第五話:千銃の夜叉、爆誕
【新キャラクター設定資料】
◆ 福島 正則
キャラ: 『超攻撃的なパンクロッカー / 破壊のカリスマ』風。
豊臣メガバンクの「子飼いエリート」でありながら、その本性は破壊を愛する過激なパンクロッカー。秀吉を神(教祖)と崇める、狂信的な豊臣信者。清正とは「贱ヶ岳の七本槍」のツートップ。
モヒカン風の兜を被り、全身にスタッズ(鋲)付きの漆黒の陣羽織を纏う。愛槍はエレキギターのような装飾が施された大身鎗。
口癖: 「秀吉様こそが神だッ!」「すべてを破壊にしてやらぁ!」「俺のビート(槍)を聴けッ!」。
深夜。
奥州・伊達家のベンチャーオフィス(城内)は、静寂に包まれていた。
綺羅姫が「秀吉の側室になる」という衝撃のプレゼンを行ってから数時間。誰もが重い空気を抱えたまま、自室で眠れぬ夜を過ごしていた。
神堂宗次郎は、一人、月明かりだけが差し込む道場に立っていた。
道場の床には、彼がいつも背負っている分厚い布袋が置かれている。
(……あたしは、黄金の身代わりにでも、石ころにでもなってやる)
会議室で綺羅が見せた、あの哀しくも気丈な決意の表情が、宗次郎の脳裏に焼き付いて離れない。
彼女は笑っていた。自分が犠牲になれば、それで伊達家のみんなが助かるのだからと。
だが、宗次郎は知っている。誰かの居場所を奪い、誰かの自由を奪って成り立つ平和など、ただの泥舟に過ぎないということを。
「……綺羅。あなたは、バカみたいに優しい人だ」
宗次郎は、静かに布袋の紐を解いた。
中から現れたのは、通常の刀の三倍の厚みを持つ絡繰大盾刀『玄武』。
そして――鈍い鉄の光を放つ、無数の「火縄銃」だった。
「誰かを身代わりにして生き延びるような理不尽な世界なら。……私が、すべて撃ち落としますから」
宗次郎は、長銃身の火縄銃を背中にクロスさせるように背負い、両腰、さらには太もものホルスターへと次々にマウントしていく。さらに懐には、連射が可能な特注の短筒を四丁忍ばせた。
合計十六丁。一人で持ち歩くには常軌を逸した重武装である。
普段の「ポカポカとした平和な剣術指南役」の面影は、そこには微塵もなかった。
氷のように冷たく、すべてを見透かすような鋭い眼光。かつて戦場を震え上がらせた幻の術の極め手。
『千銃の夜叉』が、今ここに覚醒したのだ。
宗次郎が道場を後にし、音もなく城の裏門へと向かったその時だった。
「……待てや、宗次郎。こんな夜更けに、そんな物騒なウェイト(重り)を背負って、どこへ行く気だ?」
闇の中から、巨大なシルエットが立ち上がった。
月光に照らし出されたのは、上半身裸で、己の身長ほどもある大太刀を肩に担いだ伊達成実だった。彼は夜の自主練の最中だったらしい。
「成実様……。夜遅くまでバルクアップ、お疲れ様です」
宗次郎が静かに答えると、成実はギリッと歯を食いしばり、大太刀を宗次郎に突きつけた。
「とぼけるな! お前、綺羅様が身代わりになるって聞いて、ビビって会社(伊達家)から逃げ出す気だな!? 筋肉は決して裏切らないが、お前は仲間を裏切るのか!」
「……逃げるのではありません。私が、豊臣のTOB(買収)を物理的にキャンセルしてくるのです」
「ハッ! 防御しかできない剣術ヘタクソ指南役のお前が、たった一人で上方に行くっていうのか! 笑わせるな! 行くなら俺を倒してから……!」
成実が言葉を言い終わるよりも早く。
――バンッ!!
