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ハルチ  作者: あみるニウム
10「非日常の終焉」
47/53

10−3

「ひゅう……。やるじゃん? ここまで来るなんて度胸あるじゃん? 見直したよ、ぎゃはは」

 ゾウは完全に見くびった様子で僕に対面した。

「ま、でも、認めるのは度胸だけじゃん?」

 言うや否や、ゾウは僕に突進してきた。

 僕は慌てて身体を横に逸らし、それを躱した。

「へえ、やるじゃん? ならこれはどうじゃんっ?」

 再びゾウが突進してくる。

 今度はフェイントを入れ、複雑な動きで攻撃をしかけてきた。

 しかし、その攻撃をも、ぼくは難なく躱した。

 二度の攻撃を完全に躱されたゾウは、少し驚いた様子でこちらを見た。

 実は、僕自身も驚いていた。

 しかし、すぐに理由がわかった。

 相手がナミだからだ。

 喋り方は違えど、姿形はナミそのものなのだ。

 だからこそ、僕の体は無意識に反応して突進を躱したのだ。

 ナミでなければ、バトルセンスが皆無の僕が、あれほど簡単に攻撃を避けられる訳がない。

 それほどに、僕は自分のバトルセンスのなさに自信があった。

 いや、威張って言うことではないんだけれど……。

「じゃ、こっちで勝負するじゃん?」

 ゾウはたった一度のやり取りで近接戦闘は分が悪いと判断したのか、両の手に銃を現出させた。

 対して、僕も銃口の広がった、一風変わった銃を構えた。

「一つ聞きたい」

 僕はゾウに対して尋ねた。

「お前は、ナミと変わらないのか? 能力だけではなく、性質までナミそのものなのか?」

「そうじゃん? 俺はナミちゃんの体を拝借してるだけじゃん。だから、基本的にはナミちゃんそのものじゃん。俺が意識を支配してるってだけでさ。使える能力も、能力の絶対値も、性質も、何から何まで、ナミちゃんと何一つ変わらないじゃん。ま、ナミちゃんとっても優秀だから、ほとんど何でもできちゃんだけどね、ぎゃはははは」

 ゾウはナミの顔で大口を広げ、邪悪な笑みを浮かべた。

「なら、安心した。お前は僕には勝てないよ」

「……どういうことじゃん?」

 僕の言葉に、ゾウは下卑た笑いを収め、真剣な表情を浮かべた。

「お前がナミの基盤の上に成り立っているのなら、絶対に僕には勝てない。断言してやる。どう足掻いても、お前は僕の足下にも及ばない」

「…………言ってくれるじゃん」

 ゾウの額に青筋が走った。

 思ったより短気なようだ。

「ちなみに、今回の件の首謀者は、お前で間違いないんだよな?」

 僕はもう一度ゾウに尋ねる。

「当たり前じゃん? この辺りの奴で、俺以外にこんな高度な芸当ができるかっての。基本的に、あんたらが戦ってるゾウオってのは、駒に過ぎねえんだよ」

「ふん、そうか。安心した。だったら、お前さえ倒せば、全ては解決するんだな」

「舐められたもんじゃん? 俺はこれでも、この界隈じゃ五指に入る実力者じゃん? てめえみたいな昨日今日力をつけたようなひよっ子に負ける訳がないんじゃんっ」

 ゾウの青筋がより一層太くなった。

 僕は内心であと一息だと確信し、最後の煽りを放った。

「だから、言っただろう? お前は僕には敵わない。足下にも及ばない。月とすっぽんどころか、太陽とミジンコぐらいの差があるよ」

「舐めんじゃねえぞぉぉぉぉぉ! クソガキがぁぁぁぁぁ!」

 ゾウは激しい怒声を響かせるとともに、銃声を放った。

 左右の銃から、止めどなく僕に向けて銃を連射した。

「ぎゃははははは! 調子に乗るからじゃん? そんな調子に乗ったこと言っちゃうから、一発で死んじゃうような道を選んじまったんじゃん? あの世で後悔するじゃんっ!」

 叫びながらも、僕に向けての銃を乱射し続けた。

 乱射された銃から粉塵が上がり、周囲の視界が完全に遮られた。

「はあはあはあ……。あーあ、やりすぎちまった。もう、影も形もないはずじゃん?」

 ゾウは息を切らしながら言った。

 両の腕をだらんと下げて、疲れた様子を見せた。

「……もう終わりか?」

 僕は粉塵の中からゾウに声をかけた。

 粉塵が晴れると、ゾウは驚いた顔をしてこちらを見つめていた。

「何で……、無傷じゃん……?」

 僕は体に傷一つ負っていなかった。

「だから、言っただろう? お前じゃ僕の足下にも及ばないって」

「だ、黙るじゃん!」

 ゾウは叫びながら、再び銃を乱射した。

「死ぬじゃん! 死ぬじゃん! 死ぬじゃん! 死ぬじゃん!」

 ゾウはあらん限りの力で叫んでいるようだった。

 叫びながら、銃を乱射し続けていた。

 再び粉塵が上がり、先ほどよりも更に深い白煙が周囲を包む。

「はあはあはあはあはあはあはあはあ」

 ゾウの荒い息遣いが、白煙の向こうから聞こえていた。

「…………どうした?」

 僕は白煙が消えきる前に声を発した。

「それで終わりか?」

「な、な、なんで……、なんでじゃん……? 力は俺の方が圧倒的に上のはずじゃん? お前なんかに、ナミちゃんの力を拝借してる俺が、負ける訳ないじゃん……?」

 徐々に白煙が途切れ、驚愕の表情を浮かべるゾウの姿が視界に入り込んで来た。

 僕は口端を持ち上げて笑いながら更に煽った。

「だから言ったじゃないか。お前じゃ僕に勝てないって」

「う、う、うるさいじゃん! まだ、終わってないじゃん!」

 ゾウはまた再び叫びながら銃口をこちらに向けた。

 しかし、そこでゾウの動きが止まり、如実に焦った表情を浮かべ始めた。

「まさか……、まさかっ……!」

 どうやら気づいたようだ。

 何故、ゾウが僕に勝てないのかを。

「嘘じゃん……。そんな……、そんなはずないじゃん……!」

 ゾウは戸惑いを隠しきれない様子だ。

「気づいたか? 何故お前が僕に勝てないのか」

 僕は努めて冷静な顔でゾウを睨んだ。

 ゾウはびくっと体を強張らせ、怯えた顔でこちらを伺っている。

「俺が……、ナミちゃんそのものだからじゃん……?」

「そうだよ。ナミが、僕を傷つけることができる訳ないだろ? 何せ、ナミは僕を愛しちゃってるんだからさっ」

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