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ハルチ  作者: あみるニウム
07「僕の知る日常」
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07−2

「で、高子くん、ナギくんはどんな感じだったんだい?」

 紅茶を飲み始めると、みろくが天原さんに僕への質問と全く同じことを尋ねた。

 どうやら、僕の意見は初めから当てにしていなかったようだ。

 まあ、言うなれば、僕は今日この道に入ったばかりのアマチュアで、天原さんはその道のプロなのだから仕方がない。

「うむ、全く戦闘の才能が──」

「天原さん、それ以上言うとアレも言いますよ?」

 僕は天原さんに笑顔で話しかけた。

 天原さんはその言葉に反応して、焦った表情を浮かべた。

「いやー、とてもー、才能に溢れておったぞー?」

 天原さんは突然棒読みになった。

 完全に目が泳いでいる。

「そうか、才能がなかったんだねえ」

 みろくがしきりに頷きながら断言した。

「なんでそうなるんだよっ」

 僕がみろくにツッコむと、みろくは軽く笑って僕に顔を向け直した。

「いや、高子くんは嘘を吐けないからねえ。思考を読むまでもなくわかるよ」

 みろくはにっこりと微笑んだ。

 その笑みが逆に腹立たしい。

「くそ……、ああ、そうだよっ、自分でもわかるほどに全く戦闘の才能がなかったよっ」

 僕はやけくそになった。

「でも、いい感じに仕上がったんだろ?」

 みろくが一笑いしたのちに、話を続けた。

「ああ、何とか足手まといにならないぐらいにはな」

「ぎいちゃんはどんな武器を使うの?」

 ナミが明るい声で問いかける。

「ああ、銃……」

 そこまで言ったところで思い出した。

 先の戦いでナミが銃を使っていたということを。

 恐る恐るナミの表情を伺ってみると、案の定、ナミはものすごく嬉しそうな顔をしていた。

「ええええ! ぎいちゃんも銃なのぉぉぉっ? やだあ、嬉しいぃぃぃっ! 私と一緒の武器だなんて、私照れちゃうぅぅぅっ」

 ナミはそんなことを言いながら身体をくねくねさせている。

 正直、気持ちが悪い。

「やだなあ、フルノさん、決してあなたと一緒じゃないですよ。ほら、あなたは二丁拳銃ですし、僕は一丁だけですから。それに、仕様も全く違う。何の類似点もないものですよ。はははは」

