クラス紹介
ドテッ! ガコッ! ガンッ!
目が覚めた時には何が起こったのか分からなかった。
「……いってえ……」
『やっと起きやがったかバカ』
ぼやけていた意識が徐々に覚醒して前を見てみると目の前で相棒がフワフワ浮いていた。
「…………ポロ、これは何だ?」
僕は相棒であるポロを少しだけ睨むような目で見る。
すると……。
『いやトオル。これ全部お前がやったんだぞ』
呆れ顔でポロが僕に話しかけてくる。
全くポロの奴は何を言っているんだ。
「……ハァ、僕は寝ていたんだぞ。どう考えたってこうはならないよ」
今、僕の部屋は見るも無残な状態になっている。なんせ、テーブルやベッドがひっくり返っているし本棚が逆さまになっていたり、机の引き出しが全て開いていたりする。
『まあ、トオルの寝相の悪さは今に始まったことじゃないからな』
なんだこいつ。急に語り始めやがった!
『夜中のことだ。まずトイレから戻ってきたお前は突然本棚に頭をぶつけた。寝ぼけていたお前はぶつかった本棚に向かって「すいません、ごめんなさい」と土下座をしていた。あれは爆笑したな! いやー、あれは動画に収めたかった』
…………いったい、僕はどういう状態だったんだ。というか勝手に動画とかに収めようとするんじゃない。でも今の話だと本棚が逆さまになっている理由になっていない。
『そしたら突然、本棚を持ち上げて「待っていてください!」と言いながら本棚をひっくり返しやがった』
うん、意味が分からん。そもそも本棚を持ち上げる力なんか僕には無いぞ。夢の中の僕は意識が覚醒中の僕より強いのか……。なんかへこむ……
『そしてついさっき、お前は「…………ユ……ウ……」と、うなされながらベッドを巻き込みながら落ちていき、テーブルも一緒にひっくり返して起きたということだ』
……うん、さっぱり分からん。そもそもどう寝返りを打ったらこんな状態になるんだ?
「……言っていることはよく分からないけどとりあえず、部屋を片さないと」
立ち上がって部屋を片し始める。だけど、ポロは動かない。
「ちょっとポロ、ポロも片づけるの手伝ってよ」
ポロはまた呆れたような顔を向けてきた。
『……トオル、今何時だと思っているんだ』
「何時ってそりゃあ……」
壁に掛けてある時計に目を向けてみる。
時計の短針は「8」を示しており、長針は「4」を指していた。
「八時二十分だね。それが?」
『それが? ……じゃねーよ! 今日は始業式だぞ!』
…………! そうだった⁉ 今日から二年生だった。
「やっべぇ⁉ ポロ。行くぞ!」
『言われなくても当たり前だろ』
こうして僕らの高校二年生の最初の朝は、何も食べず学校に向かった。
★
「神」というものは、昔から頂点のような存在だった。専門分野の中で最高の人を表すのにも使われていた。
そして現在では、神様が実際に現れるような時代になった。その中でも神を従えられるものは神に選ばれた者のみである。選ばれた者は相棒とした神を自由に連れ歩くことができる。
そして僕、神田トオルの目の前にも「神」が浮いている。
『なんとか遅刻せずに済みそうだな』
神教学園の廊下を歩いている僕の目の前で顔を向けて聞いてきたのはローマ神話の太陽神アポロことポロだ。一言で表すなら…………バカ。が一番当てはまる奴だ。
「……そうだね」
『……なんだか今、誰かにバカにされたような気がするぞ』
「えー、空耳じゃない」
ポロは五年前のあの事件の時に僕に宿した相棒だ。そう、五年前のあのときから。
「よぉ、バカトオル。なんか春休み前に見た時からさらにバカな顔になっていねぇか?」
そう言って僕の隣に並んできたのは僕の悪友、黒崎秀人だった。
そして、秀人の近くにもポロと同じ神様が秀人の周りをフワフワ浮いていた。
『よぉポロ。バカは相変わらずのようにしか見えないが治ったのか?』
秀人の周りに浮いているこいつはエジプト神話の知恵・医療と魔法の神、イムホテプことイムだ。
見て分かるとおり秀人の相棒の神である。
そして―。
『イムこそ春休み前からどこか変わったのか?』
『そうだな、オマエより背が高くなったかもな』
―そして、ポロとイムの二人は悪口なしでは会話できないような仲だ。
「お前ら相変わらず仲良いな」
『『どこがだ!』』
「息も合っているしね」
でもこいつらのコンビが噛み合うと想像以上の力を発揮する。
僕はそんなバカ神二体の言い争いを放っといて秀人に話しかける。
「秀人、どこのクラスになった?」
「俺はCクラスだな。トオル、お前は?」
「僕もCクラスだよ」
ここ神教学園は進学・就職ともに成功率百%を誇る超天才校。というのが表の顔だけど裏の顔は世界各地に建てられている神々が住む遺跡を攻略する仕事『攻略者』を育てる為の育成機関であったりする。そのため、入学条件はたった一つだけ『神を有している者』だけである。つまり、バカでも入れる学校である。卒業後は『攻略者』として仕事に就くか、普通の大学に進学することが出来る。もちろん、大学卒業後は『攻略者』として働くことになるが大学からだと一年間の修行義務が課せられる為、ほとんどの生徒は高校卒業から就職することの方が多い。
この学園の特徴は全校生徒五百人を対象としたランキング制度がある。学力と神力を数値化したものがその生徒の能力として反映され、それを順位化したものである。
ちなみに、僕や秀人はいつも最下位を争っている。
「マジかよ、またお前と同じクラスかよ」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ」
「ただでさえ同じチームでこのバカ面を拝んでいるというのにクラスまで同じなのかよ」
「誰がバカ―」
ガツン!
突然、秀人の顔が目の前から消えた。……ただなぜだろう? 秀人がいなくなると同時にすごい風切り音が僕の耳に聞こえてくるんだけど……。
ドゴォォォォォォン!
気が付けば僕は壁に激突していた。そのうえ激突した壁を破壊していた。
「…………いってえ……このバカ力は……まさか!」
急いで立ち上がって後ろを振り返ってみると……。
「おはよう秀人。二週間ぶりくらいかしら」
「よう舞。お前も相変わらずだな」
秀人と僕の幼馴染である姫川舞が何事もなかったかのように普通に挨拶を交わしていた。
……どうしてあの二人は平然と会話をしているんだ?
「舞、まず君は僕に言うべきことがあるんじゃないの?」
「あっ、トオル。おはよう!」
「おはよう! …………じゃないよ! まずは僕に謝るべきだ。そして秀人! お前も何事もなかったかのように舞と話してるんじゃない!」
「何を言ってやがる? なぜ俺がわざわざお前の心配をする必要がある?」
……それは友人としても人としてもおかしいと思う。
たまにこの二人は本当に僕の友人なのか疑ってしまう時がある。
「どうだった秀人? どんなふうに見えたかしら?」
「そうだな、踏切でトオルと話してたらトオルが突然電車に轢かれて飛んでいったような感じだったな」
「待つんだ秀人。それだと僕はこの世からいないことになっている」
今の世界で友人と話していて電車で轢かれるとかシュールすぎてたぶん誰も笑ってくれないと思う。
それに、男子高校生を蹴ることもだが、時速百キロのスピードを出すぐらいの蹴りをする女子高生はそうそういないと思う。
「ムッ、なんかすごく失礼なことを言われた気がするんだけど」
『普段の行動から見て、そう言われても仕方ないと思うのだが』
そう言って舞の肩の後ろから小さな神様が出てきた。
「やあ、アルも久しぶり」
『久しぶりだなトオル。元気にしていたか?』
このすごく偉そうにしている神は、ギリシア神話の狩猟・純潔の女神アルテミスことアルだ。男口調の話し方でポロたちにも偉そうにしているけれど舞にだけは頭が上がらないらしい。なんでも、一対一の勝負で舞にボロボロにされたらしい。というか、神様に一対一で勝つって舞に神様は必要ないんじゃないかな。
そうこうしているうちに教室にたどり着いていた。舞もCクラスらしいので同じ教室というわけだ。
いよいよ、僕の新しい学年としての学園生活が始まるわけだ。
そんなことを考えながら秀人が教室のドアに手を掛ける。
ガラッ ギュッ バタン プシュー
…………人ってすごいね。一瞬の間にこんなにも様々な体験が出来るなんて……。
「なんだ、緑も同じクラスだったのか」
「緑、おはよー」
「舞ちゃん、おはようです~♪」
「二人とも! もう一回言うけどまずは友人の心配をするべきじゃないかな⁉」
今更ながらこの二人に友人というものの概念はないのだろうと思う。
「あ、トオル君おはよ~♪」
「あ、うん、緑、おはよう」
彼女は川村緑。僕達のチームの中で唯一の学生ランキングトップクラスの実力の持ち主である。緑の隣には、相棒であるエジプト神話の魔法の女神イシスが温かい目でこちらを見ていた。イシスはポロ達のお姉さん的存在でありポロとイムの喧嘩の仲裁をいつもしてくれるありがたい神様である。できれば僕達の時も仲裁してほしい。
そして緑はなぜか僕の上に乗っかっていた。
「えっと……緑? いつまで僕の上に乗っかっているの?」
「ん~! やっぱ~トオル君の上は心地いいな~!」
「緑、そこでトオルに抱き付いていると他の周りの奴らが奇異な目でこっちを見てくるのとトオルを殺しかねない形相でこっちを睨む男どもがいる。だから―」
ホッ……良かった。秀人が手助けしてくれ―。
「―だから、もっと抱き付いて周りの奴らに見せしめて殺れ♪」
―くれなかった⁉
しかも今の秀人の発言のせいで周りの奴らがいつでも僕を襲えるようにつま先立ちの前傾姿勢になっているんだけど⁉
「えっ⁉ いいの~⁉」
「あぁ、ギュ~ッと思いっきり抱き付いて(殺して)やれ」
「待ってくれ秀人! なんだか秀人の言っている言葉の意味が違う気がするんだけど⁉」
そしてなぜ舞は人をというか僕を今にも殺すようなオーラで睨んでくるんだ。
「安心しろトオル」
えっ? どうして? 誰か助けにでも来てくれるの?
「俺はお前が不幸になるのを見ているのが好きなんだ♪」
「もはや人としても友人としても最低だ!」
結局、HRが始まるまでこの状態が続いた。