09−3
その後、僕らは兄さんの話で盛り上がった。
僕の知らない兄さんの話、僕しか知らない兄さんの話。
様々な兄さんの話で、僕らの話は尽きることがなかった。
それは、あたかも法事の時に、個人を偲ぶ様に似ていた。
今になって思えば、それは確かに法事だったのかもしれない。
天原さんの話によると、丁度一年程前に兄が死んだということになるのだろうし、一周忌のようなものであったと言っても、何らおかしくはない。
本当に近しかったものだけで行われる法事だったと言っていいだろう。
しかし、それも束の間でしかなかった。
僕らが話していると、突然、ナミが驚きの声を上げた。
「え……、ちょっと待って……、何なの、これ……?」
ナミの顔面は蒼白になっている。
何かに怯えているような、何かを恐れているような、えも言えない表情を浮かべている。
それまで笑顔でいた僕らも、そのナミの異常な表情に一瞬で笑みを消した。
そして、天原さんがナミに尋ねた。
「どうしたのじゃ?」
ナミは言葉を失っていた。
唇を震わせながら、言葉を発しようとしているのに、あまりの恐怖に言葉が出て来ないかのような状態だった。
「おい、ナミ、大丈夫か? どうしたんだ?」
僕がナミの肩に手を置くと、ナミの身体は小刻みに震えていた。
完全に何かに怯えている状態だ。
あまりの異変に、みろくですら笑みを消している。
そして、周囲の様子を伺い、何か異常がないかを確認していた。
「……………」
相変わらずナミは唇だけを震わせ、言葉を発することができずにいた。
僕は耐えかねて、ナミの両肩を掴み、こちら側を強制的に向かせた。
「おい、しっかりしろ! 何があったんだ!」
僕の言葉にようやくナミは少し正気を取り戻したのか、ゆっくりと口を開いた。
「………囲まれてる」
「囲まれてる? 何に……って、まさか、ゾウオかっ?」
僕は驚きを隠せなかった。
「バカな! この場所が奴らに探知できるはずがなかろう! 舞どののシールドだって張ってあるのじゃぞっ?」
天原さんも焦りを感じた声を発した。
そして、舞が慌てて目を瞑り、何かに集中する。
「シ、シールドはきちんと機能しています。こ、この場所がバレるなんて、あ、ありえません」
「でも、囲まれてるの……」
ナミはガタガタと震えながら、必死で声を出した。
「それも……十体のゾウオに……」
その言葉に、全員が驚愕の表情を浮かべた。
「十体……じゃと……? そんなことがありえるのか……?」
天原さんが額に冷や汗を浮かべた。
普段は冷静なみろくでさえ、前回以上の焦りの表情を浮かべていた。
「どういうことなのじゃ…………まさかっ!」
天原さんが言うと同時に僕に視線を動かした。
「いや、あり得ない話ではない。今回の標的は、ナギどのなのじゃ。どうやって感知したのかは知らんが、ナギどのが力をつけ始めたと知って、敵方が焦って行動を起こした可能性はある」
「僕が……?」
確かに、先の訓練によって、僕はゾウオにとって脅威となる力を身につけたと言っても過言ではない。
それほど強いゾウオでなければ、夕方頃の初めて僕が対峙した強さ程度のゾウオであれば、一撃で倒せる程の力を、僕は身につけてしまった。
それがバレたのであれば、これ以上力をつける前にカタをつけようとする可能性はある。
しかも、今回はやっかいなタイプのゾウオの可能性が高いと、天原さんは以前言っていた。
知能の高いタイプならば、そのような計画的な行動が可能なのかもしれない。
「とにかく、一度ハルチへ移動するぞ! 舞どの、頼む」
「は、はい!」
舞の言葉を合図に僕らは手を繋ぎ、瞳を閉じて、急ぎハルチへと移動した。




