ごめんあそばせ召しませ執事?ファイナル(千文字小説)
ツンデレ恋愛小説はこれでおしまいです。
有栖川亜梨沙は大富豪の令嬢です。
まだ十七歳ですが、お金持ちの上に美少女なので、通学しているインターナショナルハイスクールではモテモテです。
しかし、亜梨沙は同級生のイケメンの告白にも落ちませんし、耳も貸しません。
何故なら亜梨沙は、事もあろうに自分の邸で働いている執事に恋をしているからです。
執事の名前はトーマス・バトラー。世界執事協会所属の執事です。
でも、亜梨沙は素直に自分の気持ちを伝えられません。
亜梨沙のハイスクールは夏休みです。
彼女は広大な庭の一角にある常緑樹に囲まれたウッドデッキの上でハンモックに寝そべって、ロシア文学に浸っていました。
読んでいるのはツルゲーネフの「初恋」です。
ヒロインの行動が自分と重なり、ドキッとします。
そして結末を読み、怖くなってしまいます。
(私は、トムを苦しめているのではないだろうか?)
「お嬢様、本日は雷雨注意報が発令されております。お邸にお戻りください」
トーマスが現れ、恭しくお辞儀をして言います。
「雷なんて貴方が何とかしてよ、トーマス」
亜梨沙は自分が何を言っているのかわかっていながら止められません。
「申し訳ございません、お嬢様。私が至らないため、雷を遠ざける事ができません」
トーマスは真っ直ぐに亜梨沙を見て言います。
亜梨沙はその目をまともに見られず、顔を背けました。
「仕方がないわね」
彼女はハンモックから出ようとして、
「きゃっ!」
と転がり落ちそうになります。
「お嬢様!」
トーマスが素早く亜梨沙を抱き止めたので、亜梨沙はデッキに落ちずにすみました。
トーマスはゆっくりと亜梨沙をそばにあった椅子に座らせ、
「お怪我はありませんか?」
「ええ」
亜梨沙はポオッとしたままで応じました。
その時、空を裂くような雷鳴が轟きます。
「きゃあ!」
亜梨沙は思わずトーマスに抱きつきました。
そこに滝のような雨が降って来ました。
「お嬢様」
トーマスはスッと大きな傘を広げます。
「トム、愛しているわ」
亜梨沙はようやく自分の気持ちを言えました。
「ありがとうございます、お嬢様」
亜梨沙はトーマスの事務的な口調にムッとして、
「そうじゃなくて……」
と彼を見上げます。
「あ」
その途端、彼女の唇をトーマスの唇が塞ぎます。
長い口づけでした。
「私もお嬢様を愛しております」
トーマスは亜梨沙を優しく抱きしめて言いました。
「トム!」
亜梨沙もトーマスを抱きしめ返しました。
終わり。
ありがとうございました。