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ハルチ  作者: あみるニウム
06「非日常の受け入れ」
29/53

06−5

「どうしたものかのう……」

 天原さんは思案に暮れている。

 僕は、肉体的にも精神的にも打ちのめされて、途方に暮れるしかなかった。

 まさか、自分にここまでバトルセンスがないとは……。

 いや、別段運動が得意な訳でも、自信があった訳でもないのだが、決して動くことが苦手という訳ではないので、ここまで才能がないとは思わなかったのだ。

 誰が見ても才能が無いと断言できる程に、僕の戦いはお粗末なものだった。

 専門的な訓練をしている天原さんに敵わないのは当たり前として、それでころか本来は自分の一部となり、攻撃力となる武器にふりまわされる形だった。

 何一つとしてまともに扱えた武器はない。

 自分でもそれがわかるだけに、精神的な苦しみは一際大きかった。

「すみません、天原さん……」

「いや、気にするでない。 大した問題ではない、そなたにバトルセンスが皆無なことなど」

 とどめにもう一度バトルセンスが皆無という台詞を聴かされ、僕の心は完全に折られた。

 僕はがっくりと肩を項垂れてしまった。

 ハルチなら、想念の世界なら、僕も強くなれるんじゃないかという期待はあったが、その期待は見るも無惨に儚い夢となった。

 ここでも、ベースとなる身体能力やセンスは、普段の自分に左右されるらしい。

 どこかで聞いたような言い回しだけど、普段の自分が全て、ってことだな。

 こういう時、 アニメやマンガの主人公なら秘められた力が解放され、天原さんを驚愕させ、一躍ヒーローになるのだろうが、現実はそうはいかなかった。

 僕はただ、自分の無力さに打ちひしがれるだけだった。

「ん? アニメやマンガ……?」

 僕はそこで、あることに思い当たった。

「天原さん」

 僕は天原さんに声をかける。

「ん? なんじゃ?」

 自分の思考に没頭していたようで、僕の思考を見透かしてはいないようだ。

「ちょっと聞きたいのですが、想像できるものは創造できる可能性があるってことは、具現化できるのは形ある物体だけじゃないんですよね?」

「ああ、そうじゃ。たとえ、自然現象であってもできんことは……そうか! 現象を具現化するか!」

「はい。僕は今まで形のある武器にばかり捉われていましたが、何も攻撃は形ある武器からしかできないとは限らないと思うんです。現象も具現化できるなら、それを武器として使えば、俗に言うなら、魔法と呼ばれる類いのものなら何とかなるんじゃないかと思うんです」

「ふむ。確かに可能性はある。過去にそんな方法で戦ったものはおらんかったから、全く思いつかなかったが……。よし、やってみよう。それであれば、バトルセンスがなくとも、遠隔で戦闘ができる」

「はい」

 そう言うと、僕は目を閉じ、精神を集中させた。

 とりあえずは、炎を出してみよう。

 僕は目の前に手で輪を作り、炎のイメージを浮かべる。

 真っ赤に燃え盛る炎のイメージを、ありありと思い描く。

 具現化自体には、武器を幾つも出したお陰でだいぶ慣れてきた。

 後は、僕がイメージを巧く凝結できるか否かにかかっている。

 僕は真剣に、強く、深紅の炎を思い浮かべた。

「おお……!」

 少しして、天原さんが感嘆の声を上げた。

 僕はゆっくりと目を開き、手元に視線を遣った。

 そこには、炎の塊があった。

 テニスボールほどの大きさで、決して大きいとは言えないが、確かに目の前にそれは存在した。

「やった!」

 僕は思わず叫んでしまった。

 しかし、それで気を抜いてしまったようで、炎の塊はたちまちに失われてしまった。

 現象の具現化は、形のあるものより不安定なようだ。

「あ……」

「気にするでない。喜ぶのも当たり前じゃ。さあ、もう一度炎を出してみよ。そして、それで私に攻撃して来い!」

 そう言うと天原さんは天高く飛び上がり移動し、僕から距離を取った。

 そして、仁王立ちでこちらを見据え、僕の攻撃を待つ。

 僕はもう一度精神を集中させ、炎を作り上げた。

 何事も、一度成功したことを次に行う際には手際がよくなるものだ。

 僕はあっさりと球状の炎の塊を手に宿し、天原さんに向き直った。

「いきます……!」

 僕はそう言うと、力一杯腕を振り回し、その塊を天原さんに向かって投げつけた。

 炎は一直線に天原さんへと向かって飛んで行った。

 炎は、鋭い光の軌跡を残しながら、目標物へと突進して行く。

 しかし、天原さんに届くまであと2メートルというところで、その炎は消えてしまった。

「……あれ?」

「気にするでない。さあ、ドンドン打って来い」

 天原さんの言葉に反応して、僕は次々と炎を出しては、天原さんに投げつける。

 しかし、どれも天原さんの手前、2メートルのところで音も無く消え去ってしまう。

「なんで届かないんだよ……」

 十発ほど放ったところで、僕は力尽きてしまった。

 全身の疲労に耐えきれず膝をつき、がっくりと肩も落とし、俯いてしまった。


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