夜の静寂を切り裂く、乾いた爆音が響いた。
「なっ!?」
成実は驚愕に見開いた目で、自分の手元を見た。
彼が握っていた大太刀の刀身が、根元から綺麗にへし折られていたのだ。
宗次郎は、腰の火縄銃を抜く動作すら見せなかった。瞬きをするよりも速い『早撃ち』。宗次郎の右手には、薄い硝煙を上げる短筒が握られていた。
「成実様。筋肉では、この理不尽な世界は『防御』できません。……綺羅を、頼みます」
宗次郎が短筒をクルリと回して懐にしまうと、成実はへたり込み、「お、お前……一体、何者なんだ……」と呟くことしかできなかった。
***
数日後。
相模国・小田原へと続く主要街道。
豊臣メガバンクグループの巨大な輸送部隊が、列をなして進んでいた。黄金の装飾が施された荷車には、小田原包囲網を維持するための莫大な物資(資金)が積まれている。
護衛の豊臣兵たちは、南蛮渡来のポータブルスピーカーから流れるEDMを聴きながら、ヘラヘラと笑い合っていた。
「あーあ、小田原の連中もさっさとウチの傘下に入りゃいいのによ。タイム・イズ・マネーだぜ」
その時。
街道の正面、陽炎が揺れる道の真ん中に、一人の男が立ち塞がった。
全身に無数の火縄銃を装備し、分厚い大太刀を腰に差した男。神堂宗次郎である。
「あァ? なんだあのダセェ重装備の野郎。おい、そこどけ! 豊臣メガバンクの輸送ルートだぞ!」
豊臣の足軽たちが、一斉に宗次郎に火縄銃の銃口を向けた。
その数、ざっと五十。
「……私の前で、銃口を向けるのはおやめなさい。怪我をしますよ」
宗次郎は、ポカポカとした笑顔のまま、ゆっくりと一歩を踏み出した。
「撃てェ!!」
五十丁の火縄銃が、一斉に火を噴いた。
凄まじい轟音と弾幕。普通ならば、蜂の巣になって即死する状況だ。
しかし。
宗次郎の姿は、弾煙の中から無傷で現れた。
彼は走ってすらいない。まるで雨の日の水たまりを避けるように、ただ「歩いて」いた。
『銃闘術』。
相手の銃口の向き、構えの癖、風向き、発砲のタイミング。それらすべてを瞬時に計算し、「何億という弾道の型」を脳内でシミュレートする。宗次郎にとっては、飛んでくる鉛玉の軌道が、光の線のようにハッキリと見えているのだ。
「ば、バカな! 全部避けただと!?」
「今度はこちらの番です」
宗次郎は、背中と両腰から流れるような動作で火縄銃を抜き放ち、両手で同時に引き金を引いた。
――ダダダダダダダダッ!!
宗次郎が発砲した弾丸は、豊臣兵たちの命を奪うことはない。彼らの持つ火縄銃の銃身、弾薬袋、そして兜の緒だけを、ミリ単位の精度で正確に撃ち抜いていく。
「ひぃぃっ! 銃が壊された!」「兜が飛んだぁ!」
一瞬にして武装解除され、パニックに陥る輸送部隊。
「ヒャーハハハハッ!! なんて極上のビート(銃声)だ! 最高にロックじゃねぇか!!」
突如、輸送部隊の後方から、爆音のギターリフ(のような轟音)が鳴り響いた。
ドゴォォォン! と味方の荷車を蹴り飛ばしながら現れたのは、モヒカン風の兜を被り、全身にスタッズを打ち込んだ漆黒のパンクロッカー、福島正則だった。
「テメェが奥州の伊達から来たっていう、厄介なバグ(侵入者)か! 俺は賤ヶ岳の破壊神、福島正則! 秀吉様の邪魔をする奴は、俺のビートでスクラップにしてやらぁ!!」
正則は、エレキギターのような意匠が施された大身鎗を振り回し、凄まじい跳躍力で宗次郎へと襲いかかった。
「死ねェェェッ! デス・メタル・スラストォォ!!」
音速を超える猛烈な槍の突き。
宗次郎は、腰の『玄武』を抜き放ち、刀身の隠しボタンを押した。
ガシャンッ!!
玄武が扇状に展開し、極厚の大盾となる。
ギィィィィィンッ!!
正則の全力の槍撃と玄武の大盾が激突し、火花が激しく散る。
「ヒャハッ! 硬てぇ盾だな! だが、いつまでもつかな!?」
正則は狂ったように笑いながら、怒涛の連続突きを繰り出す。
「……あなたの音楽は、少しうるさすぎますね」
宗次郎は、玄武の大盾で槍の軌道を完璧に逸らしながら、空いた左手で懐の短筒を抜いた。
「なっ!?」
至近距離。正則の顔面のすぐ横で、宗次郎の短筒が火を噴いた。
――バンッ!!
弾丸は正則の顔を掠め、彼のモヒカン兜の装飾(一番尖っている部分)を見事に撃ち飛ばした。
「ああっ!? 俺のロックな兜が!!」
バランスを崩した正則の胸倉を、宗次郎が玄武の柄で強打する。
「ガハッ……!」
正則は白目を剥き、そのまま地面にドサリと倒れ込んだ。命に別状はないが、完全に気絶している。
「……まずは一人」
宗次郎は、玄武を刀の形態に戻し、煙を上げる短筒をホルスターに収めた。
倒れ伏す豊臣軍の兵士たちが、恐怖に顔を引きつらせて宗次郎を見上げている。
「秀吉に伝えなさい」
宗次郎は、はるか西方、小田原の空を睨みつけ、静かに、しかし絶対の意志を込めて宣言した。
「……綺羅は、誰の身代わりにもさせない。伊達の会社も、私が守る。この千銃の夜叉が、大坂の黄金の城ごと、すべて撃ち落としに行くと」
誰も血を流させない。ただ、理不尽な世界だけを破壊する。
ポカポカとした笑顔の剣術指南役は、愛する人を守るため、たった一人で巨大なメガバンクグループへの下克上の道を歩み始めたのだった。




