第一戦
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一週間後の学園の放課後。僕たちは対戦の時を迎えていた。
周りには、けっこうな数の見物人がある。
「おっ、相手も来たな」
秀人の前方には六人のグループがやってくる。
一番前にいるのは静かな雰囲気を持った女子だった。
「秀人、久しぶり」
わずかだが秀人に笑みを向ける。
彼女は学生ランキング最上位者の高島薫さん。
成績優秀、容姿端麗でクールな性格の彼女は男女問わず人気である。そして、何故か秀人とは面識があるらしい。
「そうだな、春休み以来か」
「そうね」
なんだこの感じ、仲が良いような悪いような雰囲気。もし前者ならこの場にいる男子全員が秀人に襲いかかるだろう。もちろん、僕もヒカルもその一人だ。
「お二人さん。今は対戦相手なのよ。お話は終わってからにしなさい」
注意してきたのは、今日のチーム戦の審判及び証人を務める工藤先生だ。
「すみません」
「あいよ」
「それでは、これよりチーム『矛盾な落ちこぼれ』対チーム『世界の頂点』のエキシビションマッチを始めます。なお、この試合の結果は学生ランキングに反映されますので両チームとも全力を尽くしてください」
あれ、二年生になって初めての試合のせいかな。妙に緊張してきた。
「だ、大丈夫よ、トオル。やることやれば自ずと結果は付いてくるわ」
僕の緊張が分かったのか舞はそう言いながら僕の手を握ってくるが、握られた舞の手が震えているのが分かる。
舞も緊張してるんだな。
「早速、試合を始めたいと思いますが何か質問は?」
「ありません」
「あ、こっちから一つ提案がある」
秀人が手を挙げる。
「何ですか?」
「試合の順番を変えてほしい。三対三、二対二、一対一の順番にしてほしい」
「それくらいならこちらは別にかまいませんが『世界の頂点』はどうですか?」
「構わない」
「それではその順番で試合を始めます。試合方式は『核破壊方式』で行います」
核破壊方式とは代表者の胸元部分に着けられた核を先に破壊した方が勝つという単純なルールである。
「対戦相手を死傷もしくは重傷を負わせた場合は失格とします」
もし、死傷もしくは重傷を負わせた場合はペナルティが下されるが誰もペナルティの内容は分からない。
「まずは第一試合、人数は三対三です。出場者三名は前へ」
「それじゃ、行ってくるわ」
「行ってきますね」
「………………グッドラック」
こっちのチームからは舞、緑、ヒカルが出る。
ところで、ヒカルのグッドラックは何か違う気がする。
あっちのチームからは女子二人と男子一人というこっちのチームと同じ形で出てきた。
「二年C組所属、姫川舞」
「二年C組所属、川村緑です」
「同じく二年C組、皆川ヒカル」
試合前の挨拶が行われる。
「二年A組所属、山崎祐樹だ」
「二年A組所属、井上直子です」
「二年B組所属、木村はるなです」
こちらのチームは緑が核を装備している。相手は山崎君が核を装備している。
「それでは三分後に始めますのでそれぞれスタートする位置に移動してください」
工藤先生がそう言うと同時にヒカルの姿がその場から消える。
もちろん周りからは騒めきが起こる。
『お、おい一人消えたぞ!』
『え⁉ 何が起こった⁉』
初めて見た人は戸惑いを隠せないようだけど、知っている人はヒカルがどこに行ったかはすでに分かっている。
「あのヒカル先輩はどこに行ったのですか?」
何が起きたか分からないような表情で唯が聞いてくる。
「ヒカルならあそこにいるよ」
僕は校舎の屋上を指差した。
唯も僕が指差した方向に顔を向ける。
「え? え? どうしてあんな所に皆川先輩がいるんですか⁉」
「う~ん、どうしてと言われてもあれがヒカルの戦闘スタイルだからね」
僕の言葉に秀人が付け足す。
