第七話:グラムロック・ドライバーと、奪われた桜
【新キャラクター設定資料】
◆ 前田 慶次
キャラ: 『グラムロック・スーパースター / 超大型VIP送迎ドライバー』風。
豊臣メガバンクの専属エンターテイナーにして、最強の武を誇るフリーランスの傾奇者。ド派手なロックメイクに、赤い長髪、スタッズ付きの革ジャン風陣羽織を着こなす。
愛機(馬): 『松風』。超大型のサラブレッドに、南蛮渡来のV型8気筒エンジンのような絡繰スピーカーを積んだ、まるでハーレーダビッドソンのような爆音を鳴らす魔改造の巨馬。
口癖: 「魂が震えねェなァ!」「最高にロックだぜ、ベイビー!」「俺の松風のビートに乗れるか!?」。
神堂宗次郎が、白河の関で真田幸村のドローン防衛網を突破していた、その数時間前。
奥州・伊達家のオフィスは、突如として鳴り響いた「凄まじい爆音」に包まれていた。
「ドゥルルルルルッ!! グォォォォォンッ!!」
「な、なんだこの騒音は!? 敵襲か!?」
伊達政宗がレザージャケットを翻して中庭に飛び出すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
巨大なエンジン音(雅楽スピーカー)を轟かせる、真っ黒な巨大装甲馬『松風』。その後ろには、純金で装飾されたリムジンのような超高級・VIP用送迎車(大型の駕籠)が連結されている。
「ヒャッハー!! 迎えに来たぜ、伊達の社長さんよォ!」
松風に跨り、ド派手なグラムロックメイクと真っ赤な長髪を揺らす巨漢。豊臣の特命VIP送迎ドライバー、前田慶次である。
「豊臣の傾奇者、前田慶次……! てめェ、アポもなしにウチの敷地に何の用だ!」
政宗が凄むと、慶次はニヤリと笑い、サングラスをずらした。
「決まってんだろ? 秀吉様からのオーダーだ。……噂の『極上のコレクション(綺羅姫)』を、大坂のプレミアムルームまで安全・最速でデリバリーしに来たのさ。ロックなVIP送迎だぜ?」
「ふざけんな! 俺は綺羅を渡すなんて一言も……!」
政宗が刀に手をかけようとした、その時だった。
「……お兄様、お待ちください」
中庭に、桜色の小袖を着た綺羅が現れた。彼女の手には、小さなボストンバッグ(荷物)が握られている。
「綺羅! お前、まさか……!」
「伊達の会社と、お兄様たちを守るための、ウィンウィンの契約です。……あたし、行きます」
綺羅は、震える足を必死に隠し、慶次を真っ直ぐに見上げた。
「ホォウ。田舎のベンチャー社長の妹にしちゃ、なかなか肝が据わったイイ瞳してんじゃねェか」
慶次は面白そうに口角を上げた。
「気に入ったぜ、お姫様! 俺の松風の超特急VIPドライブ、酔わないように気ィつけな!」
「待てェッ!! 綺羅ァァッ!!」
政宗や成実が止めに入る前に、慶次は綺羅を素早く黄金の駕籠へと乗せ、松風のアクセル(手綱)を全開に捻った。
「グォォォォォォンッ!!」
凄まじい土煙と爆音を残し、グラムロック・ドライバーは、綺羅を乗せて関東への街道を猛スピードで駆け抜けていった。
***
現在。
白河の関を越え、小田原へと続く一本道。
『……宗次郎。すまねェ、俺のミスだ。お前が飛び出した後、豊臣の傾奇者に、綺羅が連れ去られちまった……!』
宗次郎の懐に入っていた、伊達家の最新通信機(絡繰トランシーバー)から、政宗の悔しさに満ちた声が響いた。
「……綺羅が、大坂へ」
通信を聞いた宗次郎の足が、ピタリと止まった。
『奴の馬の機動力は異常だ。だが、お前の脚力とショートカットなら、まだ小田原の手前で追いつけるかもしれねェ! 宗次郎、綺羅を……俺の妹を、頼む!』
「……ええ。お任せください、政宗様」
宗次郎は、通信機を懐にしまうと、空を見上げた。
自分が先走って敵陣を叩いている間に、別ルートで彼女が連れ去られてしまった。彼女は、きっと自分が身代わりになることで、誰も傷つかずに済むと本気で信じているのだ。
(誰かの居場所を奪い、自分を犠牲にするような優しさは。……本当の奇跡ではありませんよ、綺羅)
ゴキッ、と。
宗次郎の首の骨が鳴った。
ポカポカとした笑顔は完全に消え去り、その瞳には、凍てつくような『絶対零度の夜叉』の光が宿っていた。
「……ロックだか、VIP送迎だか知りませんが。私の大切な人に、勝手に触れないでいただきたい」
ダンッ!!
宗次郎の足元の岩が、凄まじい踏み込みの力で粉々に砕け散った。
十六丁の火縄銃を全身に帯びた夜叉は、常人の視力を超えるスピードで、街道の脇の木々を蹴り、獣道を一直線に駆け抜けていく。
***
「ヒャーハッハッハ!! 最高だぜ松風! このままノンストップで大坂までブッ飛ばすぜェ!」
黄金のVIP駕籠を牽引し、爆音で街道を爆走する前田慶次。
駕籠の中で、綺羅は膝を抱え、流れていく景色を不安げに見つめていた。
(宗次郎……ごめんなさい。あたし、これでよかったんだよね……)
その時。
慶次の頭上、街道の両脇にそびえ立つ高い杉の木の頂上から。
――黒い影が、弾丸のように降ってきた。
「アァン?」
慶次が見上げた瞬間。
ズドォォォォォンッ!!
凄まじい衝撃と共に、松風の鼻先の地面に、分厚い大盾刀『玄武』が深々と突き刺さった。
急ブレーキをかけた松風が、いななきを上げて前足を高く跳ね上げる。
「チィッ! なんだァ!?」
土煙が晴れた街道の中央。
そこに、玄武の柄に手を置き、静かに立ち塞がる男の姿があった。
「……お初にお目にかかります。私は、道端のただの『石ころ』です」
神堂宗次郎。
その両手には、すでに二丁の長銃身の火縄銃が握られ、銃口は正確に慶次の眉間を捉えていた。
「そ、宗次郎……!?」
駕籠の小窓から顔を出した綺羅が、信じられないというように息を呑んだ。
「ホォウ? てめェが、幸村の防衛線をノーダメージで突破したっていう『千銃の夜叉』か。……なるほど、最高にイカれた(ロックな)目をしてやがる」
慶次は、松風から飛び降り、背中に背負っていた巨大な朱槍をドスンと地に突き立てた。
「あの娘の納品は、キャンセルさせていただきます。……置いていきなさい」
宗次郎の声は、地を這うように低く、冷酷だった。
「ギャハハハ! ふざけんな、俺のVIP送迎を途中下車できる奴はいねェんだよ! てめェのその細っこい銃弾で、俺のソウルを撃ち抜けるかァ!?」
慶次の放つ、圧倒的な傾奇者の覇気。
奪われた桜を取り戻すため。
千銃の夜叉と、グラムロック・スーパースターの、魂が激突する『Highway Star』のバトルが、今、幕を開ける。




