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これは、夢なのだろうか。
僕は夢を見ているのだろうか。
意識が飛びそうになるのを必死にこらえながら、僕は頭を回転させた。
だが、状況を把握しようとすればするほど、頭の中は混沌としていった。
落ち着くんだ。落ち着いて、客観的に状況を把握するんだ。
そう自分に言い聞かせ、もう一度辺りの様子を伺ってみる。
目の前にいる女性は、呪文のようなものを唱えている。
その先に、突如として現れたアレが雄叫びを上げている。
耳を引き裂かんばかりの音量で、叫び声を上げ続けている。
それに対抗するかのように、女性は何かを唱えていた。
聞き取ることはできないが、何かをブツブツと唱え続けていた。
彼女は一体、何を唱えているんだろうか。
いや、そもそも、ここはどこなのだろうか。
明らかに、先ほどまでいた場所ではない。
全てが先ほどまでいたあの場所とは違っている。
空の明るさも、辺りの景色も、何一つ類似点がない。
何度も確認してみたが、やはり変わりはなかった。
僕は、たった今、目の前で起こっている出来事を受け入れることができず、ただ混乱するばかりだった。
混乱した僕の脳内に、様々な考えが浮かんでくる。
僕は何故、このようなところにいるのだろうか。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
どうして、こんな目に遭わなければいけないのだろうか。
目の前にいる女性は誰なのだろうか。
その奥にいるアレは何なのだろうか。
この世の物ならざる姿をしたアレは、一体、何なのだろうか。
落ち着くんだ。女性が誰なのかはわかっているはずだ。
彼女は一度会えば、生涯忘れることのできないインパクトを持っている。
彼女とは、忘れたくても忘れられない出会い方をしている。
それよりも、果たして、僕は生きて帰れるのだろうか。
そもそも、僕は今、生きているのだろうか。
まだ、この世に、生存しているのだろうか。
まだ、この世界に、存在できているのだろうか。
もし、元には戻れないのだとしたら、色々と後悔しそうだな。
やれることがまだあった。
やりたいこともまだまだあった。
そして、やらなきゃいけないことだって、たくさんあった。
何もかもが中途半端なままになっている。
全てがそのまま、置き去りにされている。
目前で行われているありえない事象を他所に、思考だけが脳内を走り続けた。
ここで終わる訳にはいかないのに。
こんなところで終えてしまう訳にはいかないのに。
グルグルと想いが脳内が駆け巡る中、突如として、目の前にいた女性が呪文の詠唱をやめ、こちら側に振り向いた。




