の廻りを壊し。


 穢れを拭う存在がいない世界は、今までよりも早く破壊と再生を繰り返し、不安定になっていく。

 小さな欲があるべき形ならば、肥大しすぎた欲望は淘汰されるべき不要な存在。

 いわば遺伝する世界のガン細胞だ


 今や誰も、何も彼女らのことを覚えているものはいない。

 破壊と再生を続ける世界では、誰も、何も正しい記憶を持ち得ないから。


えーっと、今回はまあプロローグが用意されていたわけですが、


思いっきり無視!! 


というのはさすがにアレなのでちょっとだけ使いました。

このお話しは私が書いているほかの作品のプロットを流用して書き上げた物で、近いうちに似たような話が投稿されますね……。

ま、そのときはここのを使ったのか。ってな感じで読んでください。


※ちなみに冬童話2016のときのように冬の童話祭が終わったら後日談投稿します。



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