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病と少女と幽閉奇譚  作者: 繭月
想いは受け継がれて
4/11

プロローグ4

残酷な表現を含みます。

 2人がマルティナの部屋に入った時には、全てが終わったあとだった。


 赤ん坊の泣き声。ありえないほどの血が滴るベッド。ベッドの柵にもたれかかるマルティナは、自身も血で赤黒く汚れている。力ない手で毛布に包んだ我が子の頭を撫でている。素人目から見ても、死までの猶予はあまり残されていないという事が分かるだろう。


 「奥様!?」


 ニコラスは彼女の傍に駆け寄る。


 「間に合わなかったか…」


 ジルは自身の手首を握り締めた。爪が肌に食い込み、血が滴る。これだけは阻止しなければならなかった。…もう、遅い。


 約束の子(レギフト)は危険な存在だ。病と人の間の子。殺すには多大なリスクが伴う。…が、生かしておいても彼らは、周りに病を広めていくだけ。必然的に、死ぬまで監禁されて終わるのがオチだ。しかも厄介なことに、彼らは物を食べなくても生きていける。なんの被害もなくやり過ごすには、歳を経て消滅するのを待つしかない。不気味なことに、彼らは死んでも死体は残らない。


 「ごめんなさい、2人とも。…これはいけない事なのでしょう?」

 マルティナの小さな唇から言葉が零れる。

 「でも、一つだけ、私のわがままを…聞いてくれるかしら?」


 2人は無言で先を促す。


 「この子…セルマを、頼みたいの。美しい、世界を……見せてあげて………。」


 ジルは、それは難しい…と言いかけてやめる。マルティナはもうすぐにでも死んでしまうだろう。それなら、少しでも安らかに死ねる方がいい。ジルは…苦い嘘をつく。

 「わかった。」


 ニコラスは、涙で顔をグチャグチャにしながら頷いた。自分がこの人にもうなにもしてあげれないのなら、今できる事をまっとうしよう。…彼女の意志を受け継ごう。

 「…はい。必ずや。」


 マルティナは淡く微笑み、息を引き取った。


 ジルのコートの中から、家から持ってきた資料が落ちる。ジルに拾う気力はなかった。

 開け放たれた窓から、涼しい風が吹いてくる。風は資料をパラパラとめくった。


 セルマはいつの間にか泣き止んでいた。小さな身体で、過酷な運命を背負うセルマにマルティナの願いは通じるのか。


 小さな赤子の中で、アルベルトは思う。

 (人間というのは複雑でわけがわからん。だが、それが俺の興味を引き立てるのだろうな…さて、しばらく寝るとしようか。)


 資料162ページ 6行目。

 <病は条件が揃えば、稀に人格を持つようになる。やつらは親から子へと移り住んでいく。人格をもった病は厄介だ。厳重に警戒せよ。>

 風はイタズラにページをめくる。


 静かな夜が過ぎてゆく。

気づいていた方もいるでしょうが、まだ主人公ちゃんは出てきてなかったんですよね。

しかし、次話からはお待ちかね主人公ちゃんのターンです!乞うご期待ください。

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