 僕は乾いた笑みを浮かべながら言った。

「待ってよっ! なんでそんな他人行儀なのっ? しかも、何でまたフルノって呼ぶのっ?」

「えっ? やだなあ、フルノさん、僕はずっとこんな喋り方ですし、いつもフルノさんって呼んでるじゃないですか、ははははは」

「ひどいよーっ」

 ナミが涙ながらに訴えた。僕は完全にそれを無視して、天原さんに話しかけた。

「それより、天原さん、今後のことを話しましょう」

 ナミは自分を完全に無視されたことが余程ショックだったようで、驚愕の表情を浮かべていた。

 今まで見てきたどの表情よりも更にひどい、最早、人様にお見せすることができないほどにブサ……ひどい顔だった。

「あ、ああ、そうじゃな、そうじゃった」

 天原さんはまだ先の僕の言葉で思い出した自分の失敗のことを考えていたのか、ボーッとしていた。

「あ、あの、それじゃあ、ナギさんも攻撃に参加されるんですか?」

 今まで僕から目を逸らしていた舞が、ようやく僕に視線を寄越しながら話す。

「ああ、そのつもりだよ。ただ、銃での攻撃になるから、近接戦闘はできないんだけど」

「才能もないみたいだしねえ」

 みろくが話を掘り返した。

「おまえ……」

 僕がみろくを睨みつけると、みろくは恍惚とした表情を浮かべていた。

 ダメだ、こいつにこの手の視線を向けるのは逆効果だ……。

「まあ、それは問題ない」

 どうしたものかと考えあぐねていると、天原さんが助け舟を出してくれた。

「ナギどのの力は、確実に戦力になる。それだけは間違いない」

「へえ、高子くんがそこまで言うなんて、本当に珍しいねえ。これは本気で期待できそうだねえ」

 みろくが表情を戻し、感心したように言った。

「そ、それじゃあ、布陣としてはいつも通り、みろくさんと私が先陣を切ればいいですか?」

「うむ、そうしてくれ。そして、私はいつも通り、二人が敵を止めておってくれる間にトランス状態に入る。ナミどのは、いつも通り周囲の探査を。そして、ナギどのは、みろくどのと舞どのの援護を頼む」

 天原さんがきびきびと作戦を告げ始めた。

「前回は四体も来おった。はっきり言って、これは前例がないことじゃ。もしかすると、より多数で攻撃を仕掛けてくるかもしれん。それも想定しておかねばならんじゃろう。じゃが、もし四体以上になっても、勝ち目がない訳ではない。私がトランス状態に入るまで三人で奴らを止めておいてくれれば、一人一体担当することで、四体は撃破することができる」

「へえ、ナギくん、一体は撃破できるだけの力は身につけたんだ。やるねえ、ほれぼれするよ」

 みろくがにやにやとしながら、僕の方を見た。

「おい、みろく、いい加減からかうのはやめろ」

 僕はイラッとしながらみろくを睨んだ。

「で、でも、初めての実戦で一体を任せてもらえるなんて、め、滅多にあることではありませんよ」

 そう言われ舞に視線を向けると、舞は尊敬しているかのような眼差しで僕を見つめていた。

「舞、大げさだ。今回は状況が状況だから、そうなっただけだ」

「えっ? ちょっと待って、私は? 私も攻撃したいっ」

 驚愕の表情を浮かべていたナミが、ようやく正気を取り戻し、会話に割り込んで来た。

「ナミどの、申し出はありがたのじゃが、前回もそれでナミどのが大変なことになった。やはり、探査をかけながら攻撃にも加わるというのは、無理があったのじゃろう。ましてや、ナミどのは空中浮遊もしておるのじゃからな。如何にナミどのの能力がずば抜けておっても、それ以上に能力を使うのは、やはり避けた方がよかろう」

「で、でもっ」

「前回の戦いにおいても、私の力不足もあったとはいえ、結果としては、ナギどのをも命の危険に晒してしまった訳じゃしな。今回はナギどのも戦いに加わってもらう故、前回とは状況が違う。

 とはいえ、ナギどのは戦闘にも不慣れじゃ。何よりも今回のターゲットはあくまでナギどのじゃ。ナミどのにはサポートに専念して、決してナギどのに危害が加わらんよう、全力を尽くしてほしい」

 天原さんが真剣な表情でナミに話した。

 ナミは前回のことを思い出しているのか、提案が不服なのか、俯いて涙目になっていた。

 しばらく押し黙った後で、ようやくナミは声を発した。

「うん……、わかった……」

 悔しそうな表情を浮かべ、震える声でナミは言った。

 不本意であることだけは間違いがないのだろう。

 ギュッと口元を噤んで、何かを堪えているようだった。

 しかし、僕にできることは何もない。

 励ましの言葉をかけるべきだったのかもしれないが、今まで全うな人付き合いをこなしていなかった僕には、こんなときにどんな言葉をかければいいのか、全くわからなかったのだ。

 視線だけはナミに向けたが、それ以上のことはできなかった。

 何度も声を出そうと口を開いてみたが、その度に僕の喉は音を出すことを拒んだ。

 口を閉ざし、ナミから視線を逸らす。

 何度も同じことを繰り返し試みたが、結果は同じだった。

 むしろ、こんな時には放っておくべきなのかもしれないという、自分勝手な、自分に都合の良いだけの解釈まで浮かんで来た。

 そして、僕は僕自身にそう思い込ませることで、その感情に終止符を打った。

 僕は、ナミを励ますことができなかった。

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