06−4
「はあ、はあ、はあ」
僕は肩でと言うより、全身で息をする。
呼吸をすることすら困難に感じる。
マラソンランナーは、走り終わった後、いつもこんな感じなのだろうか。
「……ふむ」
僕が息を整えようと必死になっている横で、天原さんがぽつりと呟いた。
天原さんは汗一つかいていないようだ。
手を顎に当て、何か思案している様子だ。
「はっきり言って良いかな?」
「な、なんです、か?」
僕は切れ切れの息の合間に声を発する。
「お主、全く才能がないっ! お主にバトルセンスは皆無じゃっ!」
「主人公なのにっ?」
「……主人公?」
「いや、僕も思わず言ってしまいましたが、意味はわかりません」
主人公って何だ……?
いや、それはいいとしてだ。
バトルセンスが皆無というのは、いくらなんでも衝撃すぎる。
「私も、もう少しは戦えるかと思っておったのじゃが……、まさかここまでバトルセンスがないとはな。まだ、犬猫の方が強……」
「あの……、それ以上言わないでください……」
犬猫より弱いという事実を面と向かって言われてしまうと、さすがに立ち直れなくなる気がする。
「む、すまん」
天原さんは特に悪いと思っている様子もなかった。
「さて、どうしたものかな……」
天原さんが再び思案顔を浮かべた。
「もしかすると、剣との相性が悪いのかもしれんな。ナギどの、他の武器も出してみてくれぬか?」
「え? あ、はい」
天原さんに次の行動を促され、僕は慌てて立ち上がった。
「もう立てるのか、本当にお主は回復が早いな」
そう言われて気づいたが、あれだけ疲れていたのにも関わらず、疲労感はほとんどすでに消えていた。
吹き出した汗が引っ込むということはさすがになかったが、新たにかいている様子はない。
「確かにほとんど疲労感がないのですが、どういうなのでしょうか?」
「うむ、先と同じ原理じゃとは思う。根本的なところは、コントロール力の高さに寄るものじゃとは思うのじゃが……。しかし、そなたは治癒に優れているのは間違いないのじゃろうな。おいおいは、そちらの方面で実力を磨いてもらうことになるかもしれん。しかし、じゃからと言って戦わんで良い訳ではない。せめて、今回の戦いで死なない程度にはなってもらわねば困る。さあ、余談は終わりじゃ。次の武器を出してみてくれるかの?」
「はい」
そして、僕らは次々と武器を出しては戦うという単調作業を繰り返した。
短剣、長剣、刀、槍、斧、薙刀、レイピア、などなど……。
ありとあらゆる思いつく武器、それも武器ごとにありとあらゆる種類を試してみた。
だが……、
「ダメじゃ! お主、本当に才能がない! バトルセンスが本気と書いてマジで皆無じゃ!」
「さすがに僕も、その言葉をこれだけ聞いたら落ち込みますよ……」
何一つとして、僕に合う武器はなかった。
僕にバトルセンスは、本当に無いようだ。




