06−3
「本来ならコントロール法の伝授から始まるのじゃが、無意識にコントロールできておるのなら、何とかなる可能性が高い。それに、今は僅かな時間であっても惜しい状況じゃ。もしできなかった時には、一からやり直そう」
つまり、本来は練習としてある幾つかの段階をすっ飛ばして、いきなり実戦ってことか?
そんなことが僕に可能なのだろうか?
「何度も言うが、案ずることはない。難しいことではないのだ。そもそも、人間は誰でも思いを浮かべて生きておるのじゃからな。その延長線にあるとでも思っておいてくれれば良い。とりあえずは、目を閉じ、何か武器が目の前に、いや、すでに手中にあるイメージを強く思い浮かべてみてくれんか? コントロールできているのであれば、それだけで事は足りるはずじゃ」
「いきなり武器と言われても……」
「何でもいい。思いついた物で良いぞ」
「はあ……」
天原さんに促され、僕はわからないながらも目を閉じ、想像を創造しようとする。
武器と言われてもな。
やはり、剣だろうか?
一般的な気がするしな。
よし、剣にしよう。
それで、これが目の前にあると思い浮かべるんだったか?
しかし、本当にそれだけでいいのか?
「必ずあると、固く信じよ。疑いは具現化を妨げる」
天原さんが僕の思考を見透したように、助言をしてくれた。
実際に、見透かしているのだろう。
ここはハルチなのだから。
必ずあると固く信じる、ね。
とりあえず、舞が先の戦いで出した剣をイメージしてみよう。
実際に見ているもの、それもごく最近見たものの方がイメージがわきやすい。
剣、剣、剣、剣、西洋風の剣。
「言葉で言ってるだけではダメじゃ。そのものが実際にあるイメージを強く浮かべるのじゃ」
イメージ、か……。
剣が目の前にあるイメージ。
僕の手の中に、西洋風の剣があるイメージ。
僕が握りしめているのは、西洋風の剣。
何物をも切り裂く、最強の…………剣!
そう思い、拳を握りしめた時、僕の手のひらに何かが存在している感触があった。
「えっ?」
思わず目を開いてみてみると、僕の手中には西洋風の剣が現れていた。
イメージしていたそのままの、見事な剣が、まばゆい光を放って存在していた。
「うむ、よくやった。あっぱれじゃ」
あっぱれって実際に言った人を初めて見たよ。
そんなツッコミが浮かびはしたが、目の前にある剣に心を奪われ、すぐに消え去った。
「これ……、僕が出したんですか……?」
中々実感が湧かず、天原さんに確認を取ってみた。
「そうじゃ。私は何もしておらぬ。お主が自身の力で具現化したものじゃ」
そう言われて、改めて剣を眺め直した。
本当に立派な、イメージ通りの剣がそこにはあった。
「よし、では次の段階に進むとしよう。その剣で私に攻撃して来い」
天原さんは僕にそう告げると、更に少し距離を取り、拳を構えた。
「え? この剣でですか? でも、天原さん、丸腰じゃないですか」
「基本的に私は拳が武器じゃ。これですでに戦闘態勢は整っておる。第一、昨日今日ハルチに初めて訪れた者に遅れを取るほど、私はヤワではない」
天原さんが突き刺すような眼光を放ちながら僕を睨みつけてきた。
思わず物怖じしかけたが、時間がないという天原さんの言葉が脳内を過った。
「それじゃ、いきます」
そして、僕は剣を抱えて天原さんに向かって走り寄った。
「ていっ」
僕が剣を天原さんに振り下ろすと、天原さんはまるで舞っているかのような動きで僕の攻撃を難なく躱した。
そして、そのまま僕の懐に潜り込んできた。
「もっとじゃ、ドンドン来い」
顔を近づけてそう言うと、天原さんは改めて距離を取る。
僕は天原さんの動きの華麗さに一瞬目を奪われかけたが、大きく頭を振って意識をはっきりとさせ、再び天原さんへと向かって走った。
そして、走り寄っては切りかかり、躱されては再び走り寄るという単調な作業が繰り返されることになった。
僕は何度も天原さんに走り寄っては切りかかったが、全ての攻撃は躱され、全力の一撃はいなされ、一度たりとも天原さんに攻撃を当てることができなかった。
それどころではない。
擦らせることすらできかった。
額から汗が噴き出し、身体が疲労を感じ始める。
それでも、僕は攻撃を加え続けたが、天原さんは息一つ乱していなかった。
しばらく同じことを繰り返したところで、遂に体力の限界が訪れ、僕の動きは完全に止まった。
そして、身体を立たせておくことすらできず、膝を折ってその場へと蹲った。




