09−4
ハルチで最初に視界に飛び込んできたのは、おぞましい姿をした十体のゾウオだった。
奇声を上げながら、こちら側を殺気立った目で睨んでいた。
「まさか……、本当に十体ものゾウオがおるとはな……」
天原さんは未だ信じられないという様子で辺りを見渡していた。
僕もそれに合わせて辺りを何度も確認するが、何度確認しても同じだった。
四方八方を、ゾウオに囲まれていた。
「……あれ?」
しかし、そこであることに気がついた。
確かにゾウオに囲まれてはいるが、ゾウオがそれ以上近づいてくる様子はない。
殺気立ってはいるものの、それ以上前へ進もうとしていなかった。
「天原さん、おかしくないですか? ゾウオたちが、全く襲って来ませんよ?」
僕は周囲を真剣な様子で観察し続ける天原さんに問いかけた。
「舞どののフィールドじゃよ。確かに、舞どのの言っていたように、フィールド自体は機能しておるようじゃ」
そういえば、僕らがいた生徒会室には、舞の作ったシールドが張り巡らされているという話だったか。
「しかし、本来は、私たちがいることすら感知できなくなるはずなのじゃ。じゃから、私たちは紅茶などを飲んで時間を潰すこともできた。じゃが、こやつらは……」
「明らかに、僕らがここにいるとわかって、この場所に集まってるね」
みろくが目を細め、ゾウオを睨みながら話した。
「何がどうなったのかはわからないけど、間違いなく僕らの居場所がバレている。移動中も舞くんにシールドを張ってもらって、どこに移動したかわからなくしていたはずなのにね」
みろくが僕の疑問を見透かしたかのように説明してくれた。
「やはり、僕が原因なのか?」
「それはないと思う」
ナミが真剣な表情で話した。
戦闘に移行する可能性がないと判断したのか、ナミは宙に浮いていなかった。
「だって、もしぎいちゃんの力が、そんなに膨れ上がっていたのなら、私が感知してるはずだもん。ぎいちゃんと高ちゃんが戻ってきた時、そんな力は感じなかったよ。もちろん、向こうに行っている時も、多少感じたことのない力の流れはあったけど、爆発的に大きな力が動いていた訳じゃない。舞ちゃんのシールドに、その程度のことで綻びができるなんてあり得ないんだよ」
「あたしのシールドに異変はないようだぜ。だからこそ、気を抜いていたとも言えるのかもしれねえがな」
舞が能力発動状態の口調で話し、
「何にせよ、私たちの居場所がバレたことは疑いようのない事実じゃ」
天原さんがゾウオから視線を僕らに戻して話を続けた。
「覚悟を決めて、戦わねばならんじゃろう」
「あたしのシールドは、内側からの攻撃には脆いぜ。戦闘を始めるとなると、一度解除することになるがいいのか? 再び張るのには、少し骨が折れる。しばらく身を隠せなくなると思っておいた方がいい」
「致し方あるまい。このままでおっても、どうしようもなかろう」
天原さんは舞の不安など取るに足らないという口調で一蹴した。
「私がトランスに入るまで、少し時間がかかる。それが完了した瞬間に、総攻撃……」
そこまで言ってから、突然、天原さんが押し黙った。
「……いや、まずはナギどのに攻撃してもらおう」
「えっ? 僕がですか?」
突然の指名に僕は驚いた。
しかし、その驚きを封じるかのように、天原さんは話し続けた。
「そうじゃ。私がトランスに入ったら、合図を送る。その瞬間に、ナギどのはできる限りの攻撃を奴らに加えてくれ。舞どのはその直前までシールドを張り続け、解除が終わったら、ナギどのの警護を。みろくどのは、シールドが解除され、ナギどのの攻撃が加えられた瞬間に、ゾウオへの攻撃を開始してくれ。そして、ナミどのは……」
「わかってる」
「……そうか」
ナミは天原さんの言葉を遮り、何かを覚悟したかのような強い口調で了承の言葉を告げた。
それに対し、天原さんは何も言わなかった。
「よし、では皆の者、配置についてくれ」
天原さんの言葉を合図に全員が動き始める。
みろくは臨戦体勢になり、舞は僕へと近づいて構えた。
そして、天原さんはその場で秘文の詠唱を始め、ナミは宙へと浮かび上がり、目を赤く光らせる。
全員が戦闘態勢に入ったのを確認し、僕は意識を集中させ、銃を創出した。
銃口がやけに広がった、一風変わった形の銃を、目の前へと出現させた。




