第2話 静かな夜のティータイム1
その家を訪ねるには、黒く優美な装飾が施された門をくぐり、その先の広い森を通り抜けなければならなかった。夜の闇に包まれた森はひどく静かで不気味だ。この森の空気には圧迫感があった。どこかで梟が鳴いている。
ジルは森の中にいた。獣道のような細い一本道を進んでいく。道のところどころに出ている木の根に足をすくわれないよう、ランタンで足元を照らす。
この森の所有者である家に雇われた人は少なく、門番はいない。整備されていない道は細い。盗賊には侵入しやすい好物件だ。
とはいえ警備はざるではない。この家の敷地内全域に呪いがかかっており、客でなければいつまでたっても家を見つけられないようになっている。
「…それにしても少しは整備してほしいもんだ。」
ジルは一人愚痴る。
今日の彼の服装はいつもと変わらない、"四つ目のペスト医師"だ。四つ目のペスト医師とは、誰が言い始めたのかは分からないが、いつの間にかついていた彼の二つ名だ。
そうしているうちに、目当ての家…というより大きな屋敷が見えてくる。煉瓦作りの壁には所々小さなひびが見える。日当たりの良いところを中心に、植物の蔦が這っており、周りの風景と同化するようにその屋敷は建っていた。
ジルは玄関に立ち、ライオンを模した呼び鈴をタンタンと鳴らす。
空を見上げるとたくさんの星が瞬いていた。空気はとても澄んでいて、見える星の数は多い。
数分かかってガチャとドアが開く。
「はい…ああ、いらっしゃいませ、ジル。」
呼び鈴に応じたのは、この家唯一の執事、ニコラスだ。マルティナの一件があってから、二人は定期的に合うようになった。ニコラスのジル様呼びもなくなり一一というより、ジルが強引に止めさせた一一、お互いを信頼する程度には仲が深まった。
「いつもの部屋で待っていて下さい。紅茶をお持ちします。」
「ああ、いつもすまない。」
いいんですよ、とニコラスは言って、ジルを中へと招き入れる。
内装は、シンプルだがシックな色合いにまとめられている。廊下のところどころに置かれた花は、みずみずしく美しい。掃除が行き届いているので、屋敷内はいつでもきれいだ。
ジルはもう馴染み深くなった廊下を、右に曲がったつきあたりにある部屋へと足を進めた。
ジルの目の前の長机に、コトっと紅茶のカップが置かれる。ニコラスが丁寧な手つきで、二人分のカップへと紅茶を注いでいく。濃いオレンジ色の紅茶からは、柑橘系のいい匂いがした。
「今日はアールグレイを入れてみました。」
ニコラスは、ジルの反対側のソファに腰掛けながら言う。
ここは、二人が話し合いをするときなどに、五年前から使っている客間だ。部屋の中央の長机をはさんだ両方にソファが置かれているだけの、簡素な作りである。
「…ありがとう。いただきます。」
ジルはカップに口をつける。温かい紅茶が身体に染み渡っていく。美味しい。
「では一息ついたところで、本題に入りましょうか。」
ニコラスは懐から、開封済みの手紙を出しながら言う。その手紙は、数日前にジルがニコラスへ送った手紙だ。本題とはその事だろう。
説明回…になりそびれた一話になります。次回からちゃんと説明していきますよ。
…書いてて思いましたが、予想以上の文字数になりそうです( つω;`) はやくセルマちゃんとほのぼのしたいです。