「あいつの具現は銃だからな。しかも、お前のような拳銃ではなく完全な狙撃銃だからな。ああして相手から距離を置いとかないと上手く扱えないんだ」
「そうなんですか」
そんな会話をしているうちに三分が経とうとしていた。
グラウンドを見るとこっちは舞が前で緑が後ろに立っている。この配置は一年の時から見慣れた光景だ。
相手は二人が前に出て、一人が後ろで待機している。
「それでは第一試合を始めます…………始め!」
開始と同時に相手が二人同時に舞に襲いかかる。
襲いかかってくる相手の具現は山崎君が短剣、井上さんは槍を装備していた。
しかし舞は何も動じず口だけが開く。
「遅いわ」
その言葉が言い終わるときに舞は二人の背後すでにとっていた。
「「くっ!」」
相手は急いで舞から距離をとる。
今、舞がしたのはアルの能力の憑依化である。アルの憑依化は速さ。
憑依した者の自らの速度を最大限までに引き上げる能力である。
アルが憑依した舞の周りには黄色いオーラが見えている。
「くそっ、どうする?」
山崎君が女子二人に相談する。
「こうなったら先に緑さんの方を狙ってみますか」
「賛成」
相手は緑に狙いを定める。
緑は何もせずただ立っているが右手にはいつの間にか相棒のイシスが具現化した杖を持っていた。
「させないわ!」
舞が相手との間をあっという間に詰める。
「あ、あの、舞先輩。は、速すぎませんか⁉」
舞の戦闘スタイルの様子を見て唯は驚いて聞いてきた。
「そうか? あれでもまだゆっくりの方だぞ」
答えたのは秀人だった。
「ええ⁉ 速すぎますよ⁉ あの、舞さんの二つ名って何ですか?」
「ん、あいつの二つ名は『神速の舞姫』。まあ、見たまんまの状態がそのまま二つ名になったな」
「性格は全然姫に見え(ヒュン)」
僕の目の前を光の刃が通り過ぎていった。
やってきた方向に顔を向けてみると…………。
「トオル~。何か言ったかしら?」
舞がこちらに笑顔を向けていた。手にはアルの具現化である双剣を装備していた。
一年間組んでいて分かることだがこの笑顔のときの舞は人を殺しかねないくらい怒っている状態だ。そして、その餌食になるのが毎回僕だ。
「な、何も言ってないです」
「おい舞、試合に集中しないと負けちまうぞ」
「それなら大丈夫よ」
気付くと舞の隣には相手である井上さんが地面に倒れていた。
「だってあと一人だから」
舞が顔を向けた先には山崎君と緑が向かい合っていた。
木村さんは、屋上からヒカルが倒していたようだ。
「えっ? いつのまに」
ほんの少しの会話の間に二人も倒されていたことに唯は目を白黒させていた。
「まあ、ヒカルの二つ名が『寡黙な狙撃者』っていうくらいだからな。気付かなくて当然だろ」
ヒカルの戦闘は誰にも気付かれずに遂行していくのがスタイルとなっているため、この二つ名が付いたらしい。というか完全に暗殺者がするスタイルだよね……。
「舞ちゃ~ん、ヒカルく~ん、終わったのならこっちも手伝ってよ~」
のんびりとした口調で二人に話しかける緑。あまり危機感が感じないのはなぜだろう?
彼女は戦闘をあまり得意としていない為、防戦一方という感じになってる。それでも彼女からは焦りの色は感じない。
「はいはい、すぐ行くわ」
そう言って、舞は緑の方へ向かう。
ヒカルも相手の方へ銃を向ける。
「それじゃあイシスちゃん、サポートお願いしますね」
『了解!』
すると、舞の双剣とヒカルの銃が光のオーラに包まれた。
「それじゃあ」
「これで」
「…………トドメ」
舞とヒカル、二人の同時攻撃が山崎君に迫る。
「なっ!」
全くの別方向からの攻撃に山崎君はなにも対処できずに攻撃が直撃する。
「ぐはっ!」
攻撃が当たると同時に山崎君の胸にある核が壊される。
「第一試合終了! 勝者『矛盾な落ちこぼれ』!」
審判の工藤先生の判定が下されると同時に歓声が上がる。