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ザコの修行 ゴブリンにも必死になるのがザコ

 半ば強制的に始まった修行。

  でも、これがかなり地味。

 ライトノベルみたいに

「そんな簡単に魔法を使いこなすなんて」

 そんな都合の良い展開が俺にある訳がなかった。

 俺の朝は体力作りから始まる。

 この建物は八階層の塔で、その一階から八階までを、荷物を背負いながらひたらすら歩かせられた。


 師匠曰わく

「この世界の移動手段は徒歩が基本ですからね。当然、サバイバル道具を持ちながらの移動ですよ」

 ちなみに今朝のロッキ師匠の服は、黄緑色バージョン。


 疲れたから休憩をお願いしたら、魔法で強制回復、そして再出発。

 それから朝御飯の仕度をして、次は武術の修行。

 槍や剣でひたすら、人形を攻撃していく。

  師匠の一言

「実践経験のない君が、必殺技なんて無理ですよ。まずは武器の重さに慣れて、自由に扱える筋肉をつける事。そして物を斬った時の衝撃にも慣れて下さい」

 手の皮が剥けましたと言ったら、やっぱり回復させれて再開。

 次は座学、 座学で分かった事。

 オーディヌスの国の殆どは、王政が敷かれているとの事。

 つまり身分制度が、きっちりしている。

 俺の立場を聞くと

「功才君はちゃんと市民にしてあげますよ。でも貴族に絡まれたら泣き寝入り確定ですから気をつけて下さいね」

 師匠は、優しく笑いながら教えてくれた。

 いきなり貴族待遇なんて勘弁して欲しかったから、これだけは感謝をしている。

  俺はこの世界の礼儀作法なんて知らないし、ド ロドロの権力闘争を防ぐ力も後ろ盾もない。


「オーディヌスの1日は24時間で、1年は365日。ちなみに閏年の事はナメクジ年と呼びます」


「なんすか!?そのジメジメ感たっぷりの名前は!!確かに閏年も潤うから来てるっすけど」

 確かにナメクジは、これでもかって位に、潤いがある生き物だけど。


「なんでも、この世界の神様が着けたそうですよ」


 そして俺の世界との一番の違い、エルフやドーワフが存在する事。


「間違っても、亜人なんて言葉は使わないで下さいね。亜人はかなり失礼な言葉になるんですから。ちなみに功才君なら猿人族になります」

 猿人族の他に猫人族・犬人族など様々な種族がいるそうだ 。

  他民族の風習がきちんと分からないうちは近づかない様にしておこう。

  犬耳や肉球の犬っ娘は魅力的だけども、もしかしたら猿人族と犬人族は仲が悪いかもしれない。

 君子危うきに近寄らずが一番だ。

 魔法に関しては、さらに地味。

 魔法は神聖魔法、精霊魔法、簡易魔法、特別魔法に分かれるているらしい。

 ちなみに神聖魔法は、エルフに認められないと無理だとの事。


 ロッキ師匠からの一言。

「エルフは美しい者を評価しますから。まぁ、功才君は無理でしょ」


 言われなくても分かっている。

 美しい者が好きって、聞いた時点で諦めました。

 精霊魔法も、精霊に認められないといけないらしい。

 ロッキ師匠からの説明。

「精霊がどこにいるかって?それぞれの信仰神殿の奥に匿われていますよ。軟禁に近いかもしれないですけど。つまり、その神殿に仕えて修行した才能がある者か多額の寄付金を払った者にのみ精霊と契約をするチャンスがある訳です」

 ファンタジーな世界なのに、随分と世知辛いシステムなのね。


「俺には無理と?」


「神殿にいるのは、人の信仰を糧にしている一部の精霊ですからね。秘境とかにいけば強力な精霊がいますよ。行く間に死ぬ確率や会ったら問答無用で襲われる確率の方が、半端じゃなく高いですけどね」

 うん、これも諦めよう。

 

 ちなみに、俺が勉強しているのが簡易魔法。

  自分の魔力を指先に集中させて空中や地面に魔法陣を描く事で、 簡単な自然現象等を発動させる事が出来る。

 その為に魔力の集中の仕方や、魔法陣を素早く正確に書く技術を身につけなくてはいけない。

 俺が最初に教えてもらった魔法は、アイスキューブ。

  読んで字の如く、空気中の水分を冷却させて1㎝角の氷を生み出す魔法。

 師匠のお言葉。

「冒険中、生水を飲んでお腹を壊したらシャレになりませんからね。氷を煮沸消毒してから飲んで下さい」

 上達すれば一回で1ダースの氷を作れるらしい。

 上達しても製氷機レベル、それが俺。

 そして特別魔法。

  触媒を使い、大人数の魔法使いが何日もかけて発動させる簡単魔法のパワーアップバージョン。

  お金も時間も、とんでもなく掛かるらしい。

 国同士の外交上、どれだけ強力な特別魔法を所有しているかとか 、強力な触媒を保有しているかとかも重要視されるとの事。

 これも俺には関係ないと思っていたら


「可愛い弟子の為に特別です。私が知っている特別魔法の一つを授けましょう。その名も絶対結界です」

 絶対結界。

  魔物や賊から、身を隠す為の魔法らしい。


「絶対結界は便利ですよ。野営でぐっすり眠れますし、お便所も安心して出来ます」

 確かに無防備な体勢で、臭いを放つあれの時は狙われやすいだろう。


 そんな地味な修行が、1ヶ月近く続けれた。

 オーディヌスには魔物と呼ばれる生き物がいるらしい。


 ロッキ師匠曰わく

「魔物は普通の動物が、マナの影響で進化した種族なんですよ。だから動物と違って属性の影響が濃いですよ。火を吐く魔物も珍しくありませんから」

 ちなみに、今日のロッキ師匠のジャッケットは星柄。


「まぁ、功才君が火を吐ける魔物に会ったら逃げれるだけでも奇跡と思って下さい。今の貴男はゴブリンに勝てるかどうかですから」

 あれだけ修行をして、ゴブリンって。


「功才君、君はゴブリンを馬鹿にしたでしょ?確かに力も知能もゴブリンに比べたら功才君の方が上ですよ。でもね、ゴブリンは基本集団で戦いますし、獲物に対して躊躇(ちゅうちょ)せずに襲ってきます。君は生き物に対してためらいなく剣を振るえますか?」


「ゴブリンから逃げるのは無理っすか?」

 出来たら殺しは避けたいんだよな。


「無理ですね。ゴブリンは自分より弱いと思った生き物には容赦なく襲ってきますし、ゴブリンも倒せない冒険者に依頼なんて来ませんよ。ゴブリン単体の強さは小学校低学年と変わらないんですから」


「冒険者が、ゴブリンと戦う頻度は多いんすか?」


「初心者からベテランまで幅広く戦う機会が多いですね。 何しろ生息数が多い分、被害も多いですからね」


「被害って、やっぱり女性を拐ったりするんすか?」

 もしかして、俺がヒーローになれるチャンスかも?


「それは誤解ですよ。ゴブリンは女性が身につけている貴金属が欲しいだけですから。まぁ金持ちと農婦の区別もつきませんし、裸にして貴金属を探すから誤解が生まれたんでしょうね。ちなみにゴブリンの美人度はコブの多さで決まるそうですよ」

 つまり、ゴブリンらしいゴブリンが人気な訳ね。


「それなら、何でゴブリンの被害が多いんすか?」

 戦えない女性は村や町から出なきゃ被害に遭わないし、護衛を雇う手もある。


「簡単ですよ。彼らの知能じゃ畑を耕すとか家畜を育てる事が理解出来ません。村があれば美味しい食べ物があるだから襲うんですよ」

 ゴブリンって、バイトをしないでカツアゲしてるヤンキーみたいだな。


「座学ばかりじゃ、私が飽きますね。修行もある程度しましたから 、実際に戦ってみましょ。ゴブリンと」


「確認しますけど俺に拒否権は?」


「ある訳ないですよ」


「ですよねー」

 塔にはロッキ師匠の楽しそうな笑い声と、俺

の渇いた笑い声が響いた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 こっちの世界に来て、初めて外に出た。

  そして改めてここが日本じゃない事を実感する。

 俺が連れて来られたのは、ただっ広い湿原。

 青い空は爽やかに晴れているけど、生臭い水の臭いが久しぶりの外出を台無しにしてくれている


「ここに出る魔物はゴブリンくらいですからね。さぁ功才君、いよいよ実戦デビューですよ。ワクワクしてきませんか?」


「ワクワクじゃなく、ドキドキはしてるっすよ。嫌なドキドキですけどね」

 ちなみ俺の装備は皮の鎧に、皮の兜、鉄の槍。


「本当に君はシャイですね。そして運も良い。あそこに何の罪もないゴブリンが1匹でいますよ。さぁレッツ!!バトル」


 師匠が指差す先は、緑色のボコボコした130㎝ぐらいの生き物がいた。

 あれがゴブリンらしい。

 ゴブリンはボロボロの布の服を着て、錆びた剣を持っている。

 じっくりゴブリンを見学をしていたら、ロッキ師匠が文字通り背中を思いっ切り押してくれた。

 押された勢いで、俺はゴブリンの目の前に。


「は、はろー」


 友好的に話し掛けた俺と目をあわせたゴブリン君は


「グギョー」

 絶叫して襲い掛かってきた。

 異世界、ファーストコンタクト大失敗。


「功才君ー、逃げてるだけじゃダメですよー」

 傍観者を決めこんだロッキ師匠が遠くから叫んでいる。

 逃げてるんじゃなく、これは俺なりの戦略だっての。

 俺が目指しているのは湿原にある水溜まり。

  ジャンプでそれを飛び越し、少し離れた場所でゴブリンを待ち構える。

 ゴブリンの両足が、水溜まりに入ったのを見計らって、水溜まりにアイスキューブを掛ける。

 空気中の水分を凍らせる程に低温状態を作れるのなら、水溜まりの水も凍らせる事ができる筈。


「ギュゲ?ギュゲゲ?」

 足を凍り漬けにされた所為で、身動きがとれなくなっているゴブリン。

 氷の厚さは、剣で壊せるぐらいなんだけれどもゴブリンは焦っているらしく、無闇矢鱈に剣を振り回している。

 そんな奴に、正面から挑む程俺は自信過剰じゃない。

 大回りをして、ゴブリンの背後へ。

  決して槍で突く事はしない、槍が刺さったら抜くのが結構難しいんだよね。

 先ずは槍の石突きで、ゴブリンの頭をぶん殴って動きを止める。

 フラフラになった所で首を斬りつける、何回も斬りつける。


「ふぇー、ようやく動かなくなった。師匠、これでいいんすか?」

 俺は出来るだけ平然な振りをして師匠に話し掛けた。

 本当は涙やら酸っぱい物が溢れだしそうなんだけれど。


「ゴブリン一匹に随分と手間暇をかけたみたいですけども 。まぁ良いでしょう」


「ちぇっ、少しは誉めてくれてもいいじゃないっすか」

 俺は誉めて伸びるタイプなんだし。


「高校生の功才君が小学校低学年レベルのゴブリンに勝った事を誉めろと言うんですか?」


「くっ…ならレベルアップはしたっすよね?」

 初戦勝利でレベルアップはファンダジーのど定番。


「レベルアップ?何ですか、それは?言ったでしょ?これは現実だって。生き物を倒して強くなれたら漁師さんが無敵になっちゃいますよ」


「倒した敵のマナや魔力を吸収するとかはないんすか?」


「分かりました。魔力吸収の技を教えましょう…ただし、倒した敵の怨みや断末魔が常に聞こえちゃいますけどね」


「慎んで遠慮させていただきます」

 さっきのゴブリの断末魔が、まだ耳にこびりついてるから無理だ。


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