第六話:Z世代の狙撃手(スナイパー)と、歩くバグ
【新キャラクター設定資料】
◆ 大谷 吉継
キャラ: 『凄腕ホワイトハッカー / VTuberプロデューサー』風。
豊臣メガバンクのセキュリティ最高責任者。石田三成の親友であり、真田幸村のゲーミング(防衛)環境を裏から構築する裏方。
重度の紫外線アレルギーと潔癖症のため、全身を白い防護服(パーカーとチタン製フルフェイスマスク)で覆っている。肉声は出さず、首元のスピーカーから合成音声で喋る。
口癖: 「セキュリティホールを発見」「ファイアウォールを展開」「三成、お前は少しチル(落ち着く)しろ」。
福島正則が率いる豊臣の輸送部隊が壊滅したというエラー報告は、瞬く間に小田原包囲網の豊臣本陣へと伝わった。
「……正則の野郎が、たった一人の『バグ』に処理されただと?」
本陣の一角に設けられた、巨大なモニターが並ぶサイバーな防衛指揮所。
薄暗い室内で、真っ赤なオーバーサイズのゲーミングパーカーを着た真田幸村が、不機嫌そうにエナジードリンクの缶を叩き潰した。
「GGにも程があるっすよ。あの脳筋パンクロッカー、前に出すぎてエイム(的を絞る力)がガバガバだったんすね」
幸村がヘッドセットのマイク越しにぼやくと、隣のサーバーラックの影から、全身を純白の防護服とチタンマスクで覆った男――大谷吉継が、合成音声のイケボで応えた。
『幸村、相手のスペックを甘く見るな。監視カメラ(忍び)のデータによれば、対象のバグ――伊達家の神堂宗次郎は、放たれた五十の銃弾を歩いて回避し、全兵士の武装のみをピンポイントで破壊している』
「は? チート(不正ツール)っすか? そんな挙動、物理エンジン的にあり得ないっすよ」
『チートではない。極限まで研ぎ澄まされた計算能力と、何億というパターンの弾道予測。……まるで、システムの裏をかく極悪なハッカーだ。三成のコンプライアンス網も突破されかねない。我々の防衛ラインで、確実にデリート(排除)するぞ』
「了解っす。吉継サンは、俺のドローンのPing(通信速度)だけ安定させといてくださいよ。……さぁて、無敗のプロゲーマーのキル・ストリーク(連続撃破)を見せてやるっす」
幸村は、愛用の特注コントローラーを握りしめ、モニターに映し出された街道の映像に、冷たいゲーマーの瞳を向けた。
***
その頃、神堂宗次郎は、奥州と関東を繋ぐ主要街道の難所――切り立った崖に挟まれた『白河の関(防衛ゲート)』に差し掛かっていた。
背中と腰に十六丁の火縄銃。分厚い大盾刀『玄武』。
足取りはどこまでも軽く、まるで晴れた日のピクニックに向かうかのようだが、その瞳だけは『夜叉』の冷たさを保っている。
「……静かですね。虫の音一つしません」
宗次郎が立ち止まり、ふわりと微笑んだ、その瞬間。
――ピピピピピッ!!
頭上の崖から、不気味な電子音(機械音)と共に、無数の小さな影が飛び出してきた。
南蛮の技術と豊臣の資金力で作られた、小型の『爆撃絡繰鳥』の大群だ。その数、ざっと三十機。
『対象をロックオン。これより、デスマッチを開始するっすよ』
ドローンのスピーカーから、幸村の気怠げな声が街道に響き渡る。
「ほう。これは珍しい絡繰ですね」
宗次郎が感心したように見上げた瞬間、三十機のドローンが一斉に急降下し、小型の焙烙火矢(爆弾)を雨あられと投下してきた。
ドドドォォォォンッ!!
宗次郎が立っていた街道が、猛烈な爆発と土煙に包まれる。
『はい、ワンダウン(一人撃破)。……なんだ、チート野郎かと思ったら、ただの的じゃないっすか。吉継サンのデータ、大げさすぎ――』
遠隔操作をしている幸村が、モニター越しに欠伸を噛み殺そうとした、その時。
『幸村! モニターの右下(右舷)を見ろ!』
吉継の合成音声が、焦りを帯びて響いた。
「……え?」
土煙が晴れた街道。
そこには、爆撃のクレーターをまるでケンケンパでもするように、ミリ単位のステップで軽やかに躱し切り、無傷で歩みを進める宗次郎の姿があった。
「嘘だろ……あの爆撃のAOE(効果範囲)を全部避けたっすか!?」
『言ったはずだ、相手は歩くバグだと! 次のウェーブ(波状攻撃)を仕掛けろ!』
「チィッ! ナメんなよ、おっさん!!」
幸村の指先が、コントローラーの上で残像を描くほどのスピードで踊る。
崖の上に隠されていた、三台の巨大な『自動追尾型連装火縄銃』が姿を現し、宗次郎に向かって凄まじい弾幕を張り始めた。
ダダダダダダダダダダッ!!!
息つく暇もない、秒間数十発の凶悪な鉛玉の雨。
しかし。
「……あなたの陣形は、直線的すぎて単調ですね」
宗次郎は、玄武の盾を展開することすらなく、ポカポカとした笑顔のまま、弾幕の中を『歩いて』いた。
首をわずかに傾け、肩を引き、足の運びを半歩ずらす。ただそれだけで、幸村が放つすべての銃弾が、宗次郎の頬や服の端を掠めて虚空へと消えていく。
銃口の熱、火薬の匂い、発射の音のラグ。
宗次郎の『銃闘術』のシミュレーション能力は、幸村のコントローラーの入力速度を、完全に凌駕していたのだ。
「そんな……俺の予測撃ち(エイム・アシスト)が、全部外れるなんて……!」
指揮所で、幸村がガタガタと震える手でコントローラーを操作する。
「さあ、私のターン(反撃)ですね」
宗次郎は、ゆっくりと歩みを進めながら、両手で腰の火縄銃をクロスに抜いた。
彼が狙ったのは、崖の上の巨大な火縄銃ではない。
――バンッ! バンッ! バンッ!
三発の乾いた銃声。
宗次郎が撃ち抜いたのは、崖の上部を支えていた『岩盤の亀裂』のピンポイントの弱点だった。
ゴゴゴゴゴォォォッ!!
銃弾の衝撃で岩盤が崩落し、土砂崩れが三台の自動追尾型火縄銃を綺麗に飲み込んで、完全に破壊した。
『エラー発生。防衛システム、完全に沈黙。……幸村、我々の負けだ』
吉継の冷静な合成音声が、敗北を宣告する。
「クソッ……! クソオォォォッ!!」
幸村は、ゲーミングチェアを蹴り飛ばし、頭を抱えた。無敗の天才ゲーマーが、アナログな火縄銃を持った時代遅れの侍に、完全敗北を喫した瞬間だった。
***
監視カメラ(忍び)の通信が途絶えた白河の関。
宗次郎は、硝煙の匂いを纏いながら、崩落した防衛ゲートの残骸を乗り越えた。
「……綺羅。あなたは今、何を思っていますか」
宗次郎は、遠く、はるか先の空を見つめた。
彼の中の「夜叉」の血が、静かに、しかし熱く沸騰している。
(伊達の会社も、あなたの笑顔も。……この手で、必ず守り抜いてみせますから)
関東への第一の関門を、たった数発の銃弾で突破した神堂宗次郎。
しかし、豊臣メガバンクの誇る強力なエリアマネージャーたちは、まだ全国に無数に存在している。黄金の怪物・秀吉の待つ小田原までは、果てしないデス・ロードが続いていた。




