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ハルチ  作者: あみるニウム
08「僕の知らない非日常」
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08−2

「そして、ナギくんにミナカさんの訃報が届けられたその春に、僕とナミくんがゾウオ討伐隊に加わったんだよ」

 みろくが、続いて話を始めた。

「その時に、兄さんに会ったのか」

「というより、僕とナミくんは、ミナカさんの誘いでゾウオ討伐師になったんだ」

「……どういうことだ?」

 少しの間押し黙った後、みろくがゆっくりと話を始めた。

「あれは、僕とナミくんが、どうやったらナギくんに元気になってもらえるかって話を学校の帰りにしていた時だったかな。ナギくんがミナカさんの死の報せを受けて、生ける屍の如くなっていた頃のことだよ」

 みろくが遠い目をしながら、当時のことを語り始めた。

「僕らは、何とかナギくんに元気になって欲しくて、色々と考えていたんだ、幼いながらにね。その時、突然、僕らの前にミナカさんが現れた。最初は、幽霊かと思ったよ。何せ、こっちは死んだって聞いていたんだからね。そして、ミナカさんに連れられ、この地区の本部に赴いたんだ」

 俯いていたナミがようやく顔を上げ、みろくに代わり、話を続けた。

「ミナカさんはね、私たちにぎいちゃんを守ってほしいって言ってたんだよ。これから先、ぎいちゃんがもしかすると、大変なことに巻き込まれるかもしれないから、その時は力になってあげてほしい、って。それでね、そのために、力をつけて欲しいって言われたんだ」

 ナミもみろくも、滅多に見せない真剣な顔つきで、真剣な声で話をしていた。

「それでね、私たちはゾウオ討伐隊に加わるために、訓練を受けることにしたの」

 そういえば、あの頃、突然ナミとみろくがあまり声をかけて来ない時期があった。

 全くかけられなかった訳ではないが、ほとんどかけられなかったように思う。

 それは、ゾウオ討伐隊に加わるための、訓練に勤しんでいたのか。

「でも、ミナカさんに、ミナカさんが生きていることは絶対にぎいちゃんに言っちゃダメだって言われててね、私たちはぎいちゃんにミナカさんのことを言えなかったの」

 ナミが申し訳なさそうな顔でそう言った。

 何か、懺悔をしているような、そんな顔だった。

「いいよ、今ならわかる。ナミとみろくが色々と僕のためにしてくれていたことを。それで、ゾウオ討伐隊に入るために訓練をして、どうなったんだ?」

 僕は話の続きをするよう促した。

 再び天原さんが口を開き、話を続けた。

「当時、私が最年少記録を立てていたという話はちらっとしたが、その私と同年代の少年と少女が討伐師の訓練を受けているという話が、私たち現役討伐師の間で持ち切りになっておった。このまま行けばまた記録が塗り替えられるんじゃないか、とな。

 私は半年とちょっととはいえ、ミナカどのと共に活動していたことにより、だいぶ棘も取れておってな、ミナカどのと会う前じゃったら、間違いなく喧嘩を吹っかけていたのではないかと思うが、さすがにそのようなことはせず、ただ単に興味本位でその噂の二人に会いに行くことにしたのじゃ。まだ、二人が訓練に入ってひと月も経っておらんときのことじゃった。

 私はてっきり、まだ重みを乗り越える最中じゃろうと思っておった。ところが、私が二人の元を訪れたときは、二人ともすでに戦闘訓練に入っておった。二人の訓練担当は、彼らが一日に二回も三回もハルチに赴き、一週間以内に重みは克服したと教えてくれた。

 前にも言ったかもしれんが、普通は訓練でハルチに行くのは、一日一回までじゃ。肉体と精神が耐えきれんからな。しかし、二人はその常識を打ち破りおった。

 私は信じられんかったよ。私が討伐師になった時にも、重さを克服するのには二十日間かかっておるのじゃ。それでも、驚異的に早いと言われておったのじゃ。ところがじゃ、二人は一週間もせん内に、あの重さを克服したばかりか、二週目には戦闘訓練まで始めておったのじゃ。

 私は、身震いが止まらんかったよ。これが天才なのかと思った。しかも、天才が二人も同時に討伐師として訓練を始めているなんて、とんでもないことじゃと思った。

 そして、私は同時に、恐怖と焦り感じた。今まで私がおった場所に、同時に二人もの天才が現れてしまったのじゃからな。それで、私も一から訓練をし直すことにしたのじゃ。二人に負けておれんからな。ミナカどのに懇願し、一から教えを受けたのじゃ。

 そして、その時に身につけたのが、あのトランス術じゃ。秘文を唱えつつ、私の能力を増幅させる、他の誰にも真似できん技じゃ。

 私は驚いたよ。自分にも、まだ自分が知らない能力があることにな。それに気づけたのは、二人のお陰じゃ。二人の天才が、私の才を呼び起こした。まあ、私は天才ではないがのう。良くて秀才じゃろうて。

 昔は天才じゃと自惚れておったが、ミナカどのやナミどの、みろくどのという真の天才と実際に会ってしまっては、自分が天才でないことは一目瞭然じゃ。

 自分が天才でないことを一番わかるのは自分じゃ。たとえ、他人にその評価をもらったとしても、私は天才ではない」

「それを言うなら、僕だって天才じゃないよ、高子くん」

 みろくが言った。

「ナミくんは確かに天才肌だけど、僕は天才じゃない。確実にね。だって、別に能力が高い訳じゃないんだ。ただ、それを効率良く使う術に長けているってだけさ」

「そんなこと言ったら、私だって天才なんかじゃないよっ」

 ナミまで言い始めた。

「み、み、皆さん、本当に才能がありますよ。わ、私が、い、一番、才能が……ないんです……」

 舞まで泣きそうな声で言い始めた。

「そんなことないぞ、舞どの。舞どのは、普通は複数人で行う他人にハルチを共有させる能力の発動を、たった一人で行うことができる希有な才能の持ち主じゃ。舞どのほどの共有能力を持ってるものはほとんどおらんし、あれほどまで強度と持続力を合わせたシールドを張れるというのも、舞どのならではじゃ」

 天原さんの言葉に、舞が頬を染めた。

 そして、何故か生徒会役員共による、互いの褒め合い合戦が始まった。

 最初は微笑ましくそれを聞いていた僕だったが、五分経っても、十分経っても、十五分経っても終わらないその褒め合いに、段々と言いようのない感情が生まれてきた。

 そして……、

「兄さんの話はどうなったんだよっ」

 我慢しきれずツッコんでしまった。

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