AIに休日の予定を決めてもらったら、俺の『あとで』が全部バレていた
休日の朝九時。
「……今日、何しよう」
予定はない。
何かしたい気はする。でも、何をするか考えるのも面倒くさい。
このままではスマホを眺めているうちに夕方になる。いつもの休日だ。
「そうだ。もう全部決めてもらおう」
俺はAIを開いた。
『今日の予定を決めて。休日だから、いい感じに一日楽しめるやつ』
数秒後、回答が来た。
『承知しました。まず、歯科医院を予約してください』
「違う」
開始一秒で違った。
「俺は休日を楽しみたいの。なんで歯医者なんだよ」
『右下の奥歯がしみるという相談を、四か月で七回受けています』
「数えてんの!?」
『はい』
「……予約だけ?」
『はい』
「じゃあ、まあ……」
予約した。
休日をAIに任せて、最初に決まった予定が次の休日の歯医者だった。
『終わったぞ』
『確認しました。次に、動画配信サービスを二件解約してください』
「休日を楽しませろって言ったよな?」
『はい』
「じゃあ、なんで朝から固定費削減なんだよ」
『直近90日間の利用状況を確認します』
「確認しなくていい」
『サービスA、47時間』
「使ってる」
『サービスB、19時間』
「使ってる」
『サービスC、0時間』
「…………」
『サービスD、0時間』
「待て」
『はい』
「Cはたまたまだ』
『最後に視聴したのは142日前です』
「日数で出すな」
『Dは231日前です』
「もっと出すな!」
二つ合わせて月二千円弱。
俺は黙って解約した。
「解約しました」
『お疲れさまでした』
「なんで俺、休日の朝から家計改善してんの?」
『次の予定です』
「もう嫌な予感しかしない」
『田中さんへ返信してください』
「誰?」
『大学時代の友人です』
「田中は知ってるよ! なんで今日の予定に田中が出てくるんだよ」
『8月17日、田中さんから「久しぶり。今度飲みに行かね?」と連絡を受けています』
「ああ……」
覚えている。
通知を見た。
あとで返そうと思った。
『その際、あなたは「あとで返す」と発言しています』
「そこまで覚えてんの!?」
『本日で22日目です』
「俺の『あとで』に経過日数つけるな!」
『なお、昨日「生きてる?」と追加で届いています』
「先に言え!!」
慌ててメッセージを開いた。
『悪い、生きてる。返信忘れてた』
三秒で返事が来た。
『知ってる』
「怖いよ!」
『田中さんですか?』
「お前もだよ!」
そのまま来週飲みに行く約束が決まった。
俺はスマホを置いた。
「……まだ十時半か」
休日なのに、妙に働いた気分だった。
いや、何も仕事はしていない。
歯医者を予約して、サブスクを解約して、友人に返信しただけだ。
なのに、もう一仕事終えたような疲労感がある。
『次の予定です』
「まだあるの?」
『ゲームをしてください』
「来た!」
俺は思わず拳を握った。
「そうだよ! 休日ってこういうのでいいんだよ!」
『昨年11月に購入した「ドラゴンレジェンドVIII」を起動してください』
「…………」
拳を下ろした。
「なんでそれ?」
『未プレイだからです』
「忙しかったんだよ」
『発売日に有給休暇を取得しています』
「そこまで覚えてんの!?」
『はい』
「……やります」
二時間後。
悔しいことに、普通に面白かった。
『次の予定です』
「もうゲームで終わりじゃないの!?」
『冷蔵庫を開けてください』
「今度は何を管理してんだよ!」
開けた。
『上から二段目、奥にある青い蓋の容器を取り出してください』
「青い蓋……」
あった。
見覚えがない。
「何これ」
『5月18日に作った肉じゃがです』
「待て」
『はい』
「今日、何月?」
『9月です』
「なんでお前が覚えてて俺が忘れてんだよ!」
『5月18日に「残りは明日食う」と話しています』
「俺の明日、四か月経っても来なかったの!?」
俺は容器を持ったまま固まった。
「……これ、開ける?」
『推奨しません』
「だよな」
『廃棄してください』
「はい!」
人生で最も慎重にタッパーを処分した。
手を洗う。
念のためもう一回洗う。
ソファへ戻った。
「次」
もう覚悟は決まっていた。
どうせ何かある。
押し入れか。
役所か。
保険か。
十年前に借りた何かを返せと言われても、もう驚かない。
『ありません』
「……え?」
『本日の予定は以上です』
「終わり?」
『はい』
「本当に?」
『はい』
俺はしばらく画面を見た。
歯医者は予約した。
使っていないサブスクは消えた。
田中にも返信した。
積んでいたゲームは、やってみたら普通に面白かった。
冷蔵庫の奥にいた四か月前の肉じゃがも消えた。
なんだろう。
妙にスッキリしている。
「……あれ?」
『どうしましたか?』
「今、何時?」
『15時12分です』
「まだ三時?」
『はい』
いつもの休日なら、この時間にはもう半分終わった気分になっている。
何もしていないくせに。
今日は違った。
ずっと頭の隅に引っかかっていたものが、ひとつずつ消えている。
歯医者行かなきゃ。
あのサブスク解約しなきゃ。
田中に返事しなきゃ。
あのゲームやらなきゃ。
冷蔵庫の奥、何かあった気がする。
全部。
終わった。
「……なるほどな」
『何がでしょうか?』
「俺、やりたいことがなかったんじゃなくて、やってないことが多すぎたのか」
『その可能性はあります』
「お前、俺より俺の人生分かってない?」
『あなたが話した内容を整理しただけです』
「それを本人ができてないんだよ」
俺はソファに寝転んだ。
何もしなくていい。
今度こそ、本当に何もしなくていい。
この解放感は、ちょっとすごい。
『残りの時間は自由です』
「そうする」
動画を開いた。
今日はもう何もしない。
堂々と何もしない。
最高の休日だ。
十分後。
AIから通知が来た。
『ところで、デスクトップに「新しいフォルダー(12)」があります』
「今日の業務は終了しただろ!!」




