05−3
僕はあの時、みんながあっさりとゾウオ共を倒していくものに違いないと思い込んでいた。
先の戦いでも、汗一つかかず、何の疲労も感じさせずに勝利しているのだ。
たとえ数が倍になったところで、そんなに手こずるものではないと思っていたのだ。
しかし、現実は違った。
天原さんも、みろくも、先ほどはやすやすと倒したヘビ型のゾウオに、相当苦戦を強いられていた。
ナミはキツネ型二体を相手取っていたが、こちらも中々決定的なダメージを与えられずにいるようだった。
どうしてだ?
さっきと何か違うのか?
僕がそのように考えていると、舞がその思考に答えてきた。
「ゾウオってのはよ、夜が深まるほど強さを増すんだ」
「夜が深まるほど、強さを増す……?」
「そうだ。夜の闇が濃くなればなるほど、あいつらの強さは跳ね上がる。ましてや、こんな夜中とも言える時間帯だぜ。まだ丑三つ時にはなってねえからフルパワーではないにしても、かなりの強さにはなってるはずだ。しかも、四体も同時に来やがって……。まだ、夕方のように二体程度なら、この布陣でも何とか切り抜けられただろうよ。でも、今回は違う。はっきり言って、状況は最悪だ」
舞はギリと歯を食いしばった。
その表情からも、現状の悪さを察することは難くなかった。
どうすればいいんだ?
いや、どうにかできるものなのか?
「どうしようもねえな。はっきり言って」
舞が再び僕の思考に答える。
ふと宙に浮かぶナミに目を遣ると、ナミは尋常ではない汗をかき、疲労困憊の表情を浮かべていた。
「ナミ……?」
天原さんとみろくにも目を遣ってみるが、明らかにナミの疲れ方は異常だ。
二体同時に相手取っているというのもあるのだろうが、それを差し引いてもおかしいような気がする。
「当たり前だ。ナミはな、追加の敵がいないか周囲に探査をかけながら、なおかつ攻撃もしてるんだ。それも、空中からな。会長が言ってただろう? 宙に浮かぶってのは、簡単じゃねえんだ。ナミだからこそできることなんだよ。それだけじゃない。ナミは、ゾウオの具現化もしてるんだ。あたしらにもはっきりと見えるように、ゾウオの気配を探知し、形を持つよう能力を発動し続けてるんだよ。
もちろん、それがなくてもあたしらにも見れるぜ? でもな、あいつに能力を発動してもらっていた方が、あたしらも戦いやすいんだ。ゾウオの気配を辿る分の力を、全て戦闘力に当てられるからな。その分、確実に勝率が上がる。
ナミは常人では考えられない程に多くの能力を、全て同時に発動し続けてるんだ。幾らあいつの力がずば抜けていたところで、こんだけの力をいつまでも使い続けるなんて、到底無理な話なんだよ。
あたしが一切の自分の防御を放棄して、あんたをハルチの干渉から命を賭けて守っているように、ナミも命懸けであんたをゾウオから守ってんだよ」
……嘘だろ?
そんな様子全く見せなかったじゃないか。
「嘘じゃねえ。事実だ」
なんてことだ、そんな大事なことも知らずに、僕は大丈夫だろうなんて思い、好きにさせましょうなどと軽々しく言ってしまったというのか。
くそっ……、知らなかったで済ませることができるようなものじゃない……。
「気にすんな。あんたのせいじゃない。あたしも、ナミも、自分から言い出したんだ。あんたを守るために、そうしたいと思って、自ら言ったんだ。選んだのは、あたしら自身だよ。大丈夫、会長かみろくがどちらか一体でも倒してくれりゃ、戦局は変わる。今は、それを信じろ」
舞の言葉を受け、改めて天原さんとみろくにそれぞれ目を遣る。
どちらも相変わらず苦戦しているように見える。
到底、しばらくの間は戦闘が終わりそうにない。
もう一度ナミに視線を動かしてみたが、ナミはどんどんと疲労の色が濃くなっていた。
端から見ていてもわかるほどに、疲労困憊していた。
だったら──。
「お、おい、何考えてんだ?」
舞の言葉を無視し、僕は舞を全力で突き飛ばした。
思った通り、舞は僕からの予想外の攻撃に大きくよろめいた。
そして、するりと、繋いでいた手が解かれた。
戦闘力に変えている力を全てシールドに回しているのならば、現在の舞は普通の女の子と変わりないという僕の読みは、当たっていたようだ。
僕でも簡単に突き飛ばすことができた。
予期せぬ攻撃というのもあったのだろうが、それでも戦闘状態の舞ならば、びくともしなかっただろう。
何せ、あんな化け物と対等に戦えるんだからな。
「おい! ナギ!」
よろめきながらも舞が叫んだ。
「舞、ナミを、みんなを、頼……む……」
言い終えるか否かという瞬間に、僕の視界は暗闇に落ちた。
そうか、二度目はハルチ内で起こるんだな。
さて、今度はどんな記憶が蘇るのかな……?
意識を失いながらも、僕はそんなことを考えていた。




