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AIに休日の予定を決めてもらったら、俺の『あとで』が全部バレていた

作者: よみなぎ
掲載日:2026/09/10

 休日の朝九時。


「……今日、何しよう」


 予定はない。


 何かしたい気はする。でも、何をするか考えるのも面倒くさい。


 このままではスマホを眺めているうちに夕方になる。いつもの休日だ。


「そうだ。もう全部決めてもらおう」


 俺はAIを開いた。


『今日の予定を決めて。休日だから、いい感じに一日楽しめるやつ』


 数秒後、回答が来た。


『承知しました。まず、歯科医院を予約してください』


「違う」


 開始一秒で違った。


「俺は休日を楽しみたいの。なんで歯医者なんだよ」


『右下の奥歯がしみるという相談を、四か月で七回受けています』


「数えてんの!?」


『はい』


「……予約だけ?」


『はい』


「じゃあ、まあ……」


 予約した。


 休日をAIに任せて、最初に決まった予定が次の休日の歯医者だった。


『終わったぞ』


『確認しました。次に、動画配信サービスを二件解約してください』


「休日を楽しませろって言ったよな?」


『はい』


「じゃあ、なんで朝から固定費削減なんだよ」


『直近90日間の利用状況を確認します』


「確認しなくていい」


『サービスA、47時間』


「使ってる」


『サービスB、19時間』


「使ってる」


『サービスC、0時間』


「…………」


『サービスD、0時間』


「待て」


『はい』


「Cはたまたまだ』


『最後に視聴したのは142日前です』


「日数で出すな」


『Dは231日前です』


「もっと出すな!」


 二つ合わせて月二千円弱。


 俺は黙って解約した。


「解約しました」


『お疲れさまでした』


「なんで俺、休日の朝から家計改善してんの?」


『次の予定です』


「もう嫌な予感しかしない」


『田中さんへ返信してください』


「誰?」


『大学時代の友人です』


「田中は知ってるよ! なんで今日の予定に田中が出てくるんだよ」


『8月17日、田中さんから「久しぶり。今度飲みに行かね?」と連絡を受けています』


「ああ……」


 覚えている。


 通知を見た。


 あとで返そうと思った。


『その際、あなたは「あとで返す」と発言しています』


「そこまで覚えてんの!?」


『本日で22日目です』


「俺の『あとで』に経過日数つけるな!」


『なお、昨日「生きてる?」と追加で届いています』


「先に言え!!」


 慌ててメッセージを開いた。


『悪い、生きてる。返信忘れてた』


 三秒で返事が来た。


『知ってる』


「怖いよ!」


『田中さんですか?』


「お前もだよ!」


 そのまま来週飲みに行く約束が決まった。


 俺はスマホを置いた。


「……まだ十時半か」


 休日なのに、妙に働いた気分だった。


 いや、何も仕事はしていない。


 歯医者を予約して、サブスクを解約して、友人に返信しただけだ。


 なのに、もう一仕事終えたような疲労感がある。


『次の予定です』


「まだあるの?」


『ゲームをしてください』


「来た!」


 俺は思わず拳を握った。


「そうだよ! 休日ってこういうのでいいんだよ!」


『昨年11月に購入した「ドラゴンレジェンドVIII」を起動してください』


「…………」


 拳を下ろした。


「なんでそれ?」


『未プレイだからです』


「忙しかったんだよ」


『発売日に有給休暇を取得しています』


「そこまで覚えてんの!?」


『はい』


「……やります」


 二時間後。


 悔しいことに、普通に面白かった。


『次の予定です』


「もうゲームで終わりじゃないの!?」


『冷蔵庫を開けてください』


「今度は何を管理してんだよ!」


 開けた。


『上から二段目、奥にある青い蓋の容器を取り出してください』


「青い蓋……」


 あった。


 見覚えがない。


「何これ」


『5月18日に作った肉じゃがです』


「待て」


『はい』


「今日、何月?」


『9月です』


「なんでお前が覚えてて俺が忘れてんだよ!」


『5月18日に「残りは明日食う」と話しています』


「俺の明日、四か月経っても来なかったの!?」


 俺は容器を持ったまま固まった。


「……これ、開ける?」


『推奨しません』


「だよな」


『廃棄してください』


「はい!」


 人生で最も慎重にタッパーを処分した。


 手を洗う。


 念のためもう一回洗う。


 ソファへ戻った。


「次」


 もう覚悟は決まっていた。


 どうせ何かある。


 押し入れか。


 役所か。


 保険か。


 十年前に借りた何かを返せと言われても、もう驚かない。


『ありません』


「……え?」


『本日の予定は以上です』


「終わり?」


『はい』


「本当に?」


『はい』


 俺はしばらく画面を見た。


 歯医者は予約した。


 使っていないサブスクは消えた。


 田中にも返信した。


 積んでいたゲームは、やってみたら普通に面白かった。


 冷蔵庫の奥にいた四か月前の肉じゃがも消えた。


 なんだろう。


 妙にスッキリしている。


「……あれ?」


『どうしましたか?』


「今、何時?」


『15時12分です』


「まだ三時?」


『はい』


 いつもの休日なら、この時間にはもう半分終わった気分になっている。


 何もしていないくせに。


 今日は違った。


 ずっと頭の隅に引っかかっていたものが、ひとつずつ消えている。


 歯医者行かなきゃ。


 あのサブスク解約しなきゃ。


 田中に返事しなきゃ。


 あのゲームやらなきゃ。


 冷蔵庫の奥、何かあった気がする。


 全部。


 終わった。


「……なるほどな」


『何がでしょうか?』


「俺、やりたいことがなかったんじゃなくて、やってないことが多すぎたのか」


『その可能性はあります』


「お前、俺より俺の人生分かってない?」


『あなたが話した内容を整理しただけです』


「それを本人ができてないんだよ」


 俺はソファに寝転んだ。


 何もしなくていい。


 今度こそ、本当に何もしなくていい。


 この解放感は、ちょっとすごい。


『残りの時間は自由です』


「そうする」


 動画を開いた。


 今日はもう何もしない。


 堂々と何もしない。


 最高の休日だ。


 十分後。


 AIから通知が来た。


『ところで、デスクトップに「新しいフォルダー(12)」があります』


「今日の業務は終了しただろ!!」


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