第5話 静かな夜のティータイム3
「約束の子とは、人と病の間の子だ。生きていても、殺しても病を撒き散らす、忌み嫌われる存在。これが世間一般の認識だろう。」
天井に吊るされたシャンデリアは、蝋燭の光を纏ってきらきらと部屋を照らしている。薄暗い中、ふかふかのソファに座っていれば、気を抜くと寝てしまいそうだ。
「……病は子を作って、その子に移り住んでから五年間、眠りにつくといった話はしたね。」
ジルは頭の中を整理しながら話しているのか、いつも遅い会話のペースがさらに遅くなっていた。微動だにせず考えている様子は、マスクの効果もあり、些か不気味である。
「ええ。」
それでもニコラスは根気よく耳を傾けている。まあ、セルマの事でもあるので、当然といえば当然か。
「………で、その病が目覚めた時に彼らは、本来の力を出すことが出来るようになる。」
彼ら約束の子は、病さえいなければ普通の子なのである。ジルの胸中に、なんとも言えない苦みが広がる。
「この五年間を私にも関わらせていただいたのは、安全だったから…という事でしょうか?」
ニコラスは少し考える素振りを見せてから言った。
「そういう事だ。」
ニコラスは理解が早いため、余計な説明が要らず、ジルは助かっていた。
自分の説明が遅いのもあるが、相手がニコラスでなければ何時間かかるか分かったものではない。
「…彼らは、感情の高ぶりなどで空気中に病の種を撒く。種の形は病の種類によって様々だが、それに触れると必ずその病にかかる。気をつけろ。」
ジルは、紅茶をひとくち口に含んだ。口の中にふわりと柑橘系の香りが広がる。少しぬるくなっていた。
「…それと、セルマが大事なら国には渡すな。やつら、何か企んでいるようだ。」
ふと思い出したようにジルは付け加える。
「…?分かりました。まあ、渡すつもりもないですが。」
思っていたよりも短くなってしまいました。
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