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ハルチ  作者: あみるニウム
∞∞「日常」
50/53

∞∞−2

「ひどいよひどいよひどいよひどいよーーーっ」

 ナミは僕の腕の中で泣きじゃくっていた。

 いや、ひどいと言われても……。

 僕にそっちの気ははないし……。

 その時、僕はあることにはたと気がついた。

 そして、即座に叫んだ。

「天原さんっ!」

 僕の言葉に未だ呆けていた天原さんは瞬間に真剣な表情になり、ナミが、いや、ゾウがいた場所に向けて全速力で駆けた。

 それに合わせて、みろく、舞も全速力で移動する。

 そこには、三本の尾を持ったゾウオが一体存在していた。

 しかし、存在していただけで、身動きはしていなかった。

 身動きがしないゾウオに対し、天原さん、みろく、舞が連続で攻撃を叩き込む。

 刹那、ゾウオは音もなく消滅し……なかった。

 消滅せず、縮小され、三本の尾を持つリスへと姿を変えた。

 そして、リスはトコトコと走り、ナミの肩に飛び乗った。

 泣きじゃくっていたナミは、自分の肩に乗ってきたリスに気がつき、涙を止めた。

 ナミはきょとんとしながらリスを見つめた。

「ナミちゃんに涙は似合わないじゃん?」

 突然リスが喋った。

「おまえっ!」

 僕は咄嗟に身構えた。

「ふん、別にお前のことなんかもういいじゃん。っていうか、俺にもう戦う力は残ってないじゃん? そもそもが力は全て削がれていたじゃん。ナミちゃんの中に封印されていたからこそ、ナミちゃんの力を使って戦えていただけで、そこから乖離して、別個の存在となった今、俺に戦う力は皆無じゃん」

 リスはそっぽを向きながら話した。

「あなたが、ゾウくん?」

 ナミは首を傾げながら、リスに向かって問いかけた。

「そうじゃん。こうやって対面するのは初めてじゃん? 最も、無意識の中では会っていたじゃん」

 ゾウは、外見は普通のリスだった。

 尻尾が三本ある上に人間の言葉を話すということ以外は、特におかしな点は見つからなかった。

「おまえは、僕を殺すために生まれたんじゃなかったのか?」

 僕は先ほどゾウ自身が言っていた言葉を思い出し、疑問を投げかけた。

「そうじゃん。でも、たった今、ナミちゃんに、ナミちゃんの体から追い出され、別個の個体として作り替えられたことで、俺の使命は変わったじゃん。俺はナミちゃんの傍に付き添い、ナミちゃんを支えることが使命になったじゃん。それ以外に、俺にやることはないじゃん。だから、お前のことなんて、もうどうでもじゃん」

 ゾウは明らかに僕に対して嫌悪感を抱いている様子だった。

 先ほどまで戦っていた相手だからなのか、それとも、ゾウが支えるべき存在であるというナミを振ったからなのかはわからないが。

「それよりもじゃ……」

 いつの間にか近ついてきていた天原さんが突然声を発した。

「ナギどのは、お、お、女じゃったのか……?」

「え? そうですよ?」

 僕は何故今更そんなことを聞かれるのかわからず、首を傾げながら天原さんの質問に答えた。

「それにしては、胸が……」

「胸のことは言うなよっ」

 これでも気にしてるんだぞっ。

「いや、そんなことはどうでもいいじゃねえか」

 舞が僕に近づいてきて、グッと顔を寄せながら話す。

「何で一人称が僕なんだよ」

 舞の表情には、どこか怒りの感情が含まれているように感じた。

 何に対して怒っているのか、僕には皆目見当もつかなかった。

「いや……、それは……」

「ミナカさんとの約束なんだよね?」

 僕が口ごもっていると、みろくが助け舟を出してくれた。

「というより、遺言なんだっけ?」

「……ああ、そうだよ」

 そう、僕が『僕』という一人称を使うのは、兄さんとの約束だ。

 兄さんがいなくなったあの日の前日、僕と兄さんはとある口論をした。

 そして、どちらの言い分を通すかで賭けをした。

 結果、僕はその賭けに負け、『僕』という一人称を使うことになったのだ。

「知っての通り、兄さんには所々変な趣味がある。あの夜も、僕にいきなり、『ナギ、これからは僕っ娘だ! 今日から一人称を僕にしろ』とか言い出して……」

「なんだ……それ……?」

 舞は呆れた顔をしていた。

「いや、反抗はしたんだ。したんだけど、どうしても兄が譲らなくてさ……。それで、ひと勝負しようってことになって、普段は負けたことのないポーカーで勝負したんだけど、その日に限って負けたんだよ……」

 僕は恥ずかしくなってきてそっぽを向いてしまった。

「いや、でも、その後ミナカさんはあんたの前から姿を消したんだろ? わざわざそれを守らなくても……」

「それを続行することを、遺言として伝えられちゃってね……。しかも、定期的に実行してるか確認に来るとか言われたもんだから、無理矢理に使っていたら、いつの間にか本当に『僕』が一人称になってたんだ」

 僕は頭を抱えながら話した。

 おのれ……、兄さんめ……。

「くそ……、完全に騙されたじゃねえか……」

 舞はそっぽを向いた。

「ていうか、舞は同じクラスだろ? 何で知らないんだよ?」

「え? あ、いや、ほら、あたし、普段はメチャクチャ大人しいだろ? で、他人のこととか詮索するのも躊躇っちまうタイプだしさ。それに、身体測定は生徒会役員権限で別個に受けてたし、体育の授業も選択だから一緒に受けたこととかなかったし……。だからさ……、その……、ごめん……」

 舞は頬を真っ赤に染めながら、更に顔を逸らした。

 普段の舞が恥ずかしがっているときよりも、よっぽど赤面していた。

「まあ、いいじゃないか。とりあえず、一度生徒会室に戻ろうよ」

 みろくがいつもの笑顔を浮かべながら近づいてきた。

「……そうじゃな」

 対して、天原さんが納得はしてないようだが賛同した。

「一度、生徒会室に戻ろう。それから、ゆっくり話をしようではないか」

 そして、天原さんは舞に視線を送った。

 未だ赤面していた舞は、天原さんの視線を感じると、真顔に戻った。

「あ、ああ、そうだな。あたしも、探査をかけ続けるのはそろそろ厳しいものがあるしな。じゃ、みんな手を繋いでくれ」

 舞に促され、僕らは手を繋ぎ、目を瞑った。

「行くぜ」

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