03−2
学校に到着し、先生にお小言をもらう。
だが、その内容は、全く以て頭に入ってこなかった。
その後も、日がな一日、心ここにあらずという状態で過ごした。
何も考えられず、何かをしようとも思えず、何かを学ぶ気力さえ湧かなかった。
ただ、胸の奥に、妙な焦燥感だけが燻っていた。
ナミやみろくが遊びに誘ってくれたが、それどころではなかった。
僕の脳内は、一刻も早く家に帰らねばならないという、使命感のようなもので満たされていた。
何も考えず、無心に、急ぎ足で帰る。
急いでも急いでも、全く進んでいない心地だった。
かつて、自宅までの道のりをこれ程までに長く感じたことはなかった。
焦燥感だけが、胸の内で止めどなく広がり続けていた。
ようやく家に帰り着き、家の中を覗く。
しかし、そこに兄の姿はなかった。
まだ、帰ってきてはいなかった。
いや、兄はしばらく留守にすると言っていた。
今日中には帰って来ないだけで、必ず帰って来るはずだ。
兄が嘘をつくはずがない。
そう自分に言い聞かせ、そう自分に思い込ませ、僕はとりあえず、いつも通りに過ごすことにした。
その次の日も、そのまた次の日も、僕はいつも通りに過ごした。
しかし、その次の日の夜も、そのまた次の日の夜も、兄は帰って来なかった。
何日も、何週間も、何ヶ月も、兄は帰って来なかった。
どれだけ待っても、どれほど望んでも、兄の姿を見ることは叶わなかった。
半年ほど経ったころ、兄が死んだという報せが入った。
帰って来ると約束した兄は、帰って来なかった。
二度と、帰って来なかった。
決して、帰って来れなくなった。
僕の日常から、兄がいなくなった。
その報せを持ってきたのは、兄を連れて行った男だった。
僕は男に泣きすがるしかなかった。
泣いて、叩いて、喚いて、騒ぎ散らす。
男は無言で、無表情に、僕を受け止めてくれた。
しばらくして、ようやく僕は落ち着いた。
落ち着いたのを確認すると、男は今後のあり方を教えてくれた。
とりあえずは、ここに住み続けていいのだそうだ。
保護者は叔母夫婦ということになるそうだが、実質は一人で暮らすのだそうだ。
毎月、必要な生活費だけが送られ、それで生活をする、ということだった。
幸い、僕は炊事家事洗濯は幼い頃からやっていただけあって、得意ではあった。
そのため、生活する上では特に問題はなかった。
だが、僕は何もかもを失った心地になっていた。
どこまでも巨大で、どこまでも空虚で、どこまでも無機質な何かが、僕の身体を占領していた。
死んだように生きているとはこのことだと、当時の僕を見たならば、誰もが思うことだろう。




