06−6
「気にするな。おそらく、あの距離とこの回数が、今のお主の能力の限界なのじゃろう。ざっと二十五メートル弱というところかのう?」
小学校などによくある二十五メートルプールの長さ、それが僕の射程距離。
そして、連続して撃てる回数は、十回。
これが今の僕の限界だということか……。
たったこれだけのことしかできないのか……。
「酷なことを言うようじゃが、そうじゃ。しかし、何の訓練もせずにあれだけ回数と距離を飛ばせるのじゃから、才能はあるのじゃろうて。もっとも、このような方法で戦いに挑むものはお主が初めてじゃから、比較の対象がないのじゃがな」
「そう、ですか」
まあ、誰もやったことのないことを成し遂げたということで、よしとしよう。
「しかし、これではまだ危ういな」
天原さんが真剣な顔つきでそう告げる。
「ですよね……」
僕も薄々感じてはいた。
大きさなどから言って、あの程度の炎ではゾウオに傷一つつけることはできないだろう。
二度しか見てはいないが、それだけでもわかるほどに、ゾウオは頑丈だった。
「何か……、何かもう一捻りできんものか……」
天原さんが真剣な顔で考えを巡らせた。
僕自身も、ありとあらゆる可能性を頭に思い浮かべた。
炎を出せることはわかった。
ということは、おそらく水や氷や電気を使ったその他の現象も、起こそうと思えば起こせるのだろう。
しかし、何を起こしたところで、その規模は知れている。
先の炎の塊と大差ないほどの規模でしか、今の僕には具現化できない。
なら、どうする?
どうすれば、この規模の現象を、ゾウオに対する攻撃として変換できる?
僕らはかつてないほど真剣に考えた。
普通に現象を具現化させて、それをゾウオにぶつけるだけではダメだ。
魔法剣のように、武器に宿らせて戦えたらいいのかもしれないが、生憎僕にバトルセンスは皆無だ。
武器に宿らせたところで、たかが知れている。
そのことは、先ほどの天原さんとの訓練で、僕自身が誰よりも身に染みてわかっている。
だったら、他の方法を取るしかない。
武器に宿らせるのではなく別の方法で、何か画期的な方法はないものか?
僕のバトルセンスを補って戦えるような、そんな方法はないものだろうか?
僕は様々なマンガやアニメのシーンを脳内に思い浮かべた。
魔法使いがどのように戦っていたのかを、必死に思い出そうと試みた。
しかし、どれだけ思い浮かべても、魔法使いは魔法使いでしかなかった。
魔法を使って、魔法で攻撃するシーンしか、思い浮かべることはできなかった。
どうすればいいんだよ……、今から戦闘訓練なんてできないんだよ……。
遠隔で戦えて、この力を巧く使える戦闘法は…………。
……いや、待てよ? 遠隔で戦う?
「天原さん!」
僕は思わず必要以上に大きな声で天原さんを呼んでしまった。
「ど、どうした?」
突然の大声に天原さんが思考を止め、僕に向き直った。
「これならいけるかもしれません」
きっと、今の僕は自信に満ちた顔をしているのだろう。
僕の顔をを見ると同時に、天原さんの表情も変わった。
僕の思い浮かべていたことも読み取ってくれたに違いない。
「……そうか、その方法があったか! うむ、いけるかもしれぬ。試してみようではないか! しかし、さすがにそればかりは私自身が受けるのは、危険な気がするな。よし、ちょっと待っておれ」
そう言うと、天原さんは先ほどの同じぐらいの距離に移動し、ゾウオの形をした目標物を具現化させた。
そして、再び僕の近くへと戻って来た。
「あれに向かって試してみよ。ある程度の強度は誇っておるはずじゃ。生半な攻撃では、びくともせん」
天原さんが具現化したものを指差しながら、僕に告げた。
「わかりました」
そして、僕は思いついたことを実行に移してす。
渾身の力を注ぎ、最後の秘策に思いを乗せる。
──結果は、大成功だった。
ゾウオを象った目標物は、粉微塵に破壊された。
周囲に飛び散った破片から、炎が上がっている。
天原さんが笑みを浮かべた。
僕も思わず口許が弛んだ。
目を合わせずとも、僕らの意識は同じことを実感していた。
これなら、この方法でなら、今の僕でも戦